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たとえばこれはαルート  作者: 扉野ギロ
第三章 秘密兵器レッドヘアーズ
20/24

9話「行くべきところ-1’」

「ターニング……ポイント……?」

「この状況、そう考えるのが妥当でしょう。この赤いカードを見て、今思い浮かぶことはありますか?」

「思い浮かぶこと、って……それは、コロのものだ」

「ふーん」


フラッシュが物知り顔で頷く。気に入らない表情だ。

ただコロがカードを忘れていっただけのことだろう。それが、ターニングポイント?

だとして、いったい何の分岐点だっていうんだ。


疑問はあるものの、唐突にコロのことが話に浮かんであいつがどこにいるのか気になった。

ハンディデバイスを取り出し、ふと時間を見ると、ここに着いてからまだ一時間程度しか経っていないことに驚く。


「…………ダメだ」


コールはするけど、通話に出ない。

どうせ、物置通りの店のどれかにはいるはずだ。いつもなら折り返しを待つところだけど、今はどことなく雰囲気が違ように感じた。

戻ってきてもらったところでどうしようもないとわかってはいたものの、つい『今どこ?』とメッセージを添えていた。


「それで、どう考えますか?」


デバイスの画面から目を上げると、フラッシュがテーブルに置いた赤のカードをこっちに差し出す。


「どう、って?」


発言の意図を考えながら、俺は赤のカードを受け取った。


「それ、ですよ」


と、フラッシュが俺の手元にある赤のカードを指差す。


「今、あなたの手にあることが無意味だとは思えません。だからおそらく、赤のカードは山台工業の真実――"ナニカの破壊"と関係があるのではないでしょうか?」

「言いたいことはわかるけど、あんただってこれのことは知らなかったんだろ? とはいえ、まあ、繋がっている可能性があるとすれば、『RED HAIRS』だな。ってもそれ以外情報もないけどね」

「それはつまり、レッドヘアーズ、ということですか?」

「だから、そう言ってるだろ」

「いえ、そうではなく。"秘密兵器"レッドヘアーズ、のそれでしょうか?」

「……は? 意味がわからないな」

「ですから、繋がりのことです。あなた方が私のサイトに辿り着いたきっかけです。ちなみに言っておきますが、私は山台工業のことをレッドヘアーズなどと記載してはいませんよ」

「なに言ってんだよ。あのサイトの『秘密兵器レッドヘアーズ』のページからあんたのサイトに辿り着いたんだ。そんなはずないだろ」

「あのサイト?」


フラッシュがあからさまに怪訝な顔をする。


「たしかに、当時私は様々なサイトに山台工業の真実に繋がるリンクを貼っていましたし、どこかには私のコメントが残っていてもおかしくはありません。ただ、私自身が作ったサイトはあの一つだけです。コメントを残しても、それ以外にはなにも作ってはいません」

「そんなはずは――」


改めて、フラッシュのサイトとコロが見つけた例のサイトを比べてみる。

するとたしかに、


「本当だ……」


どこで勘違いをしたのか。フラッシュの言う通り、『山台工業の真実』のサイトにはレッドヘアーズの記載は一文字もなかった。


「山台工業の秘密兵器とは、グルーオンコントロールないし機体Ωに搭載された兵器のことです。そして、本来それに名前はありません」


画面から目が離せない俺に、もう何度目か、わかりきっていることを補足するフラッシュ声が聴こえていた。


「じゃあ、なんなんだ。レッドヘアーズって……」

「さあ、なんでしょうね」


ふふふ、と不気味に笑う声がして俺は顔を上げた。

フラッシュは、声の落ち着きとは真逆の満面の笑みを浮かべていた。


「そもそもは、あなた方に"キダ"のことを伝えるつもりでしたが、回りくどいことをしているうちに事情が変わりました……。レッドヘアーズは、調べる価値が十二分にある。私も手伝いますよ」


