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仕事

いつも運ばれてくる死体をトラックに乗せ、共同の墓地に放り込む。少なくなった寺の僧もその死体の数に驚いている。そんな状況がもう3年も続いている。かつての田園風景も塹壕の迷路と化し、僕が生まれ育った村は砲弾で穴だらけだ。そんな危険なところの目と鼻よりちょっと離れたところで僕は働いている。


「戸崎、お前営業成績また落ちてるぞ、気合い入れ直せ」


上司がいつものように僕に一言を添える。とりあえず頑張りますと一言。


「しっかし、また近くなったな砲撃の音も。」


「軍隊がここまで来ても私たちの仕事は変わりませんよ」


「そうだな、でもこれじゃあ仕事になんないくらいうるせぇな」


「後藤さんの余計な一言よりマシです」


上司にガツンと言える三崎さんが望ましいと思いながらキーボードをカタカタと打ち込む。


「先輩、営業先行ってきます」


「気をつけていけよー」


2年前と比べるとだいぶ軽い注意だった。2年もこのような状況が続くと人々は慣れというものに取り憑かれてしまう。


今日もパトカーのサイレンが鳴り響く。最近はスパイだの、敵国の文化に染まっているだので警察は忙しい。


「株式会社バニシロンの戸崎です。新型のパソコンの件なんですが…」


「工場がやられたか?あそこはここからも近くて大丈夫かと思ったんだけどなぁ」


「すいません…納入はいつになるか目星がつきません、申し訳ございません」


「まぁしょうがねぇよな、この戦争がわりぃよ。」


すると急にサイレンが鳴り響く


「空襲警報、空襲警報。京民はただちに地下または安全な場所へ避難してください。空襲警報・・・」


「ちっ、またかよ。戸崎さん、こっちですこっち。お、もうシャッター閉めていいぞ。」


ビルの1部の区画が防御体制に入る。シャッターが閉まると真っ暗になり、外では京防空飛行隊と敵の戦闘が繰り広げられている。対空砲の音もかすかに聞こえるが、この音の具合でこのシェルターがいかに安全がわかる。


「薬莢で家に空いたらどうするんだっての」


「熊澤さんの家はどちらの方なんですか?」


「俺は京東の田山の方だよ、戸崎さんあんたはどちらに?」


「私は京南の方です」


「京南って言ったって広いからわかんねーよ」


「あ、すいません…樽野池の方です」


「樽野池…あそこか、あの団地しかないところ!」


「そうですそうです!上京してきて5年なんですけど、まだ慣れなくて…」


「おう、そうか…そろそろサイレンも止まったな。おい、シャッター開けろ !」


シャッターが上がると、京南から煙が上がっていた。


「戸崎さん、とりあえず帰った方がいいんじゃねーか?あの煙だと爆弾じゃなくて、飛行機の煙だと思うが…」


「一人暮らしですし、家が破壊されても補助金出るので大丈夫ですよ。帰れなかったら会社で寝ます」


「そうか…まぁ仕事の件は俺が何とか上司に言っておくから、気にしないでな」


「誠に申し訳ございません」


「気にすんなって!じゃあ気をつけてな」


営業先から出ると数台のサイレンの音がした。京南に向かって音が遠のいていく。あまり大きな火事ではないらしい。


「ただいま帰りました」


「おう、お疲れ。お前災難だったな。もし家やられてたら俺ん家泊まるか?」


「大丈夫です、会社で寝ます。」


「そうか、で、怒ってたか?」


「大丈夫でした。熊澤さんがなんとかしてくれるそうです。とりあえず一件落着です」


「良かったな!お前もこのままあの頃の成績を取り戻せ!」


「後藤さん少し静かにしてもらっていいですか?電話中です。」


「あぁ…すまん、、、あ、戸崎ちょっと早いが上がっていいぞ、家見てこい」


「じゃあお先に失礼します」


「おう、お疲れ。」


自転車で坂道を上がる。久しぶりに見た夕陽に感動しながら上機嫌にイヤホンから流れる歌を口ずさむ。この坂を登りきったら樽野池だ。


パン!


チャリのタイヤがパンクした音がイヤホンを突き抜けて僕の耳に入る。


「ちっ、感動してる時になんだよ、歩きはきついってぇ」


タイヤには大きな釘が刺さっていた。


釘がなぜそこにあるかという事実よりも、早く帰れなくなることにイライラしながらチャリを押しながら帰る。幸いにも家は空襲の被害を受けていないようだった。


団地の5階のボタンを押して、家に帰るとただいまの一言。もちろんおかえりという言葉は返ってこない。帰ったらいつもテレビを見る。テレビで流れるのは戦況報告とプロパガンダ映像のみだが、テレビを何となくつけるという子供の時から風習が抜けず、電気の無駄とわかりながらもご飯を食べながらテレビの映像を見続ける。ご飯を食べ終わり、お風呂に入る。


「つめて!」


今日の空襲でガスが止まったらしい。ご飯はいつもレンジで温めるだけなので、ガスが止まっていることに気づかなかった。しょうがなく冷水をあびてさっさと上がった。そこからはスマホタイム。SNSの投稿が最近とても減っているなぁと思いながら、友達の投稿を見る。自分で何かを上げるということはしないが、ただ見ているだけでも楽しい。半年前まではゲームも出来ていたが、節電を呼びかけた政府は最初にゲームの一時停止を決定した。SNSもいつその対象に選ばれるか分からない。なので、今のうちに思っいきり楽しんでおく。スマホのニュースも動画サイトも全て戦争のものに変わってしまった。もはや、スマホはプロパガンダの1部になっていた。夜10時。今日は早く寝よう。


布団は敷きっぱなしなので寝る準備は簡単だ。電気を消し、防空道具の確認をして眠りについた。


そんな1年前の日常を塹壕の中で思い出す。


「戸崎!田山第2防衛拠点に増援を頼む、このままでは壊滅と伝えてきてくれ!気をつけてな、死ぬなよ!」


これが僕の今の仕事だ。





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