011話:微分をしている手が止まる
【それでは解答編】
もうすぐ学校に着きそうだが横断歩道を渡っている人やすれ違った車から大量の目線が送られる。
………ああ!!
「紅水! これまずいよ!」
「ん。何かあった?」
「俺も紅水も制服着てるじゃん! これじゃあ、他から見れば学生が車を運転しているように見えるよ!」
「そこんとこは大丈夫だって、 周りからは普通のOLと一人の男子学生にしか見えないから。」
「あ、なるほど」
変装魔法も結構使えるんだな…
「それと、皆が注目しているのは多分車の方よ。」
「たしかに目立つな…」
俺達は外国産の車に乗っている、そして色は明るい赤。
助手席の収納にあった資料に目を通した。この車の名前まではまだ分からないが会社名は分かった。
P O L S C H E
高級車じゃねえか!!
よって問題の答えは“左ハンドルの車に乗っているから”でした。
<学校>
「じゃあ、また教室で!」
無事に時間内に学校に着き分かれる。
紅水は職員室で待機らしい。
俺は自分がどこのクラスなのかチェックして猛ダッシュで階段を駆けのぼる。
教室内がざわついている、まだ先生は来ていないようだ。
勢いよく扉をスライドする。
「ガラガラガラッ!!」
教室内の目が俺を向く。
「ど、どうも…」
とりあえず席に着く。
8時20分になった。
その瞬間
「ばきいいいいいっ!!!!!」
ドアの方から凄まじい音がした。俺のとは比べ物にならない。
ドアだったものが粉砕して、その木片が俺にかかる。
「あっぶなー、セーフ!!」
音とともに室内に一人の女子生徒が飛び込んできて着地した。
「蹴破りやがった!…」
「あはは、どうも…」
少女はにこり、と微笑んだ。
それからちょっとして、
「おーい。扉がないんだけどー 皆、どこに行ったか知ってるか~?」
担任は粉々になった教室のドアを踏みつけながら歩みを進め、教卓の前につく。
すると、
「はい、私がやりました!!あとで生徒指導室に行きます!」
「まあた、お前か…」
頭を抱えながら困った顔をする。
「なんで、怒られると分かっててするかねえ…」
「えへへへ…」
頭をかきながら てへへっとする。
「そうそう 俺、ちょっと用事があるからこれやって待ってて!」
20代のエネルギッシュな男はそう言い残して廊下へ急ぎ足で出て行く。
「紅水だな…」
ここにいる人間の中で俺一人が転校生の存在を知っていることに優越感をおぼえた。
明らかに誰も座っていない机が一つあるし、何人かはクラス発表の張り出しの時に「え、誰?」と不思議に思ったかもしれないが。
皆さん。今日は転校生が来ますよ! 少し笑みをこぼす。
前から送られてきたものを見て頭を抱えて目をつぶる
「はあああ…」
渡されたのは以下の式を微分せよ、と活字印刷されたプリント。
ご丁寧に両面印刷だ、ははは、、、
「なんで学校始まって早々朝に数学解かなくちゃいけないんだよ…」
今日何があるのか、と二人で話しながら登校をしていたがこれは予想外すぎる。
あちらの言い分は君たちももう2年生なんだから、とかだろう
俗にいう進学校、うちはこんな高校です。
提出しないと呼び出しを食らうので仕方なくカバンに手を突っ込んで筆箱を机に取り出す。
先生が出て行って5分したぐらいだろうか。教室内に変化が起きた。
皆が渡された朝学プリントを取り組んで机に向かっていたが、ひとり、またひとりと顔を上げたまま静止している。
俺達から見て後方にドアがあるのだが、そこから“出て行った人数+1”つまり2人入ってきたのだ。
言うまでもない、+1は紅水だ。
さすがに真っ赤のワンピ―スではなくうちの制服に身を包んでいる。
やっぱり制服が赤くなくて気に入らないから、ワンピに着替えちゃった☆
なんてことになっていなくて本当に良かった
クラス一丸となって紅水の入室の一部始終を見ている。
さすがに俺達よりも2つ上だと言ってもこんな状況は誰にとっても恥ずかしいものなのだろう
「はい しずまれー!」
黒板に見慣れた汚い字で4つの漢字が書かれた。
「本日よりうちに通うことになった 神代紅水さんだ。」
目線は全て隣の彼女に向けられている
「家庭の事情でここに通わせてもらうことになった神代紅水です 皆さん、よろしくお願いします!」
「お、おおお…」
あたりが少しざわつき、俺もぱちぱちと拍手する。
皆が彼女から放たれている“美”に圧倒されている。
ちょっとしてから彼女は自分の席につくように言われ普段とは違う朝の会が幕を開いた。
その後は「神代さん、どこの高校から来たの?」や「神代さん美人だね!!」など
よくある質問が振られ、それに彼女が応えるという構図だった。
なにもかもが無事終わり俺は、靴箱で靴を入れ替え、左に曲がった薄暗いところで彼女を待つ。
まるで犯罪者のような行動だが、違うからね?
紅水は初日であそこまで男女ともに好かれてしまった人間だ、異性、しかも俺みたいなのと帰るなんてことになったら一人一回と考えて最低でも40回刺されるだろう。
あれこれ考えているうちに ひとりのOLが俺が出てきた方と逆方面の玄関から出てきた。
急ぎ足でこちらに向かってくる。
「おまたせー 」
「じゃあ。帰ろっか」
男子高校生とOLは駐車場へ向かって歩いていった。
続く