006話:冷やせばOK
紅水を見つけるために真夜中道を走り回っていた白露は警察官に捕まり、署に連れていかれてしまう。そこにいたのは他でもない神代紅水本人だった。
紅水を見つけるために真夜中道を走り回っていた白露は警察官に捕まり、署に連れていかれてしまう。そこにいたのは他でもない神代紅水本人だった。
ぼふん!!
軽い爆発が目の前で起き、男は淡い桃色の煙に包まれる。
10秒ほどして視界が明瞭になる。
彼女は元の姿に戻り(これもおそらく科学魔法なのだろう)、パイプ椅子に座ったぼろぼろの男を ふわり と正面から抱き寄せた。
セッケンの香りをした柔らかいものに顔が埋もれる。
神代紅水を前にして張り詰めていた疲れが体じゅうの関節という関節からどっとあふれ出る。
「あ、ああ…」
「ごめんなさい 酷いことをさせてしまったわ」
彼女の表情は確認できなかった。だがその代わりに、その頬を伝ってきたものが俺の服ににじんだのが感じられた。
「…とんでもない、 僕のほうこそすみませんでした あんなこと言ってしまって」
…と口では言ったものの実際は、この時俺はいつ事切れてもおかしくない状況だった。
体が休まっていたのは俺が気絶していたあの3時間ほどで、今日はバイトと紅水探しで分身を2回使ってしまった。
分身が使える、という俺の便利な能力にも弱点がある。それが“超疲労”である。身体の数を増やすというのは大変なことなのだ。
何度も実験してみたが、分身を一回使ったら最低でも8時間寝なくては翌日に“支障“が出る。
そんな男が普段の半分以下の睡眠で、2倍のエネルギーを使ったのだ。
体は熱く、これまでにないほどの頭痛、身体の節々が痛みにむしばまれている。
視界も摺りガラス越しに見たときのようで、モノは輪郭を持たずいろんな色が混ざって見える。はじめて彼女の存在を視覚で確認できたのは、触れられるほど近くに来られるまではっきりとわからなかった。
ガタガタンッ!! シューーーーーーーッ
椅子から崩れ落ちると同時に全身から湯気がふき出る。今度は蒸気で何も見えなくなった。
「かはあっっ!!」
ああ!体が熱い! 頭もはたらかない… 脳がパンパンに腫れあがっている
「すぐ戻るからちょっと待ってて!」
そう残して彼女は個室を走って出て行った。
神代さんは俺の押収されたリストなどの後始末を終わらせ、10秒して帰ってきた。
「いえ……家」
「わかったわ」
彼女はいつの間に組んできたのだろう、青いポリバケツにいっぱいの水が足元に置いてある。
俺の身体は彼女におんぶされて車の助手席へ運ばれる。
体が熱い!熱い! ここまで酷い痛みは久しぶりだ。
運転席が埋まると車が動き出す。
喉から声を絞り出す。
「コンビニ、、、寄って」
「わかったわ それで何を買えばいいの?」
「こ 氷…」
ここで俺の意識は再び遠のいた。
「え、ええ わかったわ!!」
神代さんは一瞬不思議そうな顔をしていたが何かを察したらしく、しっかりとうなずく。
時間4時にして二人を乗せた車が秋野家に着いた。空が朝日のせいで黄色味を帯びている。
スズメか何かが鳴いている。(幻聴かもしれないがやはり判別がつかない。)
俺は車からゆっくりと降ろされ、彼女の肩を借りて風呂場まで歩く。
車に大量の氷が乗っているのが見えた。
帰り道で俺が言ったとおり、彼女は何から何までやってくれた。
・俺を風呂場まで連れていき
・風呂場を買ってきた氷でいっぱいにして氷水を作り
・その中に服のまま秋野白露を投入し
・蓋をして30分待つ
お姫様抱っこされた身体は、文字通り服のまま(といってもさすがに制服は脱がせられたが)バスタブに入れられた。
じゅうううううううぅっ… 激しい音を立てて水面が跳ねる。
あっという間に風呂場が水蒸気で満たされ、真っ白になった。氷はみるみる解け、20分もするとすべてが水になった。
体内からほとんどの熱を捨てることができ少し楽になったので風呂場から上がり、神代さんがいるであろうリビングへ向かう。
案の定 あの時と同じ、真っ赤なソファーに座っていた。
ばっとこちらを向き、こちらに駆け寄る
「白露君! 身体は大丈夫なの!?」
「はい、もう大丈夫そうです」
「よかった、本当によかった!! 」
「神代さん、本当に助かりました ありがとうございました」
頭を下げる。
「階段、 一緒に行くわ」
階段を上がり、自分の部屋のベッドの中に入る。
「おやすみなさい 明日の学校は 午後から ではなく 休む、と伝えておくわ。」
「はい。 お願いします それと、あの。」
「え?何か欲しいものあったら買ってくるけれど」
「えーっと その 何ていうか!!
これからもよろしくお願いしても いいですか?」
「うんっっ!!」
逆光で紅水のシルエットが見える
「ふふふっ」
翌朝、風呂場によると 熱で5,6か所穴の開いた下着が風呂場に落ちていたので捨てておいた。
続く