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コンビ配信の準備 S.ヒノワ

 私はアルミラちゃんのマイルームへと連れてこられた。SFチックなデザインの雑貨が並ぶ、ちょっと散らかった一室だ。


 漂う香りは柑橘系。アルミラちゃんのつけている仮想の香水と同じ匂い。


 私はその辺にあった椅子へ適当に腰掛ける。テーブルの上には木彫りのクマの置物が鎮座していた。北海道土産……?


 と、首を傾げているうちに、アルミラちゃんは本題に入る。


「さてさて。さっきも言いましたが、まずはふたりで動画配信をしていくための準備を整えましょう。まずはあなたの外見、アバターの衣装から、ですね」


「衣装……」


「普通のゲームなら好きな服でも着てろって言うところなんですが、動画配信を意識するならそれに向いた衣装っちゅーもんがあります。……っていうかなんですか! あなたのそのやる気のねーファッションは!?」


 ズビシッと、アルミラちゃんが私の額を突っつき叫ぶ。


「いたいいたい! な、なにって……ゲーム開始時にアバターが着ていたものだけど……」


「そうですねぇ真っ白い無地のTシャツに特徴のねぇ水色のズボン! 髪型も初期のクソ地味なセミロング! 無課金アバターセットと呼ばれる格好ですよそいつは!」


「無課金アバター……?」


「昔のゲームだと、無課金プレイヤーはみんなそういう格好してたらしいですよ? ……動画配信においてビジュアルは重要、見た目の可愛いアバター使ってるだけでまあまあ視聴者を獲得できます。つまりその無個性でダッサい姿はそれだけで配信的に損失!」


「な、なるほど……!」


「っていうかよくそんな服を1年も着ていられましたね!? っちゅーわけでお着替えの時間です! 私がデザインした衣装を髪型とメイクの設定つきで送りますのでそれに着替えてください!」


「衣装代は払えないよ? あんまりお金は持ってないから……」


「お金は気にしなくても良いですよ。あなたとの配信がうまくいきゃ、いくらでも稼げるようになるでしょうし」


「それなら、わかった。ありがとう」


 お礼をしつつ、私は本のページをなぞるような動作で指を動かした。その操作で、目の前にホログラムのウィンドウが表示される。アイテム整理、フレンド管理、ログアウト処理など、ゲーム的な操作を行うためのメニュー画面だ。


 それをタッチパネルのように操作して、アルミラちゃんから送られてきたアイテムを受け取った。


【アルミラ式パイロットスーツTYPE2を取得しました】


 さっそく着替えてみよう。


 この世界ではメニュー画面からアバターの服装設定を変更するだけでお着替えが完了する。ドレスとか着物みたいな、現実だと着るだけでも大変な服ですらボタン一発らしい。便利。


 らくらく着替えてから、私は部屋の隅に立てかけられていた鏡の前に立ち――そして凍りついた。


「……こ、れは!?」


 近未来的なアイドル衣装、とでも言うべき? 可愛らしいデザインだが、やたら肌に張り付く素材で身体の線が浮きでてしまう。そのうえ露出度が高い。高すぎる。素肌がめっちゃ露出している。カワイイはカワイイのだが、限りなくエロいに寄ったカワイイだ。


 髪は学校にコレで行ったら怒られるだろうなっていうくらいにおしゃれでカラフルになっていた。派手な彩色のリボンがキュート。


 顔はほどよいメイクで彩られ、なんか瞳の奥には星の模様が浮かんでいる。何のアニメの登場人物?


 まとめると、カワイイ、エロい、派手。


 今までの人生でしたことがないようなすさまじい格好である。そりゃあアバターが赤面するくらいの羞恥心を感じるというもの。


「な、なな、なに、なんなの、なんですかこの衣装!? 人の着るものか!?」


「よいですね、似合ってますよ。例えるならばコスプレイベントに出禁を食らうエロ系コスプレイヤーのような」


「例えが最悪! ……えっ? これを着て活動しろと?」


「イエス! 私の予測ではこれで視聴者が釣れます。大丈夫、LDOにはそれより遥かにヤバい衣装の人もいますから。おぬしなどエロアバター使いとしては最弱。その程度の露出で恥じらうとはエロ四天王の面汚しよ」


