014話:15の縞・50の星
今回は長めです!
今回は結構状況が動きます!
現在10時半で3コマ目の授業が始まるころだが、俺は今、制服ではなくパジャマを着ている。
―――俺は、今日から高校に行かないのだ。 “行けない”といった方が適切かもしれない。
話は昨日にさかのぼる。
【4月7日 (火)】
俺は帰宅してすぐにアルバイトの用意をした。
今日はそれぞれで6時間働くことになっている
毎回使わせてもらっている廃工場に全員で入ってそこで体をまとめる。
ここで面倒なのは16人分の衣服の回収だ。
バイトの時から着ていた、帽子から下着に至るまで全ての衣類は各々が立っていたその場に残る。きれいにたたんでリュックサックの中にいれてから、真っ暗ななか自転車をこいで家に向かう。
身体をまとめてから時間がたっていないので結構体がだるく、そしてつらい。
だがそんな苦しみも今日働いて得たお金のことを考えると消え去ってしまう。
時給1000円を6時間、それが17個あるわけだから……… むふふふ……
最近はずっと6時間でバイトを入れていたからたんまり儲かった。
………いやきっとそれだけじゃないな
家に帰ったら自分を待ってくれる人がいる、それがどれほどうれしく、いかに幸せな事か……
仕方なく扉を自分で開け、“ただいま”とは言ってみるが返事はなく、一人で夕飯を食べていたあの頃とはもう違うんだな………
自転車をとめてインターホンに向かって叫ぶ
「たっだいまーーーっ!!」
「はーい、おかえりー!! 今開けるねー」
扉の奥から二回の鍵の解錠音が聞こえ、扉が開く。
「おかえり、お疲れ様!!」
「ただいま!!」
晩御飯をさっと作ってしまって食卓につく。
「「いただきます」」
「今日もおいしい!」
「そうか!良かった 今日はちょっと隠し味で味噌を入れてみたんだ」
「なんだかいつもと味が違うように思ったのはそれだったんだ!」
そんな話が20分ほど続いて
「さて、明日から学校だ! 忘れ物しないようにしなくちゃな!」
「……あのさ、そのことなんだけど、」
「うん?」
「白露、君は明日から学校に行っちゃだめなの」
「え?」
***************************
「え?」
「だから白露は明日から学校に行ってはいけません!」
……
箸を茶碗にことりと置く。
「おいおい、唐突だな…… エイプリルフールは先週であって、今日は7日だぞ」
「いやいや、ほんとの事だってば」
「え、ええぇ……?」
「以前言っていた“ラーニング”をしてもらうためよ」
「ラーニング……」
俺は世界を救うことになった。しかし、その準備段階である“ラーニング”で唯一終わった工程と言えばUSBの受け取りのみ。
おそらくだが現時点の進捗率は全作業の0.1%も満たない。
この時が来るのを覚悟はしていた。
俺は、紅水の「白露の脳だったら1週間もかからない」という言葉を聞いて当時は喜んでいた。
その話を聞いた後で、実際にパソコンでUSBメモリの0001番の中身を見てみたのだ
しかし、パソコンに表示されたのは英語と数式だった。
スクロールしてはみたが、判ったのは1000ページいっぱいに小さい文字でびっしりとアルファベットと数字が並んでいるという事だけだった。
彼女はUSBが日本語ではなく英語で書かれていることを知らなかったのだろう
「……そうだな うん、わかった」
「授業のコトなら私が教えるから大丈夫だよ?」
「あ、ああ! ありがとう 助かるよ!」
明日に向けて少し早めに寝ることにした
なかなかタフな作業になりそうだが引き受けた分、やるしかない。
そう、やるしかないんだ
<4月8日 月曜日>
紅水を乗せた車を見送ってリビングに戻る。
「さてと……
じゃあ……はじめますか!!」
左手のひらを開いてそこに指で17と書く。
3Dプリンタで刷られるように、身体が生成される。
すすすすす………
二秒もかからずに16人の俺が完成した。
しかし身体は作れても、服だとか靴などの類はそうはいかない。
つまり俺の前には全裸の男が立っているのだ。
なかなかインパクトがある画だ。
今は4月とはいえまだ肌寒い。他の皆は全裸のまま二階の俺の部屋に向かっていきそれぞれが違う服を着て階段を下りてきた。
「じゃあ……ここにあるパソコンとUSB、そして英和辞書を受け取った人から、作業を始めようか」
