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対戦しよう、新型で! S.ヒノワ

 アルミラちゃんが配信開始のボタンをタップする。


 私が出現したカメラドローンの前で立ち位置を調整していると、早くも集まった視聴者たちがコメントを書き込み始めた。


《アル博士の配信はじまってるじゃないの》


《メシ食いながら見ちゃおっと》


「おっと、配信開始と同時に来るとはなかなか見上げた暇人どもです。えらいっ! というわけでこんばんわ、アルミラです」


「ヒノワです。こんばわ!」


《ちーっす》


《おいっすー》


《今日はなにやるんですー?》


「ひひひ、今日はですねー……なにがいい?」


《質問に質問で返すな》


《聞かないで》


「いえいえ、実を言うと何をやるかは決めています。白衣の裏から取り出したるコレ、なーんだ?」


 アルミラちゃんがカメラへと見せつけるのはフィギュアモードのEDA。


《新型?》


《ちゃんと装甲がついてる》


《なんか今までのヤツよりちゃんとしとるな……》


《まさか!?》


「ひひひ、そのまさか! これぞASP最初の成果! その名もAS01! 戦闘を想定した試作機です! 今までのデータ収集用の試験機とは違いますよこいつぁ!」


《あっ、最強のEDAが完成したわけじゃないんスね。あくまで今回も試験とか試作レベルと》


「もし完成してたら今日でこの配信は終わりですよ?」


《やだー!》


《永遠に未完成でいてほしい》


「少なくとも私が満足するEDAを完成させるまでは続けますよ。ともかく、今回はこのAS01の実戦テストを行う配信です。とはいえ――」


「どこで、何と戦うかが、まだ決まってないんです。他のプレイヤーさんを相手に対戦か、どこかのエリアでPvEか。だから……」


《その辺を俺ら視聴者に決めてもらおうってわけッスね?》


《把握した》


「理解が早くて助かりますねぇ。ひひひ」


《それなら対戦モードのランクマッチで同格の相手と戦うのが無難では?》


《水星エリアいこうぜ! 近接ガチ勢になれるよ♥》


《海王星エリアで水中戦のデータを取ってみてはいかがかな?》


《ランダムマッチでランカーと握手!》


《月エリアの魔法使いどもと戦おうぜ》


「まあまあ慌てないの皆の衆。これからアンケート機能で多数決を取りますからね。民主的~」


 ぽちぽちと、アルミラちゃんがアンケート機能を起動させると、配信画面にふたつの選択肢が浮かぶ。


【1:対戦モードでプレイヤー相手の実戦テスト!】

【2:どっかの星でエネミー相手の実戦テスト!】


 解答の制限時間は30秒。ぽちぽちと、視聴者たちは希望する展開を選んでいく。


《やっぱ対戦かなー》


《ボスキャラに挑んで玉砕するところを見たい》


《対戦で近接ガチ勢と愛し合おう♥》


 30秒はあっという間、集計結果が表示された。


「はいそこまでー、ご協力感謝ー。さてさて結果は……1が63%、2が37%ですか。っちゅーわけでプレイヤー相手で実戦テストをやります。こっちなら機体が破壊されてもペナルティありませんし、考えてみればちょうど良いですね。はい拍手ー」


《ぱちぱちぱちー》


《8888888888》


《めでたいね》


《めでたいのか……?》


 拍手っぽい擬音や手を叩く絵文字がコメント欄を流れていく。にぎやか。……ところで『8』の羅列はどういう意味なの?


「さて、そんじゃやることも決まりました。AS01に『武装』をセットするので、ヒノワはその間に対戦モードのエントリーを済ませといてくださいな」


「はーい」


 フィギュアモードのAS01に『武装』を取り付け始めるアルミラちゃん。カメラドローンに映らないように手元を隠して、いじわるに笑いながら。


 一方の私は言われた通り、対戦モードにエントリーするべくメニュー画面を操作。


「あ、今回はランクマッチとランダムマッチ、どっちをやる?」


《ランクマッチとランダムマッチって?》


《対戦モードのマッチングには2種類あるッス。ひとつはランクマッチ》


《パイロットとしての強さの序列、『ランク』を上げるべく戦っていく真剣勝負の場ッスね。こっちは自分と近いランクの相手とマッチングされるッス、極端に実力差のある相手とあたることはまずナシ》


《もうひとつはランダムマッチ、こっちはエントリーしているプレイヤー全員の中から完全ランダムで対戦相手が決まるッス》


《ランダムなので初心者が遥か格上とぶつかるようなこともあるッスけどね、負けてもランク低下のようなペナルティはなし》


《気楽にエントリーして気楽に戦える、そういうマッチング形式ッスね》


《あとフリー対戦っていう、対戦部屋を建てて好きな相手と対戦するためのモードもあるッス》


《こっちは人脈さえあれば誰とでも戦えるッスよ。身内対戦ってやつッス、今回は関係ないけど》


《ちなみに配信的にはランダムマッチが人気ッスね。マジメなランクマッチでは見られないようなおもしろバトルが起こりやすいッスから》


《撮れ高があるってやつッス》


《なるほどなー》


「マッチングについてはコメントで有識者が解説したとおりですね、感謝感謝。……そうですねぇ、今回はランダムマッチに潜りましょうか。ランクマでマジメに戦うよりも放送事故が起こりやすくて楽しいですから。ひひひ」


「ん。それじゃランダムマッチでエントリーっと」


 メニュー画面に指を滑らせ、決定ボタンをぽんっ。


【試合形式:1VS1 対戦ステージ:指定なし マッチング:ランダム】


【エントリーを受け付けました。対戦相手が決まるまでお待ちください】


「エントリー完了!」


「オーケー、こちらも準備できました。ほいっ」


 アルミラちゃんは、やっぱりカメラドローンに映らないようにして、『武装』を取り付けたAS01を手渡してくる。


 うっ、重い……。


《……なんか博士たちさっきから機体を隠してません?》


《おらー武装も見せろやー!》


「ひひひ、そいつは対戦始まってからのお楽しみです。この子を作るのには苦労しましたのでね、盛大に驚かせたいじゃないですか」


「今日のアルミラちゃんはテンションが高いなぁ。……気持ちはわかる。ひひひ」


《ヒノワちゃんに変な笑い方が感染してしまった》


《教育に悪い》


「失礼な」


 相変わらずな視聴者とアルミラちゃんのやり取り。


 それにくすりと笑った直後、


【対戦相手が決定しました】


【これより対戦エリアへと転送されます】


 マッチング完了と、対戦エリアへの転送を予告するシステムメッセージが視界に浮かんだ。


「おっと、いよいよAS01の初陣ですね。期待してますよ」


「任せて。この子の力を見せてくるよ。……爆発はしないよね?」


「今回は今までの試験機とは違います。信じてくれていいですよ」


 いつものいじわるな笑顔とは違う、真剣で自信にあふれたアルミラちゃんの笑顔。


 その笑顔と、


《頑張れー!》


《応援しとるからなー!》


《イイネが必要になったらいつでも言いな!》


 視聴者さんたちからの応援コメントを受け取りながら、私は対戦エリアへと転送されていく。


 頑張ろうね、AS01。

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