第三話
「さて。
花とレースの国、ジャルダンの第二王子アンドレ・クレル・ジャルダン様。」
笑いネコのような笑顔を作ったマヤがアンドレに相対する。
「なんだ!
誤魔化しや言い訳は通じないぞ!」
メイド相手と、鼻で笑いながらアンドレが見下す。
「花びらの国コリエペタル五国の皇位継承選抜の辞退を承認いたしました。
中央の国、見届け人マヤが宣言いたします。」
「…!!!!」
黒髪メイドの言葉を聞き漏らすまいと静まり返っていたホールがどよめいた。
(通訳って言ったのに… 最後通牒なのね、マヤ…)
一匹目のネコが逃げ出したクラリスは、扇の影でため息をついた。
わたくしは、クラリス・シエル・アクチュエル。
花びらの国コリエペタル五国は、その名の通り、中央の国を真ん中にして花びらのように五つの国が周りを囲んでいます。
中央の国は、その昔、神話に登場する始まりの竜女神、眠れる竜皇が娘のために創った国だそうです。花びらの国コリエペタル五国は、竜皇の娘を護るため騎士達が興したと聞いています。
そして中欧の国は、一子相伝の女系。
一代に一人しか後継者は生まれないのです。
そして、生まれるのは、必ず娘です。
竜皇女と呼ばれるその娘の伴侶は、花びらの国コリエペタル五国の王族から選ばれています。
婚姻可能な独身の王族には、手の甲に竜紋が現れるのです。
つまり、竜紋が竜皇女の伴侶候補の証というわけです。
この国にも、三人の伴侶候補(婚約者候補ですわね。)がいました。
第一王子、王弟殿下、そして、先ほど辞退となった第二王子殿下です。
あ、今はお二人になりましたね。
竜紋は対象者全てに現れます。
これ、実は、参加は強制ですけど、辞退は自由なんです。
「辞める」とか、「辞退」とか、「破棄」と言った言葉で意志を表明して、中央の国の役職付きの者が承認すれば、すぐに候補から外れることができます。
なんたって、五つの国の婚姻可能な男性王族ほとんどが対象なんですよ?
どんどん候補者を減らしていかないとやってられません!
この方は、自ら申し出てくださったので、簡単でしたわね。
「なっ!
なにを言っている!
メイド如きが!
竜紋の主たる、私が竜皇の後継であることは明白な事実!
世迷いごとを申すな!」
あら?
この方、第二王子だそうですけど、ご存知ないのかしら?
皇位継承者の配偶者の選定の仕組みなので、この方や他の婚約者候補の方が皇位に就くことは無いのですが…
「………」
静まり返ったホールに、慌ただしい足音が聞こえてくる。
先ほど第二王子が登場してきた中央扉が開かれた。
ちなみに、今回はちゃんと侍従が扉を開けていた。
「アンドレ!
この、大馬鹿者が!!」
入ってきたのは、時間通りに入場の準備をしていた、国主アンリ三世だった。
侍従にホールでの息子の振る舞いを知らされ、急いでやって来たのである。