表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/83

ASP何度目かの大爆発 S.ヒノワ

 T99はだいぶ重たい機体らしく、飛行速度はゆっくりめだった。なのでのんびり砂色の空を飛びながら、私は敵の姿を探す。


 と、敵味方の位置を表示するレーダーマップに反応があった。地図上に出現したのは赤い光点、敵キャラを意味する色だ。


 その反応の方へ機体の両目カメラアイを向け、望遠モードで相手の姿を確認する。


「いた」


 例えるならば、鉱物で出来た虫。トゲトゲした金属のボディから外骨格に覆われた足を生やし、荒野をカサカサと歩く怪物だ。


《うわキモッ! 主に足の動きがキモッ! ナニアレ!》


《マステマッスね》


《マステマッス?》


《マステマッスじゃなくて『マステマ』、ッス。LDO世界の敵キャラの総称ッスよ。あのトゲトゲ虫は生物兵器系マステマのスチールニードルビートルさん。略してSNビートル》


《EDAよりも小型で攻撃手段も体当たりのみ。ぶっちゃけ弱いッス》


《普通のRPGで言うところのスライムとかゴブリンレベルのザコ敵ッスよ》


 コメントで視聴者が解説した通りの、強くはないエネミーSNビートル。


 しかし金属甲殻がやたらと硬く、生半可な物理攻撃は跳ね返してしまう面倒くさい敵でもある。戦う際はビーム兵器や火炎放射器、硫酸投射器アシッドガンといった武装を使用したほうが無難。


 T99が装備しているODキャノンは、アルミラちゃん作のビーム兵器だ。SNビートルをふっとばすにはちょうどよい。


「えと、今からあの敵を撃ってみようと思います」


《いよいよ試射か》


《見せてもらおうか、メイドインアルミラの性能とやらを!》


《うっかり他のプレイヤー誤射しないよう周囲を確認してから撃つんだぞ》


「ん。わかってるます!」


 セリフを噛みつつ、コンソールを操作。


「ODキャノン、安全装置セーフティ解除。照準――……」


 私が右手で操縦桿を動かせば、あわせてT99の右腕も動く。敵の群れの中の一匹が、照準のど真ん中に収まるよう狙いを調整。


「撃ちます。3、2、1……ファイア!」


 カチッと、操縦桿に備わった引き金を人差し指で押し込んだ。同時、T99が巨大な人差し指でビームライフルのトリガーを引く。


 機体からENを送り込まれ、アルミラちゃんが作りし武装からは敵を滅する光線が――――放たれない?


「……あれ?」


《……ん?》


《……おや?》


《……不発?》


 再度、トリガー。しかし結果は変わらない。何も起きない。


 機体ステータスをチェック。モニターに警告が表示されている。


【右腕武装:発射不能】


【ENが不足しています】


「……EN不足」


 と、アルミラちゃんからの音声チャット。


「ありゃー、やっぱバッテリーのENだけじゃ発射できませんか」


《バッテリー?》


《EDAはイイネをENに変換して動くということはさっき説明した通りッス》


《しかしイイネがなければまったく動かないとなると、動画配信をしていない時はEDAに乗れなくなってしまうッスよね? それだとちと不便》


《そこで用意されているパーツがバッテリー! あらかじめ容量に応じたENを充填しておける”電池”でして、これを積めばイイネがなくともEDAを動かすことができるんス!》


《それあるなら視聴者のイイネは必要ないのでは?》


《まあイイネなしで戦うようにもできるッスけどね。ただバッテリーだけで動かそうとすると、ENが少ないせいで戦える時間が短くなったり、EN消費の大きい武装を撃てなかったり、機体は本領を発揮しにくいんスよ》


《あくまでバッテリーは補助動力、イイネとEMOリアクターがメイン動力ってことッスね》


《で、今のT99はEMOリアクターを稼働させずバッテリーだけで動いている状態》


《ビームライフルなんかは基本ENを消費して撃つEN武装ッスからね。高出力のビーム兵器を発射するのにバッテリーのENだけじゃ足りないんだと思うッス》


「ぜーんぶ有識者が話してくれるので言うことなしですねぇ。ええ、その通り。ODキャノンをぶっ放すにはたくさんのENが――つまりイイネが必要なのです。というわけで」


《む?》


《お?》


《来るか?》


「視聴者の皆さん、今こそイイネをあの子に。あなたがたの応援で発射しよう、大量破壊兵器!」


《よっしゃ任せろ!》


《イイネボタンを秒間32連打しちゃるわ!》


《ひとりの視聴者が送れるイイネは1配信1イイネって言うとるやろ!》


《そんなー》


 アルミラちゃんの扇動によって、視聴者たちがイイネボタンを押し始めたらしい。イイネ数のカウンターがどんどん増える。そのイイネがT99へと蓄積されていく。


「……いい感じ、イイネが溜まってきた!」


「そのイイネを変換するのはT99に搭載されし高出力EMOリアクター! 少ないイイネからでも大量のENを生み出してくれます! それだけあればODキャノンも撃てるはず!」