つまり、フラッシュはこれ以上俺たちに関わるつもりはなかった、ということなんだろう。

とりあえず、うん、と俺は頷いた。


「それで、キダっていうのは誰なんだ?」


ここまでの話だけでも頭を整理するのに苦労しているというのに、次から次へと新しい情報が入ってくる。

これがいい傾向なのか、正直なところ判断がつかない。

ただ、予想外の展開の連続で理解が追いついていないにも関わらず、それなのに俺の脳みそがコトの真相を知りたがって猛烈に回転しているのを感じていた。


「キダは、アラを殺した人物です」

「アラ?」


覚えがなく訊き返すと、「さっき言ったはずですが」とフラッシュは嘆息した。


「山台工業の真実に最も近づいた男です。そして、私に狩役の目論見を伝え……結果的に、三月あさひと私を結びつけてくれた唯一無二の友人ですよ」


フラッシュの言う、さっき、は山台工業の真実の話のことだったらしい。

そのナニカとグルーオンコントロールのくだりに、どうやら"アラ"という人物が語られていたようだ。

これだけ情報量の多い会話の中で、たかが人ひとりの名前が頭に残るはずもない。


「とにかく、あなたはキダに会ってください」

「会う……って。会ってどうすればいいんだよ」

「だからとにかく、です。あなたには、彼に訊かなければならないことがあるはずですから」

「訊かなければならないこと? どうしてアラを殺したのかってか? そんなの、興味本位の疑問だ。実際俺には関係ないことだね」

「だったら、関係のあることを訊いたら良い。それだけのことですよ」


言うなりフラッシュはふいに席を立った。

どこへ行くつもりなのか。そう口にしかけて、すぐに噤んだ。

いつの間にか、行動の指針を人に任せようとしている。そんなみっともないこと、まるで子供と同じだ。


俺は、そんなんじゃないだろう。

狂いかけている自分を律するためにかぶりを振っていると、ドアベルが鳴った。

反射的に店の出入り口に目を向けると、フラッシュがもう店から出ていくところだ。


見送るつもりでもないけど、なんとなくそっちを見ていると、扉を引いて一旦外に出かけたフラッシュが後ろ向きのまま小さく三歩だけ店内に戻ってくる。


「あら、失礼」


聞き覚えのある声がして、扉を支えるフラッシュの脇から店に入ってきたのは真千子さんだ。

真千子さんは俺を見つけるなり、「いたいた」と近づいてくる。


「どうかしたんですか?」


俺が質問する僅かな間に、チリリン、とまたベルが鳴ってフラッシュの姿は見えなくなっていた。


「あの子、どこか行ったわよ」

「コロならたぶん、暇つぶしの散歩だと思いますけど」


ブンブン、と真千子さんが大げさに首を横に振る。


「慌ててドントウォーリーを呼んでたもの。違うわよ」

「慌てていた? コロが?」

「そうよ。ハヤシがどうのって言ってたわね」

「ハヤシ……」


コロが、慌てて、アッシーを呼んで、ハヤシのところへ。

考えなくてもわかる。

コロは、林理沙のところへ向かったんだろう。理由はおそらく、今しがたフラッシュから聞いた話のどこかに引っかかることがあったからだ。


「なにをしに……」

「私がわかるわけないでしょ」


真千子さんは、さっきまでフラッシュが座っていた位置に腰を下ろすなり「ベネチア」を注文した。


「あの子ちょっと様子がおかしかったし、そのハヤシって人となにかあったんだと思っていたけど?」


と、彼女の目が俺の顔を覗き込む。


「いや、特に揉め事があったとかは無かったと……」


いや、あった。

揉めるということでもなかったけど、たしかあの時コロは『刀は盗まれた物』だと言っていた。

林理沙はその一言に動揺して、そして"クロイソアカンド"の存在を教えてくれた。


妄想の域を出てはいけない考えだけど、林理沙はあの刀が盗品だということを知っていたのかもしれない。

かといって、そのことが原因だとしてもコロが今さら慌てるだろうか。


コロは、彼女についてなにか新しい事実に気がついたのか?

