それでもやっぱり大きい方が良い S.アルミラ
戻ってきたヒノワは、ずいぶんしょんぼりとしていました。
「……ごめん」
開口一番にコレですからねぇ。
まったく、配信中にガチへこみすると視聴者も反応に困るでしょーが。
なので私は雰囲気を切り替えるべくアイテムインベントリから塗装用のカラースプレー、それもラメ入りのキラッキラしたヤツを取り出して、
「顔が暗いぞ愚か者めがー!」
「ぎゃー!? 目がー!」
《アルミラさん!?》
《ヒノワちゃんの顔がゴールドに!》
《これはひどい行いだ!》
「ひひひ! 顔色が明るくなりましたねぇ! なおカラースプレーには人体に有害な成分が含まれており目や体内に入るとたいへん危険。現実世界で真似しちゃダメだぞ♥」
「だから誰に言ってるの!? あ、視聴者さんたちか……」
《アル博士、顔色が明るいってたぶんそういうことじゃねえんだわ》
「わかってますよぉジョークジョーク。はいタオル」
「うぅ……」
受け取ったタオルで、ヒノワは顔をさっとひとふき。現実世界の塗料と違って簡単に落ちてくれます。便利ですねぇ。
「さてさてヒノワも戻ってきたところで反省会です。こっぴどく負けましたねぇ、敗因は?」
「えと、私がAS01TAUを使いこなせなかった……」
「ぶっぶー! それだけじゃ正解扱いにはしてあげられませーん!」
「ふえ?」
「ほらほらコメント欄をご覧なさい」
《相性負けじゃね? 鈍足高火力機は高速高機動の機体が相手だと厳しいからな》
《相手が悪いッスよ。100位以上のランカーなんて操縦技術も戦闘センスも機体性能も人気もガッチガチの連中ッスから》
《イイネ不足がキツい。今の視聴者数じゃあのデカブツを支えるだけのイイネが集まらないと思う》
「どれもこれもその通りですねぇ。相性負け、相手が悪い、機体の消費ENに対してイイネが足りない、あなたがAS01TAUに慣れていない、その全てが敗因です。例えアナタが機体を完璧に使いこなしていたとしても他の理由で負けていたでしょう。色々と足りていなかった、だから負けるべくして負けたということでー……えーと……」
……こういうセリフは私のキャラじゃあないんですけどねぇ。ちょっと照れくさいけど声にして、ヒノワに伝えます。
「…………お、落ち込まなくても良いってことです。元気出せ! な!」
「……い、いいのかな。アルミラちゃんの機体があったのに、みんなに応援もしてもらったのに」
「良いって言ってるんですよ私が」
《せやせや》
《ランカーに負けたくらいで落ち込んでたらこのゲームやってられねぇぜ!》
《応援はしているが、常勝無敗を求めているわけではない。のんびりやってくれればよい》
私と視聴者どもに励まされ、ヒノワの顔色はカラースプレーに頼らずともちょっぴり明るくなりました。
「わ、かった。ありがとう。次はがんばる!」
「その意気その意気。……と、いうわけで今日の配信はここまでとしましょう。敗北からAS01とTAUユニットの欠点も把握できました。さっそく改良しなければ。ひひひ!」
《次の配信はいつー?》
「AS01とTAUユニットの改良が終わったらやりたいところ。ただしちょっと時間がかかりそうです。なにせあのサイズの武装を弄るとなると、ね?」
《了解ーっす》
《がんばー》
《あのバケモノがさらに強くなるのか。こわいね》
「それではお疲れさまでした、また次の配信で。チャンネル登録もよろしくー」
「えと、おつかれさま、でした。またね」
《あいよおっつー》
《オツカレサーン!》
《おつかー》
《おつわー》
配信終了、っと。
カメラドローンが消えたのを確認してから、私はふうっと一息。それからヒノワに向き直り、頭の中を整理するべく彼女に意見を求めます。
「っちゅーわけで、どうしましょうかね?」
「どうする、って?」
「AS01とTAUユニットの改良プラン。今回の戦いで欠点も見つかりましたし。まず一番厳しいのはイイネ不足ですね。TAUユニットを動かすに必要な大量のEN、それを賄うのは私の手持ちパーツでもっとも高出力なENリアクターを2積みしても不可でした。イイネをくれる視聴者数が足りていない、人気がまだまだ足りていない。なのでもうちょっと省エネな機体にしないと」
「省エネ?」
「機体、というかTAUユニットのサイズを小さくして装備を減らせば色々と節約できます」
「小さくする……それはちょっと、イヤかも」
「む?」
珍しく、ヒノワが私の開発計画に異を唱えてきました。いままでは機体に関してはほぼほぼこっちに任せきりだったというのに。
