017話:スクエア!!
短めです!!
摩天楼、ニューヨーク中央病院
この国で一番高い場所。
その中でも屋上に、俺はだらりと仰向けに寝ころんでいる。
ここより上には誰もいない。
下には自分じゃない人間が、数えきれないくらいいるはずだが
無視できてしまう。気にならない。
この世に自分だけしかいないみたいだ……
(ふぅ………ぅ……)
風が身体に沿って吹き流れ、どこかに消える。
それが不定期に繰り返される。
ドライクさんが落ち着いたら帰ってこい、と階段を戻っていった。
他にも何か言ってた気がするけど、覚えていない
さほど重要なことではなかった気がする
雲の塊が流れていく。
(静かだな……)
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地べたに寝転がったままどれほど時間がたっただろう。
軽く痛くなってきたので、身体を起こして膝を抱える。
「すううぅぅ……」
ゆっくりと息をすって
「はぁ……」
はく。
呼吸をするためだけに時間を使っている。
考えなくてもできる単純な事を、意識をして行っている。
なんとも贅沢な呼吸だろう
それを何度か行う。
いつのまにか真っ白に染まっていた皮膚は赤みを取り戻し、
心臓は元通り、振り子のようにゆっくりと等間隔で脈を刻む。
日が少し下がって眩しさが引く。
最初と比べるとかなり落ち着いてきた。
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心が落ち着くと頭を使える余裕が出てきた。
バイトと学校。
日本でこの日の高さなら、俺はまだ授業を受けている。
学校はともかく、アルバイト先に迷惑をかけてしまっているだろうな。
「携帯、携帯……」
電源ボタンを押すも画面に光は灯らない。
爆発の時に巻き込まれて壊れたのか、ただの充電切れなのか……
普段ならこんな事態になっても何とかして連絡を取るのだが、その気になれない。
脳も体もそろって、まだこのままだらだらしていたい、サボっていたいと
俺が立ち上がるのを拒絶しているのだ。
「まぁ、いいか……」
俺は電話をかけなかった。
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俺にとって、両親を失ってカラになった心を満たす手段が“働くこと”だった。
いや、違うな。それは後付けだ。バイトを始めた動機はもちろん金だった。
金が無ければモノも食えなくて死ぬ。死ぬのは嫌だったので俺は年幼くして労働に着手した。
俺の心は知らぬうちに満たされていった。仕事仲間との会話、新しいメニューの追加……
退屈しなかった。
『退屈しない……』が『楽しい!!』になるまで時間はかからなかった。
……それでも確かに、休みたいと思ったことは山ほどあった。
マネージャーに叱られたり、テストを控えていたりすると何もやりたくない!!と思うこともしばしばあった。そんな時でも鞭を入れてペダルに足をかけていた。
そして、今。
こうして安らぎの時を過ごせて、欲求は満たされているはずなのに……
「気持ち悪い……」
両手で顔を覆う。
偽物の手が顔の右側の熱をひんやり、と奪う。
「俺は今、何をすればいいんだ……」
具体的に何をすればいいのかが明確になっていたあの頃が本当にうらやましい。
ちゅんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
音のあったところに目をやると、ここから1mほど先に一か所だけ薄い煙が出ているところがあった。
「何だろう?」
煙も風に流され、発煙物がベールを脱ぐ。
小さな黒い物体が硬い地面に穴をあけている。
今度は遠くの方から音が聞こえた。
「こんにちは」
屋上を囲むようにして建てられている格子柵に直立している。
「御垣守 衛士です」
ミカキモリ、と名乗る同い年くらいの少年に驚く。
遠かったので顔が判らなかったが年齢の推定根拠としては彼を包んでいる学ランは十分だった。
彼の異様なさまは怖かった。空バケツに恐怖という勢いよく水がどうどう、と投げ込まれる。
「あ。 あぁ……」
さっきまで立ち上がることを拒否していた筋肉は、骨は。
立ち上がりそこから早く建物の中に逃げよ!と必死に全身に命令する。
……だが
腰が抜けてしまい、それは不可能だった。
両手で握って俺にその先を向ける。
どす黒い、ここがアメリカだと実感できる“真の”音源を目にする。
本能的に俺はこう感じた。
(殺される……‼)
続く