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03 巨神の子対ザティーグ

 ミカヅチとティターニアは、腰に提げた白銀の双棍を引き抜き、ザティーグと対峙した。

 町中で戦うのは、なんとか避けたいところだった。ここは市内の中心部であり、周囲にはまだ人が大勢いる。ここで戦えばどれだけ被害が大きくなるかわからない。場所を移すのが最善だが、それも相手の動き次第だ。


 しかし当のザティーグは、ミカヅチ達を前にしてやはり戸惑っているような素振りを見せた。無骨な体を動かし、手をひらひらと体の前で揺らして、その行動はまるで兵器とは思えない。


「……なんだ?」

「パントマイム……かな?」


 ティターニアが呟いた。確かに身振り手振りで何かを伝えようとしている風にも見える。だがその動きは、金属の異形がこの状況でやるには全く似合っていない。

 どう反応すべきか、思わず気が抜けてしまうミカヅチの前で、ザティーグが突然動きを変えた。


 勢いよく右腕を突き出すと、手首についていた金属の輪が拡がった。リングは浮遊したままバスケットボールほどの大きさになると、バチバチと音を立てて放電しつつ回転を始める。


「!?」


 なにかまずい。そう感じたとき、ザティーグの腕からリングが弾丸となって放たれた。

 雷光のような軌跡を描きつつ飛来したリングを、ミカヅチは二つの棍を交差させて防いだ。大砲のような衝撃をまともに受け止めて、ミカヅチの体が後方に飛ぶ。


「うわ!」

「ミカヅチ!」


 浮き上がった体は数メートルほど後方に跳び、車道を突っ切って向かいの壁にぶつかった。

 ミカヅチの両手が、骨まで痺れていた。棍を握る手が折れたかと思うほどだ。偉大なる巨神の加護がなければ、大の体などたやすくちぎれ飛んでいたことだろう。


「シッ!」


 その間に、ティターニアが仕掛けていた。一気に距離を詰めて振り下ろした棍を、ザティーグは左手のリングで受け止める。更に一撃、二撃と棍とリングがぶつかる度に、鈍い金属音が鳴った。

 

 ザティーグは鬱陶しげにリングを振り回した。体を反らしてかわしたティターニアが、がら空きになった胴体に一撃を叩き込もうとした時、ザティーグの腹部が開口する。


「!」


 瞬時に判断し、ティターニアは体を横に転がすようにして離れる。

 直後、開口部が火を吹いた。ザティーグの腹部から放たれた拡散式の光弾が、前方で止まっていた車両数台をまとめて引き裂いた。


「おいおい、やばいな、あいつ……」


 驚異の威力に、ミカヅチは思わず目を見開いた。ザティーグの全身はまさに兵器の塊だ。彼が暴れているだけで周囲にいくらでも破壊をもたらす事ができる事だろう。


(でも、こっちだって偉大なる巨神の子だ!)

 

 たとえシュラン=ラガが遺した兵器が相手だろうと、遅れをとるつもりなど毛頭ない。


 ティターニアが体勢を整え、再度攻撃を仕掛けるのに合わせて、ミカヅチも攻撃態勢に入った。左右から襲った棍の一撃を、ザティーグは手元に戻した左右のリングで防ぐ。

 左手から放たれたリングをミカヅチは体を反らしてかわす。静電気が体の表面を突き刺し、烈風と衝撃波が体を殴りつける中、ミカヅチは右の棍でザティーグの首に一撃を叩きつけた。


 確かな手応えに、ザティーグの体が前方に倒れこむ。左足を出して踏ん張るザティーグの顔面に、ティターニアのサッカーボールキックがクリーンヒットした。


 鉄柱もへし折るティターニアの蹴りに、ザティーグの体は空中で一回転して地面に叩きつけられた。うつ伏せに倒れたザティーグを前に、ミカヅチは双棍をまとめて一本の長い棍へと変化させて突き付ける。


「動くな! ……って、こいつ話聞けるのかな」

「気にせずに、さっさと壊したほうがいいわ!」


 ティターニアは鋭く叫び、両手の棍を合わせた。双棍が絡み合って巨大な両手剣へと変わり、ティターニアは剣を頭上に振りかぶる。

 陽光を浴びて煌めいた剣が、まさにザティーグの首目掛けて振り下ろされんとした時、


「やめて!」


 不意に聞こえた女の声に、ティターニアの動きが止まった。

 二人が声のした方に顔を向ける。通りの向かい側にあるデパートの入り口付近に、一人の少女が立っていた。

 年の頃は十代後半といったところか。華奢な体をおろしたての服に身を包んでいる。デパートから急いで出てきたのだろう、日に焼けていない白い肌を紅潮させて、慌てた顔で二人を見ていた。


「静流様、危ないですから下がって!」


 叫びながらデパートから出てきた女性が少女を掴み、屋内に引っ張って行こうとする。それに耐えながら、静流と呼ばれた少女は必死に声を上げた。


「殺しちゃだめ! その人を殺さないで!」


「人……?」


 少女の言葉の意味がわからず、二人が困惑している間に、ザティーグが動いていた。

 頭部に生えた二本の角が動き、低音を響かせると、青い静電気がバチバチと音を立てる。それはわずかな間に集まって巨大な雷の球となり、放電の音と勢いも強大になっていく。


「逃げて!」


 ティターニアの鋭い声に、ミカヅチは聞き返すこともなく従った。

 二人が後方に飛び退いた瞬間、雷球は弾けて無数の雷の蛇となり、周囲に放たれた。


「ちっ!」

「くっ!」


 二人は飛び退きながら、手に持っていた武器を投げる。投げた武器に雷が食らいついた。それでも飛び散った電流の破片が体に突き刺さり、偉大なる巨神の加護を受けた肉体に激痛を与えた。

 雷はあたり一面に飛びかかり、あるものを手当り次第に破壊した。コンクリート壁に穴を開け、車のボンネットを貫き、アスファルトを溶かした。


 ミカヅチが着地し、次の行動を取ろうとした時、背後から爆発の衝撃が襲った。

 爆発の方向に目をやると、道の真ん中にあったセダンが燃え上がり、真っ黒な煙を上げていた。

 雷の高熱でガソリンに火がつき、車が火を吹いたのだ。すでに車を捨てて逃げていたのだろう、中に人がいないのがせめても幸いだった。


 はっとして、ミカヅチは前方に視線を戻した。

 ザティーグの姿はすでになく、後には混乱だけが残っていた。

次回は8日(火)21時頃予定です。


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