いや違う。思い出したのかもしれない。

刀、林理沙。

二つの共通点は……。


「上山宮……?」

「あっ、それだ。カミヤマミヤ」


唐突に真千子さんが声を上げ、そこで俺は自分が無意識に声を漏らしていたことに気がついた。


「あの子も同じ人の名前言ってたわ。ドントウォーリーを呼んだのは、その直後だった――ってことは、その人のところへ会いに行ったのかしらね」

「それ、ホントっすか。上山宮のことを言っていたって」

「間違いないわよ」


上山宮がとっくに亡くなっているということは、コロも知っているはず。だから、もし"会いに行く"という真千子さんの発想が正しいんだとすれば、それは"林理沙に"だ。


二人の名前が同時に出てきたということは、コロが気づいた何かが林理沙と上山宮に繋がっている可能性が高い。

それが赤のカードとの関連なのか、もしくはあの刀――あいつの記憶に関することなのか……。


なんにせよ、あいつに直接訊けばいいだけのことだ。


「追いかけるの?」


テーブルの端まで腰をずらしたところで、当たり前のことが聞こえた。


「もちろん。あいつを一人できませんし」

「そう」


言いながら、はあ、と真千子さんは大袈裟にため息をついた。

それがどうしてかわざとらしく感じられた。どこか棘のある、ため息だ。


「放っておいても大丈夫じゃない?」

「いや、そうもいかないっすよ。記憶がないせいか、あいつ後先考えないっていうか、大胆なところがあるし」

「問題ないわよ。それでどうこうなるほど治安の悪い時代じゃないでしょ」

「治安、ってそんなの関係ないじゃないですか。それに、あいつの行き先にちょっと思うところもありますし」


俺が席から立つと、「それでもよ」、と真千子さんはまるで引き止めるように言う。


「少しは我慢しなさいよ」

「我慢っていうか、必要なことなんですって。というか、あいつが一人で行った、って教えてくれたのは真千子さんじゃないっすか」

「それはそれよ」

「なんですかそれ。ちょっとなにを言ってるのか……」


困惑する俺をよそに、真千子さんは「座りなさい」と立ったばかりの俺をまた席に促す。

意図の読めない発言に言うことをきく気にもならなかったけど、どうしてか、今彼女を無視するのは憚られた。

仕方なく、ソファの端に腰を戻した。


「聞きなさい」


そう前置きしてじっとこっちを見つめる姿からは、説教でも始めようとする雰囲気を感じる。

だけど、俺に説教されるようなことをした覚えはない。

面倒だ、と思うと勝手に口から息が漏れた。


「ひとりになりたい時なのよ、あの子」

「はあ……」


相変わらず真千子さんの言いたいことがわからないけど、とりあえず頷いた。


「つまりね、考えてみなさいよ。いつもならあなたを呼びに来るじゃない。それなのに、今回は来ていない。それがどういう意味なのか」

「そんなの……」


あいつは気ままなところがある。勝手に行動するのはむしろ当たり前のことだし、俺を呼びに来るのは俺が必要だからだ。

今回のことだって、特に深い意味なんてないに決まっている。

何か閃いて焦っていたなら、尚の事。


わかっているのに、どうしてかポケットの中が気になっていた。

薄く硬い板切れ一枚。

頭に浮かぶ『ターニングポイント』という言葉。

繋がらない電話。


本当に意味がないのか。俺は迷っている。


「とにかく、任せてみればいいじゃない。プロの運び屋がついているんだから、それこそ心配いらないわよ。これまでだって、そんなに危ないことにはなっていないんでしょう。あなただって、それがわかっているからあの子に運び屋を使わせているんでしょう?」

