超大型機に乗る理由 S.ヒノワ
「……驚きましたわね。あの速度で動く機体を完全に制御し、素手の格闘で敵を仕留めるなんて。それも一撃で」
ティファレトさんからもそんなような音声チャットが。みんなの反応に、アルミラちゃんがいじわるに笑う。
「ひひひ、これがヒノワの実力ですよ。私がこの子をパートナーとして選んだ理由のひとつでもあります。……この子、操縦めっちゃうまい!」
「そ、そうかな?」
「そうですよ」
「そうですわね」
《そうだよ》
《そうッスね》
《んんwwwそうですなwww》
そんなに?
よくわかってない私を、アルミラちゃんはさらに褒めてくる。
「ヒノワは前進のタイミングを見極める判断力、回避精度の高さ、格闘攻撃の狙いの正確さがずば抜けています。近接戦での操縦技術ならランカー並でしょう」
《マジかよ博士!》
《恐ろしいぞ……》
《普段はのほほんとしとるのになぁ》
《どこで操縦を習った?》
《説明書を読んだのよきっと》
「この子がそうなった理由は、去年1年間のソロ活動期間にあります。ヒノワは私と組む前、チャンネル登録者わずか3人の底辺配信者でした。戦闘中に得られるイイネは最大で3。さらに彼女はずっと初期機体で戦っていたんです」
《スケアクロウの初期型EMOリアクターでイイネ数が3だと……ENほとんど使えないな》
《初期型バッテリーは容量が少ないしな》
《戦闘時間、10分が限界ってところかね?》
「そう、ソロ活動中のヒノワの環境だと、戦闘可能な時間が極めて短くなるんですよ。悠長に射撃戦をやってるような暇はなし。威力の高い格闘攻撃で効率的に敵を撃破していかなければなりません。初期機体のスケアクロウは装甲が脆いので、近接戦をやるなら操縦者の回避技術も必須ですし」
《低人気かつ初期機体という縛りプレイみたいな状態で戦っていたら、近接戦がとんでもなく上達したってことか!》
「ソロ活動期間後半の彼女は凄まじかったですよ? 10分しか動けない初期機体で100体の敵を撃破していますし」
《10分で100体!?》
《ひとつの敵にかけられる時間が6秒しかないじゃない!》
《すげぇ。すげぇよヒノワちゃん!》
《なんで無名だったんだ?》
「このゲームの配信者、数百万人いますからねぇ。新しく始めたプレイヤーなんてそうそう見つけてもらえませんよ。それにヒノワ、操縦技術はともかく配信は下手でしたから。配信中はほぼ無言で敵を狩ってるだけですもん。そりゃあ動画サイトの地中に埋まりっぱなしにもなるってもんです」
「……地中に埋まってた私を掘り起こしてくれたのがアルミラちゃんだよ」
「同じ日にゲームを始めた女性プレイヤーってことで縁を感じましてね、ずっと見てましたから。こいつは利用できると思ったわけです。ひひひ」
《アル博士は素直じゃないなぁ》
《実は仲良くなりたかっただけのくせに》
《チューしろ、チュー》
「うっさいですよ視聴者ども」
……1年間、頑張って練習したの、無駄じゃなかったんだなぁ。そのおかげでアルミラちゃんが組もうと思ってくれたわけだし。ちょっとうれしい。
頬を緩ませつつ、視聴者との交流の片手間で他のエネミーをどんどん落としていく。このくらいの相手、鴉ならEMOリアクターなしでも朝飯前だ。
《……なぁ、博士。疑問があるんだが》
「疑問?」
《ヒノワちゃん、回避と格闘が得意な近接型ドライバーなんだよな?》
「そうなりますね」
《……満載した火器による砲撃と、分厚い装甲での防御がメインの超大型機って、ヒノワちゃんにまったくあってないような気がするんだが》
「そうですね、あってません。ヒノワを超大型機に乗せるのはオリンピックの金メダリストを麻雀の大会に出場させるくらいに適正違いな采配です」
《なら、なんで超大型機を使ってんの?》
「ヒノワが好きなんですよ、超大型機」
《納得した》
《好きなら仕方ないですなwww》
《好みのEDAに乗ってこそッスからね、このゲーム》
《趣味はなによりも優先される》
「でしょう? ま、そんなわけでこれからもASPの路線は大艦巨砲主義です。通常サイズのEDAで戦うのはレアケース。レアなヒノワの戦いをこの機会にとくと見ておくことです」
《りょ!》
《しかしほんとえげつねぇ格闘精度だ。装甲の隙間を的確に手刀で抉っている》
《被弾もしてないしな。近接戦の申し子か?》
「こ、ここまで褒められるとちょっと照れるかなぁ?」
「ひひひ、照れろ照れろ。そっちのほうがおもしれーので」
「うぅ……」
顔が熱くなってきた。他のルナオークよりひとまわり巨大な中ボス『ルナオーク・キング』を撃破したあと、私は手でぱたぱたと顔を仰ぐ。
と、ずっと上空で静観していたミカエルが、鴉の隣に降りてきた。
『なんだか私の出番もありませんわね。超大型機がなくともこれほど戦えるとは』
「す、すいません、なんだか」
『構いませんわ。私はそちらのENが尽きるか、想定外の強敵が現れた時にでも備えて待機して――――』
その時、ゾクリ、と。
背中を何かが這い回ったかのような、不気味な感覚に襲われた。
「ひっ!?」
アルミラちゃんも同じ何かを感じたのか、小さく震えて短い悲鳴をあげる。
『…………今の悪寒は』
「……ティファレトさんもなにか感じました?」
『…………ええ』
《なになにどしたん?》
《悪寒?》
《おかん? たかし、ごはん出来たわよー》
《あと5分まってー》
視聴者の小芝居に反応する余裕もない。冷たい気配に喉が渇く。機体のカメラアイを望遠モードにして、『なにか』を探す。
「……あれは?」
クレーターの淵、崖の上に人影が見えた。
望遠モード、さらに拡大。
その人影は女の子だ。
口をさるぐつわで塞がれ、上半身は拘束衣で戒められた、囚人のような格好の女の子。
彼女の目はまっすぐこちらを見つめている。
にやぁっと、その目を細めて彼女は笑う。
瞬間、私はまたあの悪寒に襲われるのだ。
『……あれは!?』
「うわびっくりした! ど、どうしたのティファレトさん?」
突然に叫んだティファレトさんへと問い返すと、彼女は焦った様子で、あの囚人のような女の子の正体を叫ぶ。
『セフィラのナンバー9! 月の管理者・イェソド! セフィラ最恐にして最悪の――――世界を滅ぼす月の魔女!』




