ASP第一回配信Mk2 S.アルミラ
T91。
私が目指す最強のEDAを作り出すには、ゲームシステムに関する様々な検証データが必要となります。あれはそのデータを取るために製作した試作機のひとつであり、データ取るためだからって色んな性能を犠牲にしすぎた欠陥機。
普通レベルの操縦技術じゃまともに歩かせるのも困難、そんなEDAが砂色をした空の下を自由自在に飛び回っていました。
「やっぱ良い操縦センスしてますねぇ、あの子。墜落回数たったの2回でもう機体をものにしています」
《墜落するの前提でテストドライバーやらせる人おる?》
《むごい》
《このゲーム、EDAを飛行させるのめちゃくちゃ難しいからな》
《空気抵抗やらなにやらの影響を受けるせいで操作性最悪なんだろ?》
《飛ぶの諦めて陸戦仕様に切り替えるプレイヤーの方が多いくらいッスね》
《現役プレイヤーの9割は飛行を諦めてるらしいぜ》
《飛行はEN消費もでかいしなぁ、よほど良いEMOリアクターとバッテリーを積むか、あるいは大量のイイネを稼げないとすぐにガス欠だ》
《それをヒノワちゃんはようやっとる。っていうかうまいな、彼女の操縦》
《あんな骨みてーなEDAにいきなり乗れ言われてよくも……》
《えらい》
《けなげ》
《涙でそう》
T91をものにしようと、墜落しつつも頑張ったヒノワ。そんな彼女の姿が視聴者たちの好感度を獲得したようです。
素直に頑張る、ただそれだけのことですが私にはできません。ひねくれものの性悪女ってキャラでやってますからね。
だから私では心を掴めないファン層も、彼女ならば惹きつけられるはず。私がヒノワに期待している役割のひとつです。彼女には、私にはできないことをやってもらいたい。色々とね。
っと、黙って余計な事を考えている場合ではありません。沈黙が続くのは配信的によくない。私は配信を盛り上げるべく、ぺらぺらと口を回します。
「T91は先ほども言った通り軽量のメリットデメリットを検証すべく作った機体。限界まで軽量化してあります。重量による速度低下がほぼありません。ただ推進器は高出力のものを装備したので限界スピードはかなりのもの。軽くて早い!」
《フラッシュランナー系のEDAみたいに素早いよな》
《しかもだ、今はまだイイネによるバフがかかっていないんだぜ?》
「そうそう、そういうこと。聞いて驚け、T91はまだまだ本気を出していないのです! なぜならばEMOリアクターをまだ動かしていませんからね!」
《すんません、EMOリアクターってなんですか?》
《感情・物質化・出力・リアクター、イイネをエネルギーへと変換する機械。EDAの動力炉ッス》
「その通り、EDAのメイン動力炉。初見の方のために少しお話しておきましょう」
私はくるくると人差し指を回しつつ、カメラ目線で解説開始。
「LDOはイイネが力になる世界です」
《イイネって、配信画面右下のイイネボタンで送れる応援のこと?》
「それそれ。配信者を応援し、動画の内容を評価するためのポイント。多くのイイネを集められるということは優れた配信者の証、人気者の証明です。で、このLDOにはそのイイネを使って戦うシステムがありまして」
《あー、広告動画でやってた人気が重要みたいなのってそれのことか》
「もっと具体的に解説しましょう。配信中に視聴者から送られてきたイイネは搭乗機体へとチャージされていきます。機体のEMOリアクターを稼働させると、そのチャージされたイイネがENという電力みたいなもんに変換されるのです。このENを消費することで――」
《機体の性能がアップしたりすると!》
「そゆこと!」
《なんとなくわかった! 解説あざーっす》
「ひひひ、どういたしまして。ここまで話せばもう察して頂けたでしょう、T91は件のEMOリアクターをいまだ起動させていません。先ほどからぱらぱらと集まっているイイネをそのまま溜め込んでいる状態。このイイネをENに変えて、スピードアップに使ったらどうなるかっちゅーわけですよ。……なので、ヒノワ!」
私は音声チャットを利用して、コクピットの彼女に声を送ります。
「なに、アルミラちゃん?」
「配信も温まってきました! ここらでEMOリアクターを起動させてみましょう! 人気の力を得たその子が、果たしてどれほどの力を発揮するのか……楽しみですねぇ!」
「ん、わかった!」
「というわけでリスナーの皆さん。T91の性能をさらに引き出すべく、イイネボタンをポチってくださいな」
《了解!》
《イイネボタン1秒間16連打の実力を見せてやるぜ》
《ひとりの視聴者が送れるイイネは1配信1イイネまでだぞ! 連打は意味がないぜ!》
《そんなー》
私が扇動した直後、配信画面に表示されていたイイネ数がだんだんと増え始めました。
いま配信を見ているほぼすべての視聴者がイイネを送ってくれたようです、よい感じの溜まりっぷり。
「集まりましたねぇ、たくさんのイイネが! ヒノワ!」
「ん! T91、EMOリアクター起動!」
コクピットの中でヒノワがそのための操作を行ったのでしょう。T91の全身に伸びるエネルギーケーブルが、淡く発光を始めました。
EMOリアクターが集めたイイネをENに変え、機体の全身に送り込んでいるのです。その大量のENによって、T91はその性能を存分に発揮できる状態へと移行し――――そして流星と化しました。
光の軌跡を空へと刻み、翔ける速度は超高速!
《早っ!?》
《目で追えねぇ!?》
《キモッ!? 早すぎてキモッ!?》
「キモいとは失礼な。しかし実際、よいスピードです。そしてヒノワもさすが!」
我が作品の性能もさることながら、それを制御する彼女の操縦技術もなかなかのもの。ここまでの頑張りでT91の空力特性を把握しきったのでしょう。
良いパートナーを得たと、私が口元に笑みを浮かべた、その直後、
「あれ、機体フレームにダメージ……!?」
「え?」
《ん?》
《お?》
《も?》
《ち?》
ヒノワの焦った声が聞こえてきたと思ったら、T91が胴体から火を噴き、機体が小爆発で砕け始めたのです。
そして、
「あ、これ爆発す……んぎゃー!?」
悲鳴と同時に、ぼんっと。
空の彼方で、T91は大爆発。パイロットもろとも花火になりました。
《ヒノワちゃーん!?》
《ヒノワちゃーん!?》
《ムチャシヤガッテ……》
視聴者たちからのコメントが盛り上がる一方、私はその結末に首を傾げるのです。
「あれぇ?」