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ウェルカムトゥディスクレイジタイム S.ヒノワ

 私たちに届いたクエスト参加要請、その発信者は火星にいる――ということでやって来たのは、試験機を飛ばすため何度か訪れたあの荒野である。


(ここ火星だったんだ……)


 といういまさらな気づきは置いておいて、私たちはその荒れ果てた大地の一角に建つ『基地』へと向かった。


「……こ、ここはプレイヤーが建設した拠点みたいですねぇ」


「プレイヤーが建設? 拠点を? 作れるの?」


「つ、作れますよ。LDOは機体以外にも服とか基地とかクラフトできるんです。基地建設の様子を配信するプレイヤーもいるくらい。……この規模の拠点を作るには大量の資材と人員と時間が必要となるでしょうが。私たちもいずれ作りたいですねぇ」


「へぇー……」


 誰かの苦労の結晶、そんな施設の中を歩いているのだ。すごいなぁ、と思いつつ。


「なんだか、アウトローな雰囲気だね」


 砂嵐にも負けないであろう頑丈そうな基地施設、その内装に対する私の感想がそれである。禍々しいドクロマークの旗があちこち垂れ下がっていたり、なにかの巨大な頭蓋骨が装飾として飾られていたり。


 そんな施設で活動しているのは、これまたアウトローな見た目のアバターばかり。顔中にピアスをつけた男性や、全身入れ墨の大男、髪型はスキンヘッドだったりモヒカンだったり、服装は革ジャンだったり上半身裸だったり。


 カメラドローンが基地内部をきょろきょろと映していると、コメント欄に視聴者からの感想が流れた。


《なんというかこう……世紀末だな》


《ポストアポカリプスだな》


《ヒャッハーって叫びながら人間を襲ってそうな人たちがいっぱい!》


 そうそう、ポストアポカリプス、世紀末。文明が滅び秩序が失われた世界で無法に生きる人々の住処、そういう雰囲気なのだ、ここは。


 ところで、私はお化け屋敷とか大丈夫なタイプの人間である。作り物の幽霊とわかっていれば怖くはない。大音量と共に飛び出してくるタイプはさすがにびっくりするけど。


 アウトローな建物はそういう設定でデザインされた作り物、恐ろしい見た目のプレイヤーさんたちも仮想世界を出ればごく普通の一般人だろう。ならばこの場は怖くない。案内係のモヒカンさんの背中を追って、普通にテクテク歩いていける。


