大きいから人も集まるんです S.アルミラ
「なんで!? なんでこんなところであの女と当たるんですか!?」
気づけば配信中ということも忘れて、悲鳴みたいな声をあげていました。
ヒノワとマッチングした敵の機体のデザイン、三日月のエンブレム、そして機体名とプレイヤー名。
間違えるはずがない、この敵は間違いなくあの女!
《博士どしたー?》
《そりゃ取り乱しもするッスよ。ミカのファルケディルナゆうたら現在のプレイヤーランキング第7位》
《ランキング30位以内の、いわゆる最上位ランカーってやつッスから》
《まじかよ!?》
《さっきのよりはるかに格上か!?》
《そりゃあ頭を抱えたくもなるか……》
ええその通り、あの女は現在ランキング7位のランカー、一時期はランク4だったこともあるようなLDO世界の最上位層。
けれど、それ以上に……とにかく!
「ヒノワ、気をつけなさい! そいつは生半可な相手じゃ……って外部からの通信は届かないんでしたね!」
《あ、アルちゃん博士? なんからしくないッスよ?》
《奇数を数えて落ち着くんだ》
《ほーら気分の安らぐ呼吸法だよー? ひっひっふー、ひっひっふー》
うっさい黙ってろと危うく叫びかけたところで、多少は正気に戻れました。
ここで視聴者が減るようなことになれば、AS01TAUに送られるイイネも減ってしまう。そうなったらヒノワがますます不利です。
足を引っ張る気はありません。どうにかこうにか感情を抑え込んで――、
「……失礼、最上位ランカーとぶつかって取り乱しました。深呼吸深呼吸。それはそれとしてヤッバいですねぇ」
観戦画面では、AS01TAUが無数のミサイルを発射しています。弾幕から逃げ回るは三日月のエンブレム、ファルケディルナ。
ファルケディルナは重装の機体にハイパワーな推進器を装着し無理やりスピードを与えた無茶な機体、小回りが効かず制御が難しい。並の操縦技術ではマトモに制御できません。
操縦者が平凡ならばあの数のミサイルを回避しきるなぞ不可能、しかしアレを操るのはランク7。
《嘘だろ全弾回避しきった!?》
《なんだあの動き!? 鳥か飛行機かUFOか!?》
《否! あれこそ最上位ランカーの実力!》
《LDOにβテストから参加していたっていう最古参の力だ!》
相変わらず腹立たしいまでに優秀ですねぇあの女!
苛立ちに私が爪を噛んだ直後、観戦画面からミカとヒノワの会話が響きました。
『驚きました、LDOでそれほどの大型兵器が実現可能とは』
『私のパートナーが――アルミラちゃんが頑張って作った機体です! だから勝つ! 勝たねばならない!』
『アルミラ? まさか……いえ、後で考えましょう。こちらとて負けるわけにはいきません。最上位ランカーとしてのプライドと、視聴者の応援に応える義務がありますので』
『応援なら私にだって……そうだ! そろそろEMOリアクターを起動させないとENが! 視聴者さんたち、聞こえていたらイイネを私に!』
ヒノワがセリフで今こそと伝えれば、視聴者がイイネボタンを押し始めます。
《よっしゃー! 送ったらぁー!》
《連射機用意してきたよ》
《だから連打は意味ねーっての!》
ヒノワのために贈られていくイイネ。
さきほどランカーのタクトを落としたこと、それと規格外なAS01TAUのインパクトが人を集めたのか、今日の視聴者数はなんと2000人越え。最高記録です。
これだけ盛り上がった状態で集めたイイネ、そしてAS01TAUの高出力EMOリアクターならば!
「ランカーがなにするものぞってモンですよ! やっちゃりなさい、ヒノワ!」




