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24 仁斎は語る

 真尋が巣穴への襲撃を提案した後、道場の方では自警団が今後の方針を立てる為、会議を開いて大騒ぎになっていた。

 会議の中心は瀧彦と伽彦、それに日美香が加わっていた。道元はあまり話に入っていけないようで、後方で一人苦々しく会議を見守っていた。

 あの調子では、会議は夜を徹して行われる事になりそうだ。大と綾、そして真尋の三人は、仁斎に報告する為に屋敷に戻る事にした。


「そうか……。道元は、自警団を送る事を、認めたかね……」


 寝室で分厚い布団にくるまりながら、仁斎は首だけを動かして真尋を見た。


「はい。ほとんど瀧彦と、伽彦さんが話をまとめたようなものでしたが」

「さもあらん。道元には人を動かす器はない。八十神の名前だけで、何とか人の上に立っておる奴よ」


 仁斎の声は小さく、声を出すだけでも辛そうだった。大達が初めて会った時の力強さ、貫禄が消え失せている。体も一回り小さくなったようだった。

 病の身を推して誠人を守り、戦った事が、仁斎の体に急激な負担をかけたのだろう。


「真尋よ。お前が見て来たものについて、わしも色々と考えてみた」


 ゆっくりと、時間をかけながら仁斎は言った。


「おそらく、それは蝗神を祀る、祭壇のようなものであろう。奴らはそこで、さらった子供を使い、何か儀式を行っていた……」

「はい」

「奴らに、それほど優れた知恵があったのは、驚きだな。蝗神の眷属は、我らの知らぬところで恐るべき力をつけ、九段の血を狙っておる……」


 仁斎は大きく息を吸い、疲れを吐き出すように、ゆっくりと息を吐いた。


「義一がここにおればな……。あいつの頭なら、奴らが何をしようとしているか、分かるかもしれんのだが……」

「お爺様。その話は」

「そうだな、やめておこう。それより、考えるべきは、今の事だ」


 仁斎は首を動かし、反対側で話を聞いていた、大達に顔を向けた。


「国津さん、天城さん。客人であるあなた方に、このような頼みをするのは、本当に心苦しい。しかし、どうか、お聞き届け願いたい」

「気にしないでください。この村にいる限り、私達も戦わなければなりませんから」

「綾さんの言う通りです。俺もできる事があるなら」

「ありがとうございます……」


 二人の快諾に、仁斎はほっとした顔を見せた。


「頼みというのは、他ならない誠人の事です」

「誠人君の?」

「はい。九段の祖が、蝗神を封じた術者である事は伝えましたな」

「村を訪ねた旅の呪術師、だったんですよね」

「そうです。九段の祖と、その弟であった八十神の祖。二人が協力し、蝗神は封印されました。故に、蝗神の封印を解く方法は一つ。九段と八十神、両家の男子の血なのです」


 仁斎は苦しげにしながらも、力強く言葉を並べていく。その様はまるで己の死を悟った者が、最期に悔いを残すまいとしているようで、酷く痛々しかった。


「九段と八十神の血を、封印した地に捧げた時、蝗神は蘇る……。祖先より続く伝承には、そう伝えられております」

「封印した地……。ひょっとしたら、今日巣穴で見た祭壇がそうなのでは?」


 綾が考えを口にする。


「あるいは、そうかもしれません。祖先の伝承は既に、この地で戦う中で、失われたものも多いのです」

「あの祭壇に九段と八十神の血を捧げれば、蝗神が復活する、と。つまり、誠人君のような?」


「お察しの通り。今回の襲撃も、恐らくは誠人が狙いでしょう。これまでは私があの子を守ってきましたが、この体では最早それもかないますまい」

「お爺様……」


 真尋が悲し気な目を向けるが、仁斎は自嘲気味に笑うばかりだった。


「己を解き放つ為、蝗神は長年、眷属である妖虫に指示を産み出し、両家の血筋の者を狙ってきました。憎き九段を滅したいが、そうすれば村は滅ぼせても、己の復活も叶わなくなる。この関係故に、村は危ういながらも、どうにか生きながらえてきたのです」


 大は仁斎の言葉を聞き、考えを巡らせた。

 八十神の男は確かに、自身の身は自分で守れるものばかりだ。実力が低いとはいえ、恐らく道元も妖虫と戦う実力はあるのだろう。

 戦う手段をまだ持たない誠人を手に入れれば、彼らは封印の解除に対して王手をかけたも同然だ。加えて九段が弱体化している今、村に対して、圧倒的に有利となるのは自明である。


「どうか、この村にいる間だけでも、あの子を守るのに、力をお貸しいただきたい」

「もちろんですよ」

「ええ。私達にできる限りの事をするつもりです」


 大も綾も、すぐに答えを返した。考えるまでもなかった。村の未来の為というだけではない、子供に手を出すものを許せるはずがない。

 一番の不安が解消できたおかげか、仁斎の全身から緊張がとれ、脱力したようだった。


「ありがとうございます。どうか、お二人を守護する異国の巨神タイタンの力とやらが、あの子の為にも使われる事を願っております……」

「仁斎さん、それは……」


 大は思わず目を見開いた。真尋には既に正体を明かしているが、まだ仁斎には巨神タイタンの子について、詳細を話していない。顔を上げて真尋を見ると、真尋も驚いているようで、まだ話していない、と言いたげにかぶりを振った。


 それ以上は何も言わず、仁斎はにやりと笑って返した。どうやら村の襲撃の際に、ミカヅチの姿を一目見ただけで、その正体に気付いたらしい。

 参ったな、と大は思わず頭をかいた。

今回の更新は忙しく、時間が取れなかったため、本文が短くなっています。申し訳ありません。

次回は17日(土)21時予定です。


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