大きいから目立つんです S.ヒノワ
私が送られたのは荒野のステージ。視界を覆い尽くすような砂嵐。いつもの荒野よりも悪天候だ。
「うぅ、何も見えない。対戦相手もどこにいるのかわからないし……とりあえずAS01に乗っておこうかな……」
AS01TAUのフィギュアモードは、標準的なEDAのフィギュアモードより何倍も大きい。両手で抱えなければ持てないほどだ。そして大きいゆえに重たい。腕が疲れる。
それをどっこいしょと地面におろしてから、私は音声入力。
「ライブスタート、AS01TAU」
応えて、AS01TAUは眩しい光と共に巨大化。見上げれば首が痛くなるほどに大きく、もはや戦艦にも等しい超大型兵器となった。
その巨体の中で、AS01の本体――つまりコクピットはだいぶ高い位置にある。そこまで登るのは大変だ、はしごを登って甲板を歩いてまたはしごを登って、そしてようやくコクピット。疲れる。
さて、私が乗り込んだ超大型機の中枢は、基本的に一般的なEDAのコクピットと同じ作り。ただ搭載している武装数が多いため、それらを制御するためのスイッチがずらりとならんでいてちょっと狭い。
「えーと、機体の起動は……Eの13のボタン、っと」
アルミラちゃんに教えられた操作法を思い出しつつ、私はAS01TAUを目覚めさせた。
頭部のカメラアイからの映像はもちろん、TAUユニットの各部に備わった補助カメラからの映像もモニターに映し出される。画面数が多くて目が回りそう。
「えーと、こっちは機体の右下のカメラで、こっちが照準用のカメラでー……? えーとえーと……」
投げ出したくなるほどの情報量だが、これは私が求めてアルミラちゃんに作らせたもの。投げ出すわけにはいかない。
……AS01をどういう機体にするか?
好きなロボットを教えろと言われて、私がにわかのロボットアニメ知識から思い出したのは、とにかく『巨大なロボ』である。
その作品においてロボットのサイズは20メートルが標準サイズ、20メートル級のロボット同士が戦うのが戦場の『普通』だった。
私が心惹かれたのは、そんな世界の決戦の場に登場した『その機体』。
その機体のサイズは、なんと全長200メートルを越えていた。一般的なロボの10倍以上、超巨体だ。
普通じゃない規格外の機体に対して、パイロットとなったキャラはごく普通の兵士という設定だった。操縦技術が優れているという描写も特にない、普通の人。
しかして普通の人は、決戦の場において圧倒的な戦力となる。
なにせ機体が常識はずれに大きい。
巨体であるから半端ではない重装甲である、生半可な攻撃は通用しない。
巨体であるから大出力の武器を満載している、その火力は桁違い。
すべての攻撃を跳ね返し、すべての敵を打ち倒す、普通の人を怪物に変えてしまうほどの、バケモノみたいな超巨大兵器。
『普通』に力を与えてくれる普通じゃない機体、そんな存在に、私は心を惹かれたのだ。
私もああいう普通じゃないものになりたい。そう願った私に、アルミラちゃんは覚悟を問うてきた。
『多くの人間は、小さきものが大きなものを倒す物語が好きなんですよ。鬼を倒す一寸法師しかり、邪悪で巨大なドラゴンを人間が狩るという世界各地の逸話しかり、多くのアニメやマンガで小柄な主人公が大柄パワータイプの敵に勝利する展開なんて飽きるほど見たでしょう?』
そう、人が好むのは巨人撃破の物語。
『ロボットアニメにおけるあの手の超大型兵器も同じです。小さな主人公機が巨大な敵を倒す、爽快感溢れるジャイアントキリングの映像を見せるための舞台装置。言ってしまえば噛ませ犬。あなたが憧れるのはそういう星の下に存在する機体です』
超大型機が主人公になることなんてめったに無い。
『それになにより、EDA戦におけるあなたの最大の強みは超大型機だと発揮できない』
向いてないとも言われたのだ。
『それでも、そういう機体が良いですか?』
私は少しだけ考えて、答えた。
『それでも、そういう機体が良い。一寸法師の鬼でも、邪悪なドラゴンでも、大柄パワータイプの敵でもいい。私に向いていなくとも構わない。私は、なにか普通じゃないものになりたい。そして誰より目立って、誰よりも人気者になりたい』
そしたら、良い覚悟、と、アルミラちゃんは笑ってくれた。この機体を作り出してくれた。
この普通じゃない機体となら、アニメの主人公にだって負ける気はしない。
AS01TAUのレーダーが、対戦相手の反応を捉えた。
同時、ちょうどよく砂嵐が弱まる。開けた視界にキラリと映るのは、空を飛びながら迫りくる対戦相手のEDA。
夜空みたいな黒色に月のような黄色がアクセントのカラーリング、右手には大鎌を担ぎ、左手にはごっついガトリングガン。ウサミミのような頭部アンテナが特徴的。
左肩に描かれたエンブレムは『三日月』のデザイン。
私は対戦情報の画面から、相手の名前と機体名を確認した。
「プレイヤーネーム『ミカ』――EDAは『ファルケディルナ』!」
『三日月』のEDAは重そうな見た目に反して素早い、砂塵を切り裂き突っ込んでくる。
けれど小さい。AS01TAUと比べたらあまりに極小。
「大きいほうが、強いんだから!」
私はAS01TAUに備わった対空ミサイルでファルケディルナをロックオン。
引き金を引いて命じる。撃て、と。




