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21 憧れとのチームアップ

 轟、と吠えて、倶利伽羅が突進する。四足獣を思わせる滑らかな足取りで一気に距離を詰める。

 激突の前に、四人は跳躍した。

 ミカヅチは棍を鞭へと変えて柵にからめて、壁を蹴り屋上まで駆け上る。着地したところには、既に他の三人も集まっていた。

 

 ティターニアは隣のグレイに訊ねた。


「グレイ! どう動けばいい?」

「久しぶりだな、こういうやり取り」


 グレイフェザーの唯一露出している口元が、楽しそうに釣り上がる。


「まずは、少し時間を稼いでくれるか」

「了解。早めにお願いね」


 二つ返事で答えて、ティターニアは跳躍し、下へと降りていく。倶利伽羅に単身立ち向かうティターニアを軽く眺めて、グレイフェザーはクロウの方を向いた。


「クロウ、奴は魔術で竜人の力を取り込んでいると言ったな。奴の弱点はわからないか」

「えっとォ、ちょっと時間ください! 解析してみますから!」

「よし、俺達で奴の動きを止める。クロウは奴を調べあげろ。何か分かったら伝えてくれ」


 クロウの隣で緊張するミカヅチに、グレイフェザーは声をかけた。


「行くぞ、ミカヅチ。巨神の子の力を見せてやれ」

「はい!」


 二人は屋上から飛び降りた。階段一つ降りるような手軽な気分で着地し、倶利伽羅に向かい合う。

 前方ではティターニアが倶利伽羅と対峙し、接近戦を試みていた。両手に白銀の棍を握り、左手を前方に、右手を脇に近づけた形で構える。

 倶利伽羅が右腕を振り回した。ティターニアは目の前に迫る巨大な掌を避けず、むしろ前に踏み込む。


「ふっ!」


 ティターニアは呼気と共に白銀の棍を打ち下ろした。分厚い鱗に覆われた、丸太のような二の腕が、棍の一撃で弾かれる。


「右から行け!」


 クロウの鋭い言葉を受けて、ミカヅチは走った。右手の建物に向かって跳び、壁を蹴って跳ね返る。

 跳んだ先にいた倶利伽羅の肩を、ミカヅチは思い切り蹴り飛ばした。

 砲弾のような飛び蹴りに、巨体が転がった。


「ガァッ!」


 倶利伽羅が怒りの声を上げる。転がりながら振り回した尾が、風を引き裂きながらミカヅチに迫る。

 ミカヅチは両腕で受けた。金属のような鱗と白銀の手甲が擦れて耳障りな音を立てた。

 車と正面衝突した気分だった。常人ならば、それこそ一撃で絶命していてもおかしくない。だというのに、体はすぐさま感覚を取り戻し、自身の強靭さを伝えてくる。

 数メートルほど宙を跳んで、ミカヅチは両足で着地した。


 起き上がった倶利伽羅がミカヅチに向かおうとした時、灰色の矢が飛来した。

 空中から放たれたグレイフェザーの羽は、飛来した最中に硬質化し、刃となって倶利伽羅の肌に突き刺さる。サイズから見れば無力に見える羽の刃も、たやすく鱗を裂いて肉を貫いた。