「それは、まあ……」


その通りだ。俺は、あいつを守らなければならない。

だけど、それを気取られてはいけない。そんな気がしている。


俺の曖昧な返事に呆れたのか、真千子さんの口から、ふ、と息の抜ける音がした。


「あの子は今、成長……じゃないけど、なにかが変わりそうなのよ。あの子自身もそれに気がついているのかもしれない。だから一人で行ったのよ」


真千子さんは頬杖をついて、遠くを見つめるような目で視線を天井に移す。


「あなたも保護者の端くれなら、それはわからなければならないの。子どもが独り立ちする時、親は邪魔なんだってさ」

「子どもが……ですか」


なるほど、彼女の遠い目の意味がわかった。

真千子さんは、息子さんのことを思い出しているんだろう。

彼はもう四十半ばくらいで、人間としてはベテランの域に達しようとしている。たしか、今は自分で貿易の会社を経営していたはずだ。


なんにせよ、コロは俺の子どもじゃないし。真千子さんと俺とでは、立場も想いの入れ方が根本的に違う。


「真千子さんもあいつのことを心配してくれているってのはわかりました。でも、とりあえず俺、行きます」


ようやく席を立ってすぐに聴こえたため息には、深い意味があるのはわかった。

でも、振り返るわけにはいかなかった。




支払いを済ませて店を出ると、ビークルから放たれる空気清浄機能の何ともいえない不自然な匂いを感じた。


コーヒーだったり、ポップコーンだったり、アルコールだったり、香水だったり、化粧だったり。

物置通りの生きた営みの香りを感じたあとは、いつもこの街の正しい匂いに違和感を覚える。


ポケットからデバイスを取り出し、画面を覗き込む。

まだ、コロから返事は来ていないようだった。


「あいつ、なにしてんだよ」


時間的に、まだ林理沙のところには着いていないだろう。

それにしても、彼女と会ってコロはどんな話をするつもりなのか。


「…………」


デバイスの連絡先からドントウォーリーを呼び出し、通話をタップする。

一コール、二コール、三コールと――。


『オルミガ』

「……コードネームとか久しぶりに聞いたな」

『ま、たまにはね。今行くから、ちょっと待ってな』


返事をする間もなく通話が切られて、ほんの十数秒だった。

そこら中に響き渡る嘶きのようなモーター音が聴こえた。


大通りに目をやると、ビルとビルに切り取られた向こうの風景に、あの漆黒のスポーツタイプビークルが滑り込んでくる。

そこへ近づこうと歩き始めるのと同時、ビークルの窓が開いた。


そうしてさらに切り取られた小さな空間の向こうで、ハンドルに手をかけたままずっと正面を向いているアッシーの姿が見える。


とにかくと後部ドアを開けてすぐ、


「コロは? どこで降ろしたんだ?」


俺の質問に、アッシーは片手を、いやいや、と振った。


「ミカに任せてあるよ。俺は、ちょっとやることがあったんでね」

「へえ、珍しいこともあるんだな。何か難しい案件か?」

「ま、そんなとこ」


相変わらず前を向いたままの彼の横顔がどこかぼんやりしているように見えて、違和感を覚えた。


「疲れているのか?」

「まさか。こう見えて、一応プロだからね。体調管理は完璧だよ」

「ふーん」


やっぱり、若干彼の声にはハリがないように感じられた。

その意味を疲労以外の原因を考える俺をよそに、「どちらまで?」と聞く声はいつもと変わらない。


「コロだ」

「いつも大変だねえ」


クス、と笑い声が聴こえてすぐにビークルは走り出した。




「……なあ」

「ん?」

「お前の相棒.……フォルミカ、だったよな」

「ああ、そうだよ」

「――って、どんな存在だ?」

「どんな、って……パートナーだよ。御存知のとおり」

「そうじゃなくてさ。なんというか、こう……心配になったりしないか? 都合上、二人で行動することは少ないわけだし」

「それってつまり俺が仕事を未遂にするかってことだろ? だったら、あり得ないなあ」

「……?」


突然何を言い出したのか、意味がわからない。

小首を傾げる俺を、アッシーがミラー越しに覗いていた。


「俺は途中で仕事を投げ出したりしないってことだよ、ご存知のとおりね。それでいて、ミカは俺だと思ってるってこと」

「彼女がお前……って。違う人間だろ?」

「おっしゃる通りだけど、そういうことじゃない。単純な理解の問題だよ。言ってみれば、あいつは俺と同じで、ミカをミカだと思っていないって感じかな。だから、間違いなく仕事は遂行するって思ってる」

