大きくてもムリなもんはムリ S.ヒノワ
イイネがどんどん集まってくる。視聴者が私の要請に応えてくれたのだろう。
「ありがとうみんな! ここからが勝負!」
過去最高数のイイネを、AS01に無理やり詰め込まれた2基の高出力EMOリアクターが変換していく。
通常の2倍の変換効率で、大量のイイネがとんでもない量のENに変わっていく。
機体性能の数値が跳ね上がり、EN不足で使用できなかった武装が解放された。
「いける! ODキャノン開放!」
TAUユニットの艦首がクワガタのハサミみたいに開いて、内側に隠されていた砲身が姿を表す。以前にテストしたODキャノン、あれを大型化させたパワーアップ装備らしい。
発射には以前にもまして大量のENが必要、秘めるはそれに見合う破壊力。
AS01TAUの機種を傾けて、ODキャノンの照準を地面へと向ける。
敵は素早い、直撃させるのは難しい。しかしODキャノンの弾は着弾地点で大爆発を起こすのだ、直撃させずともその爆発に巻き込めば敵を落とせる、はず。
「ENチャージ……完了! ODキャノン、ファイア!」
弾倉に満ちるEN、生み出される破壊の光。私が引き金を引けば、その光は荒れた地面へと飛んでいく。
「どこを狙って――――」
「――――狙い通り!」
「……!?」
息を呑む声が聞こえた。
着弾地点で巻き起こる大爆発、炎と衝撃波が敵を飲み込もうと広がっていく。
ファルケディルナはあとちょっとで炎に飲まれて燃え尽きる。
あとちょっとで……あれ?
「――――なるほど、恐ろしいほどの破壊力と攻撃範囲。遅い敵や多数の相手には最適な武装ですが」
敵の全身に輝きが走った。EMOリアクターが稼働し、エネルギーケーブルが全身にENを送り込んでいることを表現するエフェクト。
直後、夜空色のEDAに備わった推進器が、強烈な光を放つ。光が生み出す加速力で、ファルケディルナは急速前進、炎と衝撃波から逃げ切ってみせた。
爆発は敵を喰らえぬまま収まっていき、後には大穴の空いた荒野と、全身を発光させながら空を舞う敵機が残る。
「単騎の、それも足の早いEDAを相手にするにはいささかオーバーキルかと」
「くぅ!? 対空ミサイル……!」
複数のボタンを慌てて操作、空の敵を落とすための対空ミサイルを発射。AS01TAUの各部に備わったミサイルコンテナから、煙の尾を引き弾が飛ぶ。
しかしさっきと同様、敵にはほとんど当たらない。
何発かは着弾したかのように見えたが、よく見ればファルケディルナの周囲を守る『透明な壁』に弾かれていた。
「バリアフィールド!?」
「10万以上の視聴者から集めたイイネによって支えられるバリアフィールドです。並の攻撃では貫けません。それこそ、数万単位のイイネを源に放たれるような超威力のEN兵器でもなければ」
10万人の視聴者、10万のイイネから得られるENで守りを固めたEDA。こちらも大量のENを投入したEN兵器を使わないとそれを貫けない。
ならば再びODキャノンを……EN不足!
ENが足りない、イイネが足りない。人気の差が、絶対的な壁となる。
「先程の一撃でEN切れのようですね。ならば、通常兵器を破壊すれば反撃はなくなる」
ファルケディルナがガトリングガンを構えた。回転を始める銃身、嵐のような射撃音。
無数の弾丸はAS01TAUの全身を撃ち、ミサイルコンテナを次々と破壊していく。
「あう!?」
コクピットに鳴り響く警報音、モニターに輝くダメージ表示。
怯んではいられない、残った火器で反撃を。
しかし、落とせない。バリアフィールドもあるし、それよりなにより敵に攻撃が当たらない。
素早く動いて回避する、そして素早く狙い撃ってくる。凄まじい操縦技術。
足りない。
私の操縦技術が足りない。
私の人気が足りない。
彼女に届かない。
AS01TAUに備わる火器の8割が破壊された。
オマケに空に浮かぶための推進器までも破壊され、巨体は地面に落下を始める。
「私の怪物が……! けど、それでも……!」
私は残った火器でなんとか敵を落とそうと、落ち行く巨体の中であがく。
しかし苦し紛れの弾丸を悠々と回避して、ファルケディルナはTAUユニットの艦橋部分、AS01の真正面に肉薄してきた。
ウサミミの下のカメラアイが、モニター越しに私を睨みつける。
「くっ……!?」
「よい機体です。最後まで諦めない姿勢も見事。きっとあなたは良い『ライブドライバー』になる。期待しています」
ファルケディルナが大鎌をぶんっと振るう。
その一撃が、AS01を粉砕して――――戦いは終わった。
私の負けだ。
……アルミラちゃんが作り上げてくれた機体と、みんなの応援があったのに、私は。




