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10 "憧れ"との邂逅

 ティターニアは少し大に目配せをした。しかしミカヅチが口を開くより早く、フェイタリティの方を向いて目を細めた。


「フェイタリティ……」

「よう、お嬢ちゃん」


 久方ぶりの友人に声をかけるような口調で、フェイタリティは言った。


「お前に会いたくてこの仕事を請け負ったんだが、こんなに早く再会できるとは思わなかった」

「こっちは、あなたにまた会うとは思わなかったわ」

「だろうな、お嬢ちゃん。俺も一週間前までは、会えると思ってなかったよ。運命のお導きを感じるね」


 フェイタリティの声は愉快そうだった。


「お前達と遊んでた頃を、今でも思い出すよ。どうだ、これから一戦」

「悪いけど、私にはその気はないの。どうしてもやりたいなら、三人がかりで叩きのめしてあげる」


 対する声は冷ややかですらあった。しかし、ミカヅチは少し心が弾んでいる自分を感じていた。

 ティターニアは三人がかりで、と言った。つまり、自分も勘定に入れているのだ。

 彼女が自分のことをちゃんと意識している。


 高鳴る気持ちを抑えながら、二人のやり取りに集中した。


「おいおい、俺はもうボロボロなんだぜ? 少しくらいハンデを与えてくれてもいいだろう?」

「私はあなたと違って、趣味で戦ってるわけじゃないから。どう? まだやる気がある?」

「……お前が来るんだったら、そこの坊やで遊ぶんじゃなかったよ」


 フェイタリティは少し考えて、残念そうにため息をついた。


───・───


 森の中は静かだった。時たま春の青葉が風に揺られて、さらさらと爽やかな音を立てるのが聞こえる程度だ。先程まで超人同士の激戦があったとは思えない。


 ミカヅチとティターニアは、森の中で二人向かい合っていた。フェイタリティと彼の部下は全員厳重に拘束し、クロウの魔術もふんだんに使い、廃墟の中に縛り上げてある。

 通報を終え、警察が来るまで少しの間、ミカヅチ達は休息を取ることになった。その時に、ティターニアと二人で話したい、とミカヅチが頼み込んだのだ。誰も断る者はいなかった。


 ミカヅチは改めてティターニアを見た。目元を覆う赤いドミノマスクが、相変わらず彼女の顔を隠している。だが、ミカヅチにはその仮面の奥にある顔が誰か、感づいていた。

 おそらくそれは、ティターニアも感じ取っているだろう。どこか固い表情を見せていた。


「ティターニア。俺が誰か、分かる?」

「……ええ」


 うなずいて、ミカヅチは心を落ち着かせた。二度目の変身は、変身を解く方法を教えていた。

 光がミカヅチの体を包んだ。すぐさま光は消え去り、現れたのは国津大の姿だった。


「……大ちゃん」


 そう呼ばれて、大は心臓を掴まれた気分だった。

 予想は確信に変わった。何故ずっと気付かなかったのだろう。憧れのあの人の姿にそっくりだと、落ち着いて見ればすぐに分かったはずなのに。


「ずっと、会いたかったんだ。ティターニア。ずっと会いたかった」


 今度はティターニアが光に包まれた。光が空に溶けて、後には天城綾の姿が残った。


「綾さん……」

「うん」

「ずっと、ティターニアだったの? 昔から?」

「ええ。大ちゃんと初めて会った時から、ずっと」


 ティターニアに会えたら、言いたいことは色々あった。感謝の気持ちを、憧れを伝えたかった。彼女に助けられた事で、今の自分がある。それを伝えたかった。

 だが気持ちを伝える言葉は、頭の中を駆け巡るばかりで、口を通って出ていかなかった。


「ずるいよ。ずっと黙ってるなんて」


 やっと言えたのはそれだけだった。

 自分の言った事が情けなくて、苦笑いを浮かべると、綾も苦笑を返した。


「私もいつ正体がバレるか、ずっとビクビクしてたの」

「ほんとに?」


 お互いの返答に気が緩んだように、二人は小さく笑った。


「凛と知り合いだって言うのは、ヒーロー同士のつながりなわけ?」

「ええ。あの子の師匠は、昔からの仲間だから、そこでね」

「じゃあ、ここまで来たのは、凛に連絡を受けたから?」


 大がフェイタリティと戦っている間に、凛はさっさと他の連中を倒してスマートフォンを見つけたのだろう。

 そう思ったが、綾は首を振った。


「いいえ。それより先に感じたの」

「感じた、って、何を?」

「シンパシーって言うのかな。偉大なる巨神の加護を受けた人が、近くにいるって事」

「それって……」

「ええ、大ちゃんが、私と同じ、巨神の子なんだって感じた。あの夜と同じようにね」


 ミカヅチの姿を取ってからここまで、わずかに不安があった。果たしてこの力は一体何なのか。巨神の子になったのだと直感してはいたが、果たして本当にそうなのか。ただ姿や力が似ているというだけで、全く違う何かなのではないか。

 だがその不安は、今消えた。自分が手に入れた力は、本当に偉大なる巨神の加護によるものなのだ。あのティターニアが、それを認めてくれた。


 大の心に、温かいものが満ちていった。


 二人の下に凛がやって来たのは、少ししてからだった。


「綾さん、警察がそろそろ来るみたいだよ。屋上から車が見えた」

「ありがとう。フェイタリティ達は?」

「大丈夫、みんな拘束されたまんま。全然動いてないよ」

「気をつけてね。あいつは指一本でも動くなら、何をしてくるかわからないから」


 真剣な口調で語る綾に、凛が少し体を固くする。大も綾に同意見だ。フェイタリティの恐ろしさは少年の頃に何度も見ている。


「ボクと大はいきなり拉致されて、ここに連れて来られた。だけどボクの魔術と大の幻と、助けにきてくれたヒーローのおかげで、あいつらを叩きのめして捕まえた。綾さんはボクらが連絡して慌てて飛んできた。それでいいんだよね?」

「ええ。面倒な役を押し付けてごめんなさいね」


 警察にどう話すかは、既に三人で決めていた。

 大のミカヅチとしての姿を語らないのは、巨神の子の力について触れる事になりかねないからだ。

 現在、巨神の子は、タイタナスの神がこの世を正す為に、人に加護を与えるのだととされている。タイタナスでは、巨神の加護を授かった人間が歴史書に幾人も記されているという。


 巨神の子とは、タイタナスという国の歴史と宗教に関わる重要な存在なのだ。綾の時にも、ティターニアの姿を巨神の子として世間に発表した時、色々とややこしい問題が起きたらしい。

 まずは大の力をちゃんと調べてから。話し合ってそう決まったのだった。


「でもどうすんの? ボクが一流の魔法使いなのは事実だからいいとしてさァ、大の力の事とか、警察に色々突っ込まれたりしない?」


 凛の心配も尤もである。色々と探られて、目をつけられたりしてはたまらない。

 しかし綾は、その点に関しては心配していないようだった。


「大丈夫、そこは助っ人を呼んでるから」

次回は26日(土)21時頃予定です。


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