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【打ち切り】Byte(バイト)!!!!!!!!   作者: ゆぴた
第一章   白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
7/19

007話:3/50



「ピンポーン!!」


呼び鈴で目が覚める。多分神代さんが言ってた宅配便だ


「んーーーーーーー!!」


布団にくるまりながら伸びをする。


まるで水をたっぷりと含んだ雑巾を絞った時のように疲れが搾り出た感覚だ。身体がとても軽い。


時針が5を指しているが、朝の5時か夕方の5時か 果たしてどっちだ?


ベッドから降りて窓の外を見て答えが後者だと分かった。


たんたんたんっ と階段を下りるとリビングの摺りガラスに人影が映っている。


ドアを開けてリビングに入る。


「おはよう…」


夕陽に照らされてフローリングが朱色に染まっている。


「あら 今起こしに行こうとしたのに... おはよう」

エプロン姿の女子高生が振り返る。


昨日から秋野家で一緒に住むことになった少女、神代紅水。


テーブルには奥の2席にまたしても向かい合うように料理が置かれていた。


二人して座り、食事にする。


「(!)」


「味、変だった?」


「いや、その  うまいです。このカレー!」


料理には自信がある俺だが、いつも食べているものとかけ離れておいしい。


テーブルにはカレーライスとサラダと牛乳が乗っている。


サラダも口に運ぶ


「(⁉)」


「口に合わなかった?」


不安そうな目でこちらを見てくる神代さん。


「いや、その逆! 非常にうまいです…」


何かがおかしい。俺の知っているサラダは野菜を切ってお好みにドレッシングをかけて完成なんだが。 


どの工程でこんな美味しさが生まれたのだろう、


カレーもそうだ。これに至っては異次元だ。にんじん、ジャガイモ、玉ねぎ、豚肉、カレールウ。皿にある料理にはやはりこれら以外入っているようには思えない。


どうしたらこんな味が出せるのか、秘伝のスパイスとか入れたとか?


もしかしたら母さんあたりが料理も教えたのかもしれないし…


う~ん


「おいしさで目が覚めてました!  料理、誰かに教えてもらったとかですか。」


「いいえ、 別段そうでもないわ。というか料理するのが初めてだし。」


む!?  


「え? 初めて?」


「ええ。まな板だって初めて使ったくらいだし」


「料理中に【何か味が良くなる魔法】とか使いましたか」


ピタッ


神代のこれまでにこにこしていた顔が凍る。


「あー…」


両手で頭を抱える。これから二人で暮らしていく中であわよくば料理担当を曜日で分けたいと思っていたが  


そうかあー …そうなのかああー


得体のしれないものは副作用が怖いからできれば避けたいのだが、、、


いや、もしかしたら


「料理から魔法を抜き出すことって出来ますか?」


「え、ええ!? できなくはないわ」


笑顔が引きつったままだ


「えい!」


皿の上にはカットされてすらいない野菜が でんでんでん! と積まれていた。


ニンジンもすべてがカット前。おそらくこれが“おいしくする魔法の液体”なのだろう、その横には怪しげなドロッとしたのが入っている瓶がある。


要するに、だ。  神代さんがこの料理を作るにあたってやったことは、野菜の袋を破って外に出す事のみということになる。


「食材を洗うまではやったのだけれど、」


…だそうだ。


「………」


「話が少し離れますが、神代さんは頭いいですか?」


「どうなんでしょうね、判断基準になるか分からないけど一応編入試験は満点で受かっていたわ」


「ええ!? あの難しいテストを!」


だとしたら頭いいなんてレベルじゃない


俺の通う公立小倉高校は偏差値もそこまで悪くない。中の上ぐらいだ。


そんな学校だが、編入試験はえげつないほど難しいことで有名だ。


問題のレベルと合格点が恐ろしく高い。


数学だけ授業でやったが、酷い問題だったのを覚えている。絶対に受からせないテストだった。


圧倒的に一般試験を受けた方が楽だし、合格率も全然違う。


レベル的にはそこらの大学生でも解けないのでは、と先生は言っていたが。


それを、満点!? 


「失礼なことを聞きますが、」


「いいえ、これは魔法もカンニングペーパーも何も使っていないわ」


次の俺のセリフを読んだのか、俺の失礼極まりない質問にスッと差し込むように答える。


「というよりも 魔法には一瞬で頭をよくする、なんてものはないのよ」


「すみませんでした、馬鹿にするようなこと言っちゃって」


「いいのよ、そんなこと 気にしなくていいわ それより、」


「それより?」


「ええ、 料理の腕の話だったけれどどうしていきなり勉強の事を聞いたのかなって」


「俺、文系科目が壊滅的なんですよ。センター試験の小説の点数が3点でしたね、ははは」


「センターレベルでさ、さ、さんてん!?」


紅水さんは牛乳を飲んでいたが、ゲホゲホッとせき込んだ。


「あははははは…」


(俺も実際に答え合わせをしていて驚いた。一問目の「言葉の意味を答える問題」に〇を付けたら、恐ろしいことにそれ以降は全部“ぺけ”だった!)


「あなた、やっぱり心が無いのかもしれないわね。 だからあんな人を追い出すなんてことができたのよ」


そう言ったかと思うと、ゆっくり机から身を乗り出して俺の頭に軽くげんこつをした。


こつんっ!


「いてっ  あれは本当にごめん!他人と関わるのが怖かったんだ その、以後気を付けます」


出来立てほやほやの黒歴史に触れられ、心にこべりついたものを外に出し切ってしまった。


「なら、いいのよ」


そして再び椅子に座ると、紅水はこちらから顔を隠すように逆方向を向いた。ほっと胸をなでおろしているのがちらりと見えた。


「あ。今、俺タメ口で…」


「これまで言っていなかったから私が悪いのだけれど  私、白露と年2つしか離れていないのよ。…そうね、呼ぶときは紅水でいいわ」


話が落ち着いたようなので俺はスプーンを手にし食事を再開する。


「で、何なのかしら」


「あ、なんで勉強について聞いたのかって?  その、まあ。俺たちって片方ができないことはもう片方はできるじゃん、それならできる者ができない者に教えるってのはどうかな って思ったんだけど」


少し考えて紅水は口を開く。


「確かに、相補性ね そうね、そうしましょう」


食事、皿洗いを終え自分の部屋に戻る。


ベッドにばたっと倒れる。今日は金曜日だからアルバイトがないが他人と長時間話したせいで頭がへとへとだ。


「ごちそうさま」という言葉もずっと使っていなかったので、紅水に言われて久しぶりに口にした。


こんな大事な言葉を忘れてしまっていたのだから、今考えると一人暮らしというのも怖いものだ。


さてさて、二人暮らしか…  ふっ 全く、これから面倒だな!   


さらば、他を嫌っていた過去の自分よ


俺は進化したぞ


続く







あれ?


…そういえば、なんか忘れているような、  


ああっ! 宅配便!


上ってきた階段をまた降りる。


「紅水―――」


続く




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