「はーい!」「はい!」「うん!」「了解!」……
人数分の返事が返ってきたのを確認して俺たちは散らばる。
外に出て、近くの住民に見られるのは避けたかったので、家の中でやるようにと言っておいた。
俺はそのままリビングを歩いて行って、掃き出し窓を開けてそこに腰掛けた。
外の空気が芝生のにおいをつれて部屋に入ってくる。
いい感じ。これなら集中できそうだ。
ノートパソコンを開いて電源ボタンを押す。
~塀の向こう側~
女:「1,2,3、4、5……17人 サーモグラフィ画像で確認。全員いるようです」
男:「了解。爆弾はセットできたか」
女:「はい、家を囲うように30個。 言われた通り、玄関の前は置いてありません」
男:「分かった 車を出せ 我々の任務はこれまでだ、 とどめは“彼女”に任せよう……」
女:「なんだかかわいそうですね まだ高校生なのに……殺されちゃうなんて」
男:「それは仕方ないさ 俺達が生き残るにはどうしても奴が邪魔なんだから……」
~塀の内側では~
「ええと、次の単語は……」
作業開始から20分半分まで自分の分からない英単語を調べた。
時間かかるぞ~ こりゃあ!
「ねえねえー!!」
一人がリビングに入ってきた。
「ん? どうした?」
「なんか家の周りから変な音が聞こえるんだ」
「変な音……?」
サンダルを履いて芝生の上を進んでいく。
本当だ、気が付かなかった
塀の下あたりからだ。
(ピ……ピ……ピ……ピ……)
塀に沿って歩いていくが、1メートル間隔で音がする。
何かに囲まれているのか?
何か変だ すごく嫌な胸騒ぎがする
「一度家を出るとしよう」
「みんなぁ!! 一回外に出るからまとまるぞー!!」
大声で他に伝える。
「「「いつでもどうぞー!」」」
左手のひらに指で縦に一本線を引く
)))ズガアアアアアアアアアアン!!(((
爆風で一枚の壁を突き破り渡り廊下にたたき出される。
「かはああっ………!!!!」
割れた窓ガラスの破片の何個かが刺さる。
じわあああ………
シャツに血がにじむ
「な、なんだああああ⁉ げほっ げほっ……くそっ 煙が……」
喉を守るために服の袖で口を覆う。
「とにかく逃げなきゃ!!!!」
吹き飛ばされたところが玄関からすぐでよかった。
ここだけは火も回っていないし、破壊も少ない。
不幸中の幸い
ドアを開けて家から脱する。
「はあ、はあっ…… 何とか……」
何とか逃げれた。
俺の“居場所”である自宅が大きな轟音とともに崩れ落ちる。
目を背ける。
「どうして……こんな……」
コツ、コツ、コツ……(背後カラノ足音)
命に別状はないようだが、
大きなガラス片が肩に刺さったままで痛いし、頭から流れて止まらない血が目に入りそうだし嫌になってしまう。
「家は焼かれるし、けがはするし 今日は最悪だな……」
コツコツコツコツ……(迫ル足音)
いったい何があった?状況を分析しよう
まず、家が変な音に囲まれていて………気づいたら家が焼かれて、俺は死にかけてている……
「………」
頭を抱える。とても落ち着いて考えられる状況でもないし、たぶん今の爆発で頭を強く打ったのもあって、脳みそが全然はたらかない。
119番と111番通報はしておいた。ちなみに111番は情報庁の修復課のスリーナンバーで、これさえできていれば家の中のモノは全て元通りに修復できる。
…………………………(止マル足音)
ビリビリビリッ………バチィィィィッ!!!!(スタンガン音)
「ぐうっっ!!!!」
うめき声をあげる。
首に激痛が走ると同時に、糸が切られた操り人形のようにその場で、ぐしゃりと倒れる。
「ホント……… さい……あく………」
***************************
<病院>
あたりを見渡す。
「病院だ……」
この時点でおかしい点が一つある。
答えは「俺が病院にいる」ということだ。
なぜ俺が今病院にいるのか、それは“データ治療ができなかったから”である。
これは今の自分の身体を見た瞬間察した。
これについては話の最後で明らかにするとしよう。
身体のいたるところに包帯が巻かれている。特に頭には厳重に、何重にも巻かれていた。
頭に包帯を巻かれるのは今月で2回目だ。今回と紅水を探して回ったあの日と。
「そんなこともあったなぁ……」
……ところで、ここはどこなんだ?