 ……一方で、アルミラちゃんはお化け屋敷とかダメなタイプらしい。


「だ、だだ大丈夫ですよねここの人たち? いきなり囲んで鉄パイプで殴ってきたりしませんよね?」


 私の背中に隠れながらおっかなびっくり前へと進むアルミラちゃん。いつもの自信と悪戯心に溢れた性悪スマイルからは想像もできないほどのビビりっぷりだった。


《こうもしおらしい博士は珍しい》


《へなちょこ》


《よわい》


《ざーこざーこ》


「だ、だまらっしゃい……ひぃ!? いまあそこにいる人がナイフ舌なめずりしながらこっち見てたんですけど!?」


「落ち着いてアルミラちゃん、あの人が舐めてるのナイフじゃなくてアイスだよ」


 美味しそうに仮想のアイスをペロペロしている。私も食べたくなってきた、という思考はさておき。


 そんな感じで、アルミラちゃんの怯えっぷりが尋常ではない。そのふにゃふにゃした怯え顔を見ていると、なんだかいじわるしたくなってくる。


「ところでアルミラちゃん、昔見た映画だとポストアポカリプスの世界には人間の皮を剥いで衣服にする人狩り族がいてねぇー……」


「その話をこれ以上に続けたら私はあなたの衣服を剥いでアカウント停止レベルの露出配信を強行させる」


「ごめんなさい」


《LDOのアバター、全裸になっても股間にはなにもないんだけどなー》


《乳首もないしなー》


《LDOのアバターって人間そっくりのアンドロイドって設定だからね。全裸になると関節の継ぎ目とかロボっぽい部位が丸見えでまったくエロくない》


《いや関節の継ぎ目が見えるのはエロいだろ。裸のロボ娘はエロいだろ》


《えっ?》


《えっ?》


 なんか視聴者さんたちは性癖の話をしているし。おっかない場の雰囲気にそぐわぬゆるゆるとした配信をして歩いているうち、いつの間にやら基地の最深部である。


 案内のモヒカンさんがドクロマークの描かれた厳つい鉄の扉を重々しく開き、ちょっぴり威圧的な態度で私たちに入室を促す。


「お入りください。バルバラさまがお待ちです」


 いい演技をしているなと思いつつ、半泣きのアルミラちゃんとカメラドローンと共に部屋の中へ。


 そこは廃品スクラップで組み上げられた玉座の間だった。中央にはボロボロのレッドカーペットが敷かれ、その先に錆びた金属と何かの骨によって完成された玉座がある。


 玉座に座するは長身の女性。顔に刻まれたX字の傷跡、濃いめのメイクに金銀宝石のアクセサリー。ドクロマークが描かれた扇子で優雅に自分をあおいでいる。


 あらくれ者の女王とでもいうべき見た目のアバターだ。私がぺこりと会釈すると、彼女は仰々しく口を開く。


「ようこそ、我らギルド『人喰兵団マンイーター』の居城『リブ・キャッスル』へ。アタシがサブリーダーのバルバラさまだよ」


「サブリーダー……? あ、ヒノワです、こんばんわ」


「あ、アルミラさまですよこんばんわわわ!」


《アルちゃんめっちゃビビっとる》


《顔怖いからね、相手》


 今日のアルミラちゃんは頼りにならなさそう。仕方ないので私が頑張らないと。


「えと、今日はクエストに誘ってくださって、ありがとうございます」


「あっはっはっは! 弾除け程度に使ってあげるよ! このアタシに奉仕できることを光栄に思うが良い!」


「バルバラさまは『こちらこそ依頼を受けて頂きありがとうございます。ぜひとも頼りにさせてください』と仰っております」


 バルバラさんのセリフをモヒカンさんが通訳。トラブルの原因になりそうなロールプレイにはちゃんとフォローを入れる万全の交流態勢。やっぱり見た目のわりに常識人だ、ここの人たち。ちょっぴり安心。


「あの、それで今回のクエストについてなんですけど」


「ゲブラーだよ」


「へ?」


「憎き『ゲブラー』の配信で襲撃が予告されたのさ! このリブ・キャッスルにね! はっ、ヤツらに好き勝手させるつもりは――――」


「あ、あの……」


「なんだい?」


「げぶらー、って?」


《え? ヒノワちゃん『セフィラ』のこと知らんの?》


《いちおう1年ちょっとやってるんだよね?》


《まあ世界観とか興味ない人は気にしないかその辺》


《アルミラさんその辺を教えてないの?》


「……そういえば、ヒノワとこのゲームの世界観について話したことありませんでしたねぇ。まさかのまったくわからないってレベルでした?」


「え? え? せふぃら? え?」


 なんだかその単語を知らない私がおかしいみたいな雰囲気だ。うろたえていると、バルバラさんが呆れ顔で問うてくる。


「お前さん、LDOの世界観についてどれほど理解してる?」


「ロボットの存在する世界で戦うゲーム、くらいは……」


「なるほど、ほぼ無理解ね。ならばこのアタシが教えてやろう」


《教えてくれるんだ……》


《怖い外見に対してやさしい》


《なんでそのやさしさでそんな見た目を……》


「お、お願いします。助かります」


「……えー、それでは、ごほん。LDOの舞台は星暦3040年、現代より1000年ほど先の未来。この時代、人類は太陽系の星々を地球化テラフォーミングし、生活圏を拡大することに成功した。具体的に言うと、この世界の人類は地球以外にも月、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、それと太陽周辺の工業施設に住んでいるのさ」


 なんだか思った以上に壮大な話だった。地球内で完結しているものかと。


「人類は10の星の社会を効率的に管理するべく、10体の惑星管理用AI『セフィラ』を生みだした。ところがセフィラは『マステマ』を名乗る軍団を組織し、人類に反旗を翻す」


《AIの反乱、SFのテンプレですよね》


《ロボットアニメだとあんまないな》


《ロボアニメだとAIの反乱より宇宙人襲来の方がメジャーよな》


「プレイヤーは感情駆動の機動兵器EDAの操縦者ドライバーにして、人の感情を集める配信者ライバー、『ライブドライバー』となり、マステマと人類との戦いに参戦する! ……これがLDOのおおまかな世界観。おわかり?」


「なんとなくわかりました、ありがとうございます。それで、ゲブラーというのは」


「アタシらがいま居るこの火星を任されていた管理用AI。敵の首魁、セフィラシリーズの1体だよ。火星エリアのボスキャラと言ったほうがわかりやすいかね? まあ詳しくは言葉で説明するよりもこれを見たほうが早い」


 バルバラさんがメニュー画面を操作して、誰かの動画配信の記録映像アーカイブを呼び出した。その映像が私たちにもよく見えるようにと、ホロウィンドウを拡大。大画面に映るのは、ビジュアル系バンドみたいなパンクファッションの女の子だ。


『いよう、劣等種ども。火星の管理者・ゲブラーだ。今日はお前らに嬉しいお知らせを持ってきてやったぜ?』

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