002話:世界を救うのは、”今から”じゃなくて”明日から”?
「・・・」
他人から何かを頼まれたらまずじっくり考えてから答えを出す。その時の感情で流されてはだめだ。
「今日の宿題の範囲教えて」、や 「今日保健委員いないから代わりに連れて行ってくれるか」 などとは全く違うスケール
俺が入ったクラス係は、その職業柄このようなレベルのお願いは結構される。
俺は学級委員長なのだ
あれは委員決めの時だった
<高校一年生 四月>
他の係はすぐに決まっていくが、クラス委員はなかなか手をあげる者がいない。
そんな責任が重そうな係、誰も自分からやろう とは思わないだろうから当然だ。
(俺のクラスの生徒はまさしくそう考えているからこんな有様だ)
俺も初めはそんなふうに「誰がやるか!んなもん」と頬杖をつきながら話を聞いていた。
10分ほどの居眠りから目が覚める。
「しまっ...」
残りの係を見てみると、
国語係、○○実行委員×2、クラス委員
時すでに遅し
国語係はまずない。国語苦手だし、現代文と古典の二つ分もテスト課題回収なんて嫌である。
課題が教科書に直接書き込みとかは地獄だ。国語の教科書重いし。なんで苦手科目のために大変な思いして階段を降りなきゃいけないんだ。これに入るのは無理。
○○実行委員、これは国語係とは違う意味で最悪だ。
男女一人ずつでそれぞれ二名。
そこまでガチでイベントを盛り上げる気がない俺が立候補してじゃんけんに勝っちゃったら相手の子も嫌だろし、何せ俺が嫌だ
自分が好きでもないことをガチでやらなきゃいけない時ほど残酷なことはない。ノイローゼになっちまう。
というか、多分積極的にやりたいっていう人がいるはずだ。
俺の前に座っている奴なんか起きているにもかかわらず一回も手を挙げていない。おそらく実行委員狙ってんだろうなー……
適材適所! これもダメ
『誰もいないなら後で決めるぞー いないのかー やりたい人』
手をゆっくりと天井に突き上げる
『…はい。僕やってみたいです』
「あなたに世界を救ってほしいの「嫌ですっ」」
セリフがもともと一つであったかのように見事にかぶせる。
当然断る。まずは、そう。面倒だから。世界救うって… 何やらされるのやら………
そして、俺にそれはできないから。確かに俺には普通に人が持ちえないとある能力を持っている。だがこれは世界修復なんてレベルには使えっこない。もし世界救助に使おうなら10割の確率で俺が死ぬ。救う前に俺が死ぬ!
くどくど話すよりもこうやって簡潔に述べることによって時間短縮にもなるし話の要点も分かりやすい。
あなたは世界を救ってくれますか 面倒なので嫌です。
無駄のない理想的な会話だ パーフェクト
こうやって理由も言えたら◎
「あなたにしかできない事なの!」
俺のほうへ乗り込んできて訴える からかっているようには全く見えない。
だが、俺にも俺の生活がある。無理なものは無理だ。
それでも一応話を聞いてみることにする
「まず世界を救えって言ってたけど 今の世界は十分平和じゃないんですか?」
「今はね… でも近いうちに世界は滅ぶの」
「なんでそう言い切れるんですか? 未来から来たってやつですか?」
「いいえ 違うわ 予言がそう言っているの」
真面目な雰囲気の中で話を進んでいくが、この言葉を聞いた瞬間 信じるに値しないと判断し協力を拒もうと思った。
予言なんて根拠としては薄すぎる。
「1999年7月に人類が滅亡する」多くの人々がパニック状態におちいった、ノストラダムスの大予言
「2000年になるとコンピューターが誤作動を起こす」とされた2000年問題
結局のところ二つとも起きなかった
「信ぴょう性はあるの?」
「この予言をしたのは 白露君のお父さんとお母さんだよ…」
「え?」
耳を疑った。
「父さんと母さんが…? そんな予言を? ええ!?」
それならば予言なんてものではない。完全にもれなく証明された式みたいなものだ。
父さん達がそういうなら、この話は本当なのかもしれない。
「というか、父さんと母さんを知っているの!? あなたは一体…」
「私は神代 紅水。 私に科学を教えてくれたのが彼らなの。
だからこの家には何度か来たことがあるわ。」
「科学?」
「見せましょうか?」
俺が“世界滅亡”と“両親の教え子の存在”のダブルパンチで何も言えないまま話がすすむ。
すっと片手を俺の前に出したかと思うと
「携帯電話貸してくれる?」
ポケットの底から携帯電話を取り出し、彼女に渡す。充電をするのを忘れて寝てしまったので残りがもうない。
神代紅水は10秒ほどスマホを握って、そして俺に返す
「はい、できたわ」
「?」何も変わったところは見受けられない。
Ver.も変わっていないし、表面の傷も変わらずいつものままだ。
とりあえず受け取って画面をタッチすると
「お、おおっ!!」
さっきまで真っ赤だったバッテリーマークが緑色に!フル充電されていた!
「ま、こんな感じかしら」
「あなた人間ですか?」
「もちろんよ 風呂場で見たでしょ!」
目をつむって大っぴらに言う。
…だとしたらこれは“科学”ではなく もはや“魔法”だ!
「わ、わかった。信じます。でも、頼む人を間違っていますよ。他をあたってください」
俺は文字通り普通の高校生、異常なのは年収とちょっとした能力のみ。世界を何とかできるようなものは持ち合わせていない。
普通は彼女みたいに魔法が使えたりする人がこういうのにスカウトされるんじゃないの?
「残念ながら俺には何にもできません その…科学でしたっけ? そういうのもできませんし。 明らかに神代さんのほうが向いていると思いますよ」
「これはあなたにしかできない事なの! 秋野白露にしかできない事なの!!」
ああもう!どうにでもなれ!!
「…分かりましたよ それで、何をすればいいの?」
「今日は何もすることはないわ することといえば、、明日に向けてよく寝ておくことぐらいかしら」
「何もすることがない ?」
“世界を救う”のは明日から?善は急げでしょ!
「ええ 届くのが明日からだから」
何が!? と聞きたかったが 時計を見てみると
6時5分
もうバイトに行かなければいけない時間だ。
「すみません 今からアルバイト行かなきゃいけないので…」
席を立つ。
「そうね 行ってらっしゃい 残りはまた後でするわ」
家に帰ってからもこれかあ…
急いで2階の自分の家に向かって出かける準備をする。帰りに雨が降っているかもしれないので大きなリュックサックの中に17人分のバイト服に加え、折り畳み傘を服と同じ数だけ入れる。
階段から廊下までを駆けて玄関を出る。
空はまだ分厚い雲がかかっているが下校時と比べたらずいぶん弱まり、無視できるほどになった。
家を出てそのまま自転車にまたがり、いつもの廃工場に向かう。
続く