「大きいから強い。普通じゃない。だから、すごい人が乗った小さい敵とも互角に戦える。私にとってはそれが説得力で……大きいEDAで戦うと、勝てそうって気持ちになれた。……負けちゃったけど」
「なるほど、超大型機に乗ると気分がアガると。やる気の問題ってやつですね。まったく、そんなのは……」
「だ、だめ?」
「……何よりも重要なことじゃあないですか! ひひひ!」
「へ!?」
「どうせ乗るなら好みにピッタリの機体が良いに決まってるじゃあないですか! なによりプレイヤーが楽しむことこそ配信には重要なのですから! 強いけど趣味じゃない機体に嫌々ながら乗ってるようでは視聴者も呆れるってもんです! それに……」
「それに?」
「あなたの趣味はなかなかに個性的です。あなたの要望で作った超大型機のインパクトで、なんとチャンネル登録数が一気に2000人を越えましたからね!」
「そ、そうなの!?」
「そうなんですよ。あなたの持つ趣味と個性は、なかなかにおもしれー。そこから出来上がった機体もおもしれーってことです。あなたもなかなかロボットモノのロマンを理解ってきましたねぇ! ひひひ! ともかくそういうわけで、機体に関してはあなたの趣味にあわせます。要望がある時は遠慮せずに申し出ること。いいですね?」
「わかった。……おもしろい、おもしろい個性か……ふふっ」
「うわぁ急に意味深な笑い方をしないでください不気味だから!?」
「ご、ごめん。でも……ふふふ」
なにかの琴線に触れたのか、ヒノワは嬉しそうにくすくす笑うのです。喜んでいるのなら良いとしましょう。
……ヒノワが自分の機体を要望できるほどロボオタ知識を得ていることは、私としても喜ばしい。ロボオタトークできる知人、貴重ですからね。ひひひ。
「ともかく機体サイズは現状を維持、どころかさらに大型化する方向で改良しておきますよ。相変わらずEN不足に悩まされるでしょうが、そこはちょっとした工夫と、これから視聴者数が増えることに期待しておきましょう」
「ん。ありがとう」
「いえいえ。あと決めておくことは……そうだ、アレがありました。機体の名前とカラーリング、それとエンブレム」
「名前とカラーリングとエンブレム?」
「かっこいい名前、魅力的なカラーリング、パイロットが何者かを主張するためのエンブレム、そういうものがあればより配信映えするでしょう? 有名になればカラーリングやエンブレムから異名をつけられることもありますしね。赤いナントカとか、リボンつきとか」
「確かに、アニメとかだとそういうのある……」
色やエンブレムから来る異名、ロボオタならだいたい好きなのです。私も含めて。
「今まではコンセプトも見た目もコロコロ変わる試験機ばかりでしたのでね、名前はアルファベットと数字だけの簡単なもので済ませていました。カラーリングも見苦しくない最低限。エンブレムもなし。けれど目指す方向性が見えてきた今、そろそろその辺も考えるべき時期ではないかと」
「そっか……それもそうだね」
「っちゅーわけで色々と質問です。好きな色は?」
「黒、かな」
「好きな動物」
「カラス」
「好きな言語は?」
「言語? 日本語、かな。日常的に使っているし」
「好きな神話」
「ごめん、神話はあんまり詳しくないんだ……」
「えーと、あとは好きな食べ物とか――」
ヒノワを質問攻めにすることしばらく。
「……なるほどなるほど。ネーミングの参考にできるデータがいい具合に集まりました。ご協力に感謝。私の趣味とあわせて、いい感じのネーミングを考えておきましょう」
「誕生日とか、座右の銘とか、恋人に求める要素とか、なんかめっちゃ聞かれた……」
「ひひひ、半分は個人的興味からの質問ですけどね! そっかー、誕生日11月11日かー、ゾロ目で良いですねぇ。覚えやすい。誕生日にはなにか送りつけますよ」
「期待しないでおくよ……」
「つれませんねぇ。あ、そうだ。今更ですけどあなた自身が自分の機体につけたい名前とかあります? あるならそっちを優先しますけど」
「ううん、いい。私はあんまりネーミングセンスよくないし。アルミラちゃんに任せるよ」
「りょーかい。さて、良い時間ですので私はそろそろログアウト」
「あ、もう11時か。私はもうちょっと練習してから落ちるよ」
「わかりました。それではまた明日。ばーい」
別れの挨拶を交わしたら、メニュー画面をポチポチと。視界が真っ暗になってから、私の意識は現実へと帰還します。
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