008話:段ボールの中にあったもの
そうだ、確かに呼び鈴で目が覚めたんだっけ
「紅水―」
紅水はそこが気に入ったらしく、赤ソファの上で横になって本を読んでいた。
「何かあった?」
「昨日言ってた宅配便ってどうなったの?」
「ああ、荷物なら今日のうちに再送されるわー」
あ、今日中に届くんだ、てっきり明日になるのかと思っていた。
「どうやら荷物が結構場所を取ってしまっているらしくて。
まあ、こちらとしても荷物をできるだけ早く受け取りたいから変更しなかったのだけれど」
「ふーん、今日の何時?」
まだ寝巻のままだし
「それは」
自分の隣に置いてあった機械を俺に差し出す。
「何これ」
二つ折り携帯、いわゆるガラケーだった。もちろんカラーリングは赤なわけだが、
2020年スマホすら持たない人がいる中で これを持ってる人は初めて見た。
「この番号にかけたらすぐに荷物が届くようにしてあるわ」
ピッピッピッとテンキーを慣れた手つきで押して画面を見せる。
「?」
「そうねー スマホで検索したら出ると思うわ{富山 交通渋滞}で調べてみて」
言われたワードをスマホのインターネットに入力すると、
本当だ、確かに交通規制があるみたいだ。
「なになに… 国道8号線の一部が交通規制で、大規模な渋滞があり、、、」
「交通規制されている道路ってもしかして、、、」
「ええ。全部うちの荷物を乗せた車よ」
マップに目が奪われる。
「ちょ、ちょっと待って」
2つや3つ、多くても10個はいかないだろうと踏んでいたが実際は大きく異なった。
それに自分が公道を独占していることに申し訳なくなった
「2階にあがればよくわかるわ。」
そんなに多くの荷物を俺と紅水の二人で今日中に運び入れるというのは相当酷だし、不可能だ。
やれやれ… また、あれを使うのか
長時間分身を作ってみろ、今度こそ帰らぬ人になっちまう。
促されて2階の一室へ向かう。
がちゃり
相変わらず何も置いていない質素な部屋だ。
12月の大掃除で掃除をしたばかりなので ほこりも全く見当たらない。
現在19時。窓からは暗闇の中にぽつぽつと灯りが見える。
「すぐに運び入れをしよう ほかの車からしてみればいい迷惑だ」
すると紅美はうん、とうなづき携帯の相手に向かってこう話した。
「それでは荷物の運び入れ お願いします。」
そう言ったかと思うと家の門の前が照らされる。
トラックのヘッドランプだ。
こちらからゆっくりとまっすぐに光の線が奥へ奥へと伸びていく。
ぽつ、ぽつ、ぽつぽつ、 ぽつつつつつつつつつつつつつつ、、、
大量の、ざっと数えたら50台以上もの運送トラックが俺の家の前に一本の列を作っているのだ!! 実際目で見る分インパクトは大きかった
開いた口が閉まらない。
「…………いったい、俺は何を送られたんだ!?」
紅水は窓から目を移して、俺の肩を両手でギュッとつかむ。
「お父さんとお母さんがあなたに残した“記憶”よ」
印鑑を探すのに二分ほど時間がかかった。
普段は印鑑ではなくボールペンを持っていくのだが今日はそれだとまずい。
荷物はたいてい1つ,多くても2つしか届かないのでサインで済ませていたが、今回それで対応しようとすると労力、時間という点で全くの不向きだ
故に印鑑 故の印鑑
50台もあるトラックいっぱいに荷物が入っているとしたらその数は1000個以上だろう。
方法は分かっている 分身の利用だ。ただ体力的に体を増やしていられるのは多く見積もって1時間だ
果たして間に合うだろうか
「1時間以内で終わらせたい」
「また使うの!? 身体大丈夫なの?」
「うん、 だから手伝ってほしい。」
「何をすればいい?」
確かに紅水の科学魔法に頼りたい気持ちはあったが、
「そうだな、 それじゃあ印鑑を荷物に押して家の中に置いて行ってほしい」
大事な荷物なので得体のしれない魔法は使いたくなかったのだ。
「わかったわ!」
役割分担としてはこうだ。
紅水 印鑑班 :荷物の受け取り
俺(達) バケツリレー班:荷物の運び入れ
俺(達) 開封班 :荷物の開封・段ボールのおりたたみ
こうして制限時間1時間、二人?きりの荷物の受け取りの幕が切られた
印鑑班の神代が高さ1メートルほどの段ボールに最初の印を押す。
変な話だが現在、広さ8畳の和室に俺は5人いる。皆荷物が来るのを待っているのだ。
受け取り係はもう動き始めているだろう、あちらにはこちらの2倍の10人を向かわせた。
重そうな荷物かもしれないので2人×5のバケツリレーで運び込ませる。
まず余裕で家からあふれ出るだろうが、そこは俺達5人の段ボールの処理力にかかっている。
折り畳みは畳の上で、ということだ。冗談はこれぐらいにして、
「え?」「うわ、ほんとだ」「え! 中身なんだよ?」
廊下のバケツリレー班がざわついている。和室から顔を出す。
「おい。何かあったのか」
「荷物が、、、軽すぎる。 まるで何も入っていないみたいだ!」
「え? んなわけねーだろ」
和室を出て、バケツ班から段ボールを受け取る。
「 …本当だ 」
(いったい中身は何が入っているんだ?)