「つまり、信頼……ってことか」

「まあ、胡散臭い言い方をすればそういうことだ」


アッシーが、ハハ、と軽快に笑う。


信頼という言葉を胡散臭いと感じていたとは、意外だ。

それをわざわざ回りくどく、パートナーをパートナーだと思っていないとか、自分と同じ、なんて考えている。


アッシーの考え方が、いわゆる信頼と同義なのか、実はよくわからない。

そこにコロとの関係が当てはまるとも感じなかった。

だからむしろ、俺にとってコロはパートナーなんかじゃない。そんな実感を取り戻した気がする。


「だから、愚問ってこと。そもそもお客さんは人間にちゃんとした興味ある人が少ないしな。そういう意味でも心配無用だね」


人間に対するちゃんとした興味がない。

そんな声が大きく聴こえて、ふと顔を上げた。

ミラーには、視線の合っていないアッシーの額が見えている。

少しだけ動揺して、俺は手塚正剛のことを思い浮かべた。彼はたしかに、"ちゃんと"はしていない。


ちゃんとした……。

俺は、ちゃんと上手くやっている。


『翔平、いいか。街ん中で困ってる女を見かけたら、だ。しかもそれが好みの女だったら、お前は守ってやらなきゃならない。それが、運命の出会いってやつだからな』


だから、俺は彼女を守ると決めた。

それが組織とまともなやり取りをした、最後の指令だから。

コロを守っていれば、またちゃんと組織と繋がれるはずだ。

それまではなんとしても、俺は……。


「おっと。これは、すごいな」


突然、アッシーの高揚した声を上げた。視線を前方に向けると、少し先でビークルの列が何かを避けて蛇行しているのがわかる。


「事故だよな?」


物珍しさに、つい身を乗り出す。


「だな。生で見るのは初めてだ」


徐々に事故現場へと近づいていく。

そんな俺たちの脇を、歩道を歩く人々が一様に好奇にニヤつきながら同じ方向へ進んでいる。


前方五台分の距離。

一定の車間で減速するでもなく進んでいくビークルの列に乗って、そして。


一台のビークルが道路を逸れてビルに突っ込んだようだ。

交通の安全は完璧に確保されているからと、道に区別を付けていなかったのが仇となったんだろう。


俺は今、悲惨、を目の当たりにしている。

これまでに何度も思い浮かべた不安が、これほど具体性に欠けていたのか。


砕けたビルの破片とひしゃげたビークル、道に落ちた人の持ち物と人、そこに寄り添う人、それを眺める直立不動の人。

道の端で輝く赤灯が、この空間の切迫した空気感を演出している。


赤い光。

導かれるように視線を救急ビークルへ移し、気づいた。


「三角……じゃない」


知っていたはずのことを忘れていた。

急いでデバイスを取り出し、『三角屋根 家 マーク』を検索する。

トップに表示されているのは、山台工業のホームページだ。

その関連画像に、ある。

真っ黒に塗りつぶされたデフォルメされた家の形のロゴ。


『山台工業は旧来の三角屋根のお家から、ロゴマークを一新します』


記事は、2058年。

つまり、山台工業のビークルが存在する可能性はある。

なら、林理沙は嘘をついていないのかもしれない。


コロも同じことに気がついたんだろうか。


「アッシー、急いでくれ」


僅かに体が座席に押し付けられるのを感じながら、デバイスを探してポケットに手を突っ込むと。また、指先に触れる。

ドクン、と一度だけ鼓動が大袈裟に感じられた。


コロの物だったものが、ここにある。

――ターニングポイント

今、俺だけに与えられた行き先がある。

――ターニングポイント

コロには連絡がつかない。

――ターニングポイント

コロはコロにしか気がつけなかったことがある。

――ターニングポイント


『俺じゃダメなんだよ。いいか? お前がやるんだ。お前にしかできない。翔平、お前が――』



「……オルミガ」

「悪い、ちっと道が混んでるんだ。ここ抜けて車線が増えたらしっかり飛ばすから」

「目的地変更だ」

「は? どこに……」

「山台工業まで」

「――了解」

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