俺のいる部屋は8畳ほどの空間に丸い小さめのテーブルがひとつとベッドしかない、きわめて質素なものだ。部屋は電気がついていなくて、うす暗い。
病院だってことはもう知っている。
問題は何県なのか、だ。
ヒトをデータという点で治療するこの時代、前時代的ともいえる病院がある県は限られる。俺が住む富山内には小さい病院ぐらいしかない。
ん?……ということは、今俺が入院しているような立派な病院がある地点を考えれば、絞れてくるなぁ
えーっと……日本の大都市と言ったら 東京、京都、愛知 ぐらいか………?
この中で富山から一番近いのは京都だから多分京都だろう。
(情報化が進みに進んだといっても、病院はわずかではあるが存在している。
いつシステムがエラーを起こすかもわからないからだ)
「……答え合わせだ」
予想通りなら、碁盤の目の街が見えるはずだ。
開かれた窓から外を見渡す。
「……な!⁉」
急いでスマホを取り出し、ボタンを長押ししてこう話しかける。
「げ、現在地は⁉」
ごくり…… 唾をのむ
まさか、まさか…… 頼む 違っていてくれ!!
『……アメリカ ニューヨークです』
家を爆破されて…… 知らない奴に襲われて…… 気づけばアメリカにいる って……
一日の内容が濃すぎ!単品でもインパクトあるぞ⁈
それなのに、3つ全てが1日のうちで起きるって……
ふらふらしてベッドに腰を下ろす。
さっき窓から見えたのは東京湾でも名古屋駅でもなかった。
目に飛び込んできたのは、つんつん頭で全身グリーンのアイツ。
Statue Of Liberty
「そういえば生で見るのは初めてだなぁ」
確かあの中に入れるんだったっけ TVでやっていたのを覚えている。
どうして自分が今アメリカにいるのかは分からないけど、自由の女神ぐらいは観光してから帰りたいものだ……
まだ自分がアメリカにいることに実感がわかない。
何もすることがない。USBもパソコンも手元にない。
「はああああー……………」
俺は眠くなるまで、夜景をボーっと眺めていた。
チカチカと光を放つ高層ビルの群れ
水面に街の光が映っている。紺青の空がバックで、オレンジ色の光が映える。
ただただニューヨークの夜景の美しさを前に、俺は部屋で立ち尽くすだけだった。
痛みなんかどうでもいいと思えるほどに……
「あぁ…………」
景色で感動するのは初めてかもしれない。もう、うっとりだった。
続く
<病院>
【あたりを見渡す。
「病院だ……」
この時点でおかしい点が一つある。
答えは「俺が病院にいる」ということだ。
なぜ俺が今病院にいるのか、それは“データ治療ができなかったから”である。
これは今の自分の身体を見た瞬間察した】
……目が覚めて、真っ先に気づいた……
……どうしてこうなっているのかは分からないが……
二の腕から先が、無くなっていた
続く
今回は……
1.白露がラーニングを開始します。
2.白露が何者かに襲われます。
3.白露が目が覚めると、そこは……日本ではありませんでした。