「その四天王にはなりたくないなぁ!? というか、衣装だけで視聴者が増えるなら、アルミラちゃんもこれを着るべきでは?」


 道連れにしようとする私の提案に対し、アルミラちゃんはきょとんとした顔で答える。


「え? いやですよそんな痴女みたいな格好で人前に出るの。恥ずかしい」


「人にはさせといて!?」


「ひひひ、言い忘れていましたが私は性悪です。覚悟してくださいねぇ?」


 キャラが濃いなぁ。うらやましい。ともかく衣装は整った。……整ったということにして、私は顔を赤くしたまま着席した。


「さて、次の改善点です。あなたの乗っている機体、EDAに関して」


「私のEDA? ……特に悪くないと思うんだけど」


「そうですねぇ悪くはないんです。……そして良くもない! いまあなたが使ってるのはウォークファイター系EDAスケアクロウ! ゲーム開始時に全てのプレイヤーに与えられる初期機体! さっきの無課金アバターみたいな衣装と同じく地味でふつうで面白みがない、そういう機体です!」


 いいですか、と、アルミラちゃんはさらに一言を挟む。


「LDOにおいては、搭乗する機体もアバターの外見と同じくらいに重要なプレイヤーの『個性』! 何も弄っていない無個性な機体の戦いをわざわざ見に来る者なんてほんのわずか! なのに初期機体って! しかも1年も!」


「……このゲーム、EDAのカスタマイズ自由度が高すぎて、どうすればいいかわからなくて」


「自由度の高さはシステムの複雑さにも繋がりますからね。このゲームのカスタマイズ、本気でやろうと思ったら特殊な技能が必要になりますし。……ところで、私はその特殊な技能を持っているんです。そしてカスタマイズシステムもある程度は理解しています。魔改造しまくったほぼほぼオリジナルの機体、いわゆる『フルカスタムEDA』を作れるくらいにね」


 アルミラちゃんは胸を張り、自信ありげににやっと笑う。


「というわけで、よければ私があなたのための機体――『専用機』を作っちゃります。どんな機体が良いか言ってごらんなさい。できればロボットアニメの機体で例えてもらえるとイメージしやすい」


 好きな機体、と、言われても。


「……わからない。あんまりロボットアニメとかには詳しくないから」


「むぅ。ロボオタならざる者でしたか。では得意な戦い方は?」


「意識したことはないかなぁ……」


「どんな機体でも良いって感じですか。その返答がもっとも困るんですよねぇ……うーん」


 腕を組み、首を傾けるアルミラちゃん。彼女はそのまま少し考え込んで、そうだ、と何かを思いつく。


「……配信の目的自体を『専用機開発』にしてしまいましょうか」


「配信の目的?」


「あなたの配信に足りていなかったもののひとつ、それは目的です。ボスキャラ討伐を目指すとか、対戦モードで頂点を目指すとか、そういう目的がないと視聴者も何を楽しめばいいのかわからないでしょう?」


「言われてみれば」


「そういうとりあえず遊んでみるのスタイルで人気を得るのは難しい。ならば配信になんらかの目的を設定した方がよいとなるわけです。でもそう言われて思い浮かぶこと、特にないのでしょう?」


「うん……」


「だったらあなたが乗る機体、専用機の開発を目的としてしまいましょう。そのために私たちが試行錯誤する様子を配信のメインコンテンツにしてみようじゃないですか。それで最強のEDAを作れれば私の『目的』も叶いますし! そうですねぇ、動画のタイトルは――ASプロジェクト! とか」


「えーえすぷろじぇくと?」


「アルミラのスペシャルマシン開発計画」


「なるほど」


「他に良さげな名前があればそっちでも良いですよ?」


「ううん、私は特に思いつかない。アルミラちゃんの案でいいよ」


「オーケー、決まりです。ついでにギルドの名前も『チームASP』にしちゃっていいですかね?」


「ギルド?」


「LDOにおけるプレイヤーの集まり、チームのことです。多人数で配信をやるにはギルドを設立して、ギルドの共有配信チャンネルを作った方が都合が良いんですよ、システム的に」


「そうなんだ。それなら、ギルド名もおまかせしちゃうね」


「はい任された」


 こうして動画配信の準備が着々と整っていく。


 ……誰かと一緒にこういう相談をするの、ちょっと楽しい。


「色々と決まってきましたねぇ。さぁて、あと準備するべきは――――」


 それ以外にも様々なことを話し合って、ギルド設立などの手続きをやって、準備完了。そしてアルミラちゃんは席を立つ。


「……それじゃさっそく、チームASPの初配信と行きますか?」


「い、いきなり?」


「善は急げってやつですよ。ひひひ!」


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