「ん! EMOリアクター、起動!」


 アルミラちゃんがノリノリで叫ぶのにあわせて、私はEMOリアクターを稼働させた。EN不足の警告が消える。


「ENチャージ完了……ODキャノン、撃てるよ!」


「ならばドカンといっときましょう!」


「わかった! ODキャノン、ファイア!」


 再度、引き金を引く。大量のENを喰らい、ODキャノンが必殺の光をマガジン内に生成して――発射!


 銃身から輝く光弾が射出された。それは照準通りにSNビートルの群れのど真ん中へ。


 着弾。爆発――大爆発!


 着弾地点から爆炎と爆煙が立ち昇り、熱風と衝撃波が荒野を薙ぎ払っていく。爆発の余波に煽られて、T99がギシギシと軋む。


 揺れるコクピットの中、レーダーマップを確認。赤い光点はすべて消滅、視界にはSNビートルを撃破した、ドロップアイテムを獲得した、などのシステムメッセージがズラリと並ぶ。


「……敵、全滅!」


 伝えると、アルミラちゃんの楽しそうな笑い声が返ってくる。


「ひひひひひ! どーですかこの破壊力! デカい、重い、めっちゃEN食う、オマケに高価な部品を組み込みまくった高級品! そんだけのコストを支払う価値がある素晴らしい兵器でしょう!」


《すっげぇ威力してんなー》


《見てくださいよ空に見事なキノコの雲》


《ロボットアニメだと条約で使用が禁止されているようなやつだ》


《こわいね》


「そうですねぇ恐ろしいですねぇ! これがあれば他のプレイヤーも恐怖で震え上がること間違いなし! ひひひひひ!」


 ……喜んでいるアルミラちゃんとは逆で、コクピットの中の私は嫌な予感に冷や汗を流していた。


「機体、武装、共にオーバーヒート。ダメージ蓄積中……」


《ヒノワちゃんがなんか言うとるぞ?》


《EDAやその武装には、蓄積した熱を表す熱量というパラメータが設定されているんス。この熱量が蓄積しすぎると機体や武装はオーバーヒート、熱暴走ダメージを受け始めてしまうんスね》


《高出力なEMOリアクターはだいたい発熱量が多いんスよ。T99はビーム兵器を使用するため高出力EMOリアクターを搭載した機体。ならば、発熱量もきっと一般的なEDA以上》


《となると、よほど高性能な冷却装置でも搭載していない限り、T99はODキャノンを撃っただけでほぼ確実にオーバーヒートを起こしてしまうッス》


「……アルミラちゃん、この機体の冷却装置は」


「……あまり試験機に予算を使うわけにはいきませんのでね? お金、大事」


「安物ってこと!?」


 どんどんダメージを受け続けるT99。機体ステータスをチェックすれば、腕やら足やらあちこちのパーツが熱で融解、爆発し始めていた。


 やがてダメージは致命的な段階へ――――あ、これ今日も爆発オチだ。


 どかんと、私は機体の爆発に飲み込まれた。HPが0になって、死亡判定。


「んぎゃー!?」


《ヒノワちゃーん!?》


《ヒノワちゃーん!?》


《ムチャシヤガッテ……》


 最後、アルミラちゃんの声が聞こえた気がする。


「……あれぇー?」


 こうしてその日の配信も爆発と共に閉幕となり、私の爆死によってチャンネルの登録者数はまた100人ほど増えた。


 めでたい。



 チームASPのフォロワー数・・・現在1121人。

~今日のEDA~

●T99

HP:2000 EN:100

装甲値:200 運動性:65 移動力:5

特殊能力:EMOリアクター(大)

空:C 陸:C 海:不可 宇:D 機体サイズ:M

操縦者:ヒノワ


●武装

・体当たり

 攻撃力1800 射程1 EN消費5


・ODキャノン

 攻撃力5300 射程3~7(MAP兵器) EN消費150


開発者コメント

「私が作った99機目の試験機です。必殺のODキャノンですべてを滅ぼす! GP◯2! ただしEMOリアクターでENをチャージしないと撃てませんし、1発撃ったらオーバーヒートで爆発しましたけど。ガ◯ダム4号機! ちなみにベースにした機体はウォークファイター系EDAの重装向け機体であるドラグーンの後期型――(めっちゃ長くなったので省略」


操縦者コメント

「えっと、実戦で使うには厳しいEDAだそうです。試験機なので。あとアルミラちゃんが『よろしければブクマと評価とかしていきなさいな!』って言ってました。すいません、なんか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