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15 奪還作戦

ティターニアが腰から双棍を引き抜きながら、二人に声をかける。


「みんな、作戦は覚えてるわね?」

「もちろん」

「当たり前だろ」


 同意しながらミカヅチも棍を構えた。ラザベルは全身に力を込めて、筋肉をほぐす。

 やがて、ザティーグはミカヅチ達の前方十メートルほどの位置で、空中に浮遊したままミカヅチ達を見下ろした。

 何も語ろうとはしなかった。同胞である静流を奪還し、本国に帰還するという目標において、ミカヅチ達がどの程度の障害となるか、分析しているのかもしれない。


「瀬戸さんは眠ってます。今の彼はザティーグです!」


 背後から静流の声が届く。瀬戸は前回と同様に、ザティーグに完全に意識を奪われているようだった。

 もしミカヅチが彼と同じ状況に陥ったら、その恐怖はいかばかりか、想像もつかない。

 ザティーグが同胞──静流を取り戻したいように、こちらも一刻も早く、瀬戸を取り戻さねばならないのだ。


「偉大なる巨神の名にかけて、必ず瀬戸さんを助ける!」


 ミカヅチの気合に応えるように、ザティーグの背中に積まれた長方形のバックパックが展開した。そこから細長い金属の塊が放たれて、地面に突き刺さる。

 地面に突き刺さった塊から、液体が漏れて地面にしみ込んだ。液体が土と混ざり合い、泥となる。そして泥は膨れ上がり、瞬く間に人間程度の大きさになり、手足を伸ばしていった。

 シェイプシフター・ワームによる変異種の生成であった。十数体の変異種は手に当たる部分を膨らませて、斧や槌、思い思いの武器を創り出す。


「チッ、戦闘員のつもりかよ!」

 ラザベルが舌打ちした。


「ミカヅチ、ザティーグをお願い!」


 ティターニアが鋭く指示を飛ばした。襲いかかる変異種に、ティターニア達が応戦する。

 ザティーグはバックパックの射出口を閉じ、飛行したままミカヅチ達を飛び越えて静流に迫る。


「させるか!」


 ミカヅチは跳躍しながら、右手に握った白銀の棍を鞭へと変化させた。振り抜いた鞭は高速でしなり、ザティーグの足首に絡みつく。

 突然追加された重量に、ザティーグがバランスを崩した。そのまま静流をつかまえるのを断念し、ザティーグは上へと軌道を変えた。空中戦なら空を飛ぶ自分が有利という判断だろう。


 ミカヅチとしても、それに付き合うつもりはなかった。ミカヅチは鞭を手首の方から棍へと戻していく。鞭の先端はザティーグに絡みついたまま棍へと戻る為、長さがどんどん短くなっていく。

 瞬く間にミカヅチはザティーグとの距離が詰まり、目の前に赤銅色の巨体が来た時、ミカヅチは左手の棍を斧へと変えて投げつけた。


 薄い膜状の翼が回転する斧の刃に斬りつけられる。右の翼が根元から完全に両断された。


「!?」


 翼によるバランス調整が不可能となり、飛行の軌道が乱れる。ザティーグは飛行ユニットを停止し、自由落下に入った。ミカヅチも落下しながら斧を手元に引き寄せ、棍に戻す。二人は数メートルの距離を置いて、向かい合いながら同時に着地した。


 飛行ユニットの姿勢制御に使う翼を破壊したのだ。自己修復で翼が治せても、少なくともこの戦いの間は飛ぶ事ができない。

 ザティーグはミカヅチ達を倒さなくては、目標を達成する事ができなくなったというわけだ。


(問題はここからだ)


 単純にザティーグを倒すだけならば、手段は色々とある。だが今回はザティーグを無力化し、瀬戸を助けなくてはならない。

 ミカヅチは構えながら、先ほどまで行っていた打ち合わせの内容を思い出していた。


 今回の作戦を練る為に、灰堂は計雄に、メノウが贈ってきたザティーグの残骸を要求した。計雄は娘の為とすぐさま了解し、『アイ』の研究所にザティーグの残骸が送られたのである。


「ザティーグは、思考ユニットが二つ用意されてるんだよ」


 固い金属のテーブルに置かれたザティーグのパーツを色々と手に取りながら、エルは言った。

 シュラン=ラガの計画によって改造された際に、エルの中にはシュラン=ラガの兵器に関する知識が組み込まれている。実際に手に取ってみてみると、埋め込まれた知識が浮かび上がってくるらしく、すらすらと答えていった。


「喉元のあたりにあるメインユニットと、腰椎のあたりにあるサブユニット。この二つが互いに連携を取り合いながら、どっちかが故障した際にはもう片方がバックアップ処理を行うわけ」

「それで、これがあたしにも組み込まれているわけだね」


 静流が言った。その口調は非難しているとかそういった感じではない。ただ事実を飲み込もうとしている感じだった。


「ああ。瀬戸って人が本当にザティーグに組み込まれてるんだとしたらさ、このどっちかに意識とか、自我みたいなもんが書き込まれてる……ってことに、なるはずだけど……」

「なんか歯切れが悪いな」


 大が言うと、エルがへの字口になりながら大を見返した。


「だってさ、機械に人間の魂がインストールされるって、もうオカルトの類じゃん。俺、そんな知識とかないもん。確実な事は言えねえよ」

「まあ、確かにそうか」


 エルの言葉は納得できるので、大もそれ以上口をはさむ気にはなれなかった。


「とにかく、その思考ユニットを破壊すればザティーグは停止するよ。その瀬戸サンを助けたいなら、その人がいない方のユニットを破壊すればいい、はずだ。変な言い方だけど」

「そうなると、恐らく瀬戸君はサブユニットにいるな」


 興味深そうにザティーグの部品を手に取りながら、灰堂が口を開いた。


「瀬戸はザティーグに定期的に意識を支配されている。ザティーグの支配権が強いという事は、メインの思考ユニットにザティーグがいるという事だ。ここまでの仮定が本当ならば、だが」


 灰堂はちらりと静流を見て、


「静流君。君はザティーグが近くに来た時、瀬戸君がどちらにいるか、判別できるか?」

「え? その、思考ユニットですか?」

「ああ。君はメノウによってザティーグの思考ユニットを脊椎に組み込まれた。だからザティーグの位置を感じ取れるし、コミュニケーションが取れる。ならばより深くザティーグを読み取れば、ユニットのどちらにいるか感じ取れるはずだ」


 責任の重さを感じ取りながら、静流はうなずいたのだった。


 ミカヅチはゆるく呼吸を繰り返しながら、どう対処するか思考を巡らせた。

 周囲ではティターニアとラザベルが、それぞれ変異種達と戦い、こちらに敵を寄せ付けないでいる。

 ミカヅチがザティーグと対面する今、静流はまだ答えない。ザティーグをしっかりと睨みつけ、わずかでも瀬戸の気配を感じ取ろうとしているようだ。


 灰堂は動く気配はない。ティターニアも変異種を倒すのに集中し、ミカヅチに手を貸そうとはしていなかった。

 二人とも、ザティーグを倒すのはミカヅチ一人で十分にやれる。そう感じ取っているのだ。


(なら、期待に応えなくちゃな)

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