考えている時間がもったいないので、とりあえずそのままこちらに流すように言う。
こちらに騒ぎの荷物が届いた。
急いで封を開けて中身を調べてみる。
中身は透明
緩衝材だ。空気が一つ一つの袋に入っているタイプのやつ
他に説明書も何も入っていない。あるのはただただ透明な冷蔵庫サイズのビニール袋の集まりのみ。
「え? 空気が送られた…訳ないよな」
大きな一つの透明な塊を取り出して、目を凝らす。
さっきは見えなかったが透けて中に何かがあるのに気づく。
シルエットからしてマッチケースぐらいだ
大きな段ボールの中で非常に厳重に包まれていたのだ。今回送られた物は相当大事なものなのだろう。
ゆっくりと梱包をはがし、やっとのこと目標物にたどり着いた。
段ボールはもう畳み終わったようだ
全方向が電子基盤に囲まれている。その中で気になる部品が二つあった。 一つは基盤に修正液だろうか白い字で“0001”と書いてあるもの 二つ目は全ての部品の中で一番大きなこの7つの穴の空いたカラフルな部品。穴の周りはそれぞれ違う色で塗られている。(赤 橙 黄 緑 青 藍 紫)
基盤の端に蝶番がついていて開きそうだ。
中身が気になるが下手にいじって壊すといけないからやめておくことにした。
(先に言ってしまうと、もしここで基盤を開いていたら、僕ら2人は学校ではなく冥土に行っていたのだが)
ちょっとしてから二つ目が手元に届くが、開封すると同じものが入っていた。
違う点といえばナンバーが“0002”となっているだけだ。
梱包を解くのに時間がかかりそうなのでバケツリレー班から5人をこちらに移した。
10人がかりでナンバーの入った機械を集めていく。
はがしては畳み、のくり返し。
最後の一台が秋野家から帰っていくのが見える。ラストスパートだ!
時間は少しオーバーの1時間5分。梱包がまだ解いていないものが15個ほどあるが、神代の協力もあって何とか全て運び入れることができた。
運び入れの時に気づいたが
奇妙なことに あて先も送り主も「秋野白露」となっていた。
俺が一度荷物を宅配業者に預けておいた、という意味だ
もちろん、これらの荷物に覚えはない。
身体の方は問題ない、至って健常だ。
身体を元に戻し、残りの段ボールも開ける。
最後の荷物には機械だけではなく茶封筒が同封されていた。
中には金属製の小さい鍵のようなものが1つと2枚の手紙が入っていた
1枚目
『このピンでメモリを解除してください。くれぐれも穴を間違う、強引に開けようとするなどはしないでください。
地球上のすべてを制御することができる危険な物なので以上のようなことがあれば、自動的に中の主要回路が焼かれ使えなくなります』
2枚目
0001…赤
0002…黄
0003…紫
0004…赤
・
・
・
1000…青
…といったようにそれぞれのナンバー(0001~1000)の鍵の挿し口が紙の表と裏にびっしりと書かれていた
あの時開けようとした蝶番はダミーだったというわけだ。危うく壊してしまうところだった。
2枚目の紙に従ってナンバー0001の基盤に空いている7つの穴(赤 橙 黄 緑 青 藍 紫)の中から赤で囲まれた穴に鍵を差し込む。
すると周りの基盤がバラバラになって落ち、手の中には1本のUSBメモリが残っていた。
「これが、父さんたちの記憶…」
続く