「グウゥッ!」


 倶利伽羅はグレイフェザー目がけて炎を吐き出した。グレイフェザーは空中で素早く旋回し、火炎をあっさりと回避する。

 その姿は完全に変化し、灰色の鳳となっていた。人と鳳の姿を自在に行き来するのが、彼の能力の本領である。


 ミカヅチの隣に、着地する青い影があった。


「大丈夫?」


 ティターニアに訊ねられて、ミカヅチはうなずいた。たとえ重傷を負っていても、ここで弱音をはく選択肢はない。


「当然」

「よかった。もっと相手の動きをよく見てね。巨神の加護はすごいけど、だからって相手の攻撃を受けてもいいと考えちゃ駄目。わかった?」


 まるで親が子供に言い聞かせるような口調だった。だがミカヅチには、それが少し心地よかった。

 かつてのヒーロー達と共に戦っているのだ。加えて、この中で一番の未熟者は自分だ。文句など言う気にもならない。先輩達の意見には素直に従おう。


『みんな!』


 不意に、頭の奥に言葉が届いた。


「なんだ?」

「クロウの念話よ。大丈夫」


 同じものを聞いたようで、隣でティターニアが説明する。そのままティターニアは訊ねた。


「クロウ、何?」

『解析完了しました! あいつは魔術で竜人の力を取り込んでますけど、まだ完全に自分のものにできてません! 抜けたところがあるんです!』

『ミカヅチの分を取り込んでないからか』


 別の低い声が届いた。どうやらグレイフェザーも念話に参加していたらしい。


『そうです! だから自分の体と、力が完全に溶け込んでないんです! だからあの竜の姿を破壊すれば、術式が綻んで自壊すると思います!』

「でもそれ、相手を殺す事にならないか?」


 ミカヅチが訊ねた。倶利伽羅の行いは許せるものではないが、だからといって殺したりしたくはない。力があるからといって、処刑人になるつもりはないし、その資格があるとも思わなかった。


『だから、中身を傷つけずに綻びやすいとこを狙う! あの頭を壊すのが一番いいと思う!』

「着ぐるみの頭を壊して中身を出そう、ってわけね。わかりやすくていいじゃない」


 ティターニアがにやりと笑った。戦いを前にした戦士の笑みだった。


「ミカヅチ。私達が動きを止めるから、最後の一撃をお願い」

「俺が?」

「ええ。あなたの力を、私に見せて。あなたならできるわ」


 そう言うと、ティターニアは倶利伽羅に向かって走り出した。


(あなたならできるわ)

(巨神の子の力を見せてやれ)


 二人の言葉が頭の奥でこだまして、ミカヅチは両の拳を握りしめた。やる気が今日一番満ちていた。


「やってやる!」


 倶利伽羅は二人のヒーローに翻弄され、もがくように暴れていた。グレイフェザーの羽が突き刺さり、押しのけようと四肢を伸ばせば、ティターニアの棍に弾かれる。


 悲鳴のような咆哮を上げながら、倶利伽羅は飛び上がった。このままでは勝てない。そう感じ取って逃走を選んだのか、建物の屋上に手をかけて、一気によじ登ろうとする。


「BEWARE MY ORDER!」


 クロウの呪文があたりに響き渡った。それと同時に、倶利伽羅の掴んだ建物がどろりと溶けた。まるで飴細工のように柔らかくなった建物の壁が、倶利伽羅の自重を支えきれずに崩れ落ちる。


 倶利伽羅はバランスを崩し、元いた中庭に転げ落ちる。眼の前で起きた事が理解できなかったように、仰向けの状態で、動きが一瞬止まった。


「ミカヅチ!」


 ティターニアの声を受けて、ミカヅチは走った。ヒーロー達が自分に最後を決めさせるため、わざわざ手間をかけたのだ。ここで失敗するつもりはない。


 倶利伽羅はミカヅチの動きに気付いて、体を横に回転させた。四つん這いの姿勢を取り、そのまま地を薙ぐようにして腕を振り回す。


 えげつない形をした爪が引き裂く寸前、ミカヅチは跳躍した。爪は空を切り、ミカヅチの体が宙を舞う。


 自由落下の勢いに体を預けながら、ミカヅチは右拳を握りしめた。全身を流れる巨神のエネルギーを、拳に集中させる。

 倶利伽羅がその姿に気付いて頭を上げる。次の瞬間、ミカヅチは右拳を倶利伽羅の脳天に叩き込んだ。


「せいぃーッ!」


 右拳から放たれたエネルギーが、光の奔流となって倶利伽羅の頭を撃ち抜いた。大砲のような爆発音が鳴り響き、力の余波がそのまま地面を貫く。

 光と土煙が収まった時、そこには二つの影があった。地に伏した男の姿と、それを見下ろす赤い英雄の姿だった。

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