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08 迎撃、そして突入

 獣達の突入に、ミカヅチ達は素早く反応した。


「ミカヅチとブライトは前衛! ちょっと時間を稼いで!」


 クロウの鋭い指示を受けて、二人は突撃した。こういう状況ではどう行動するか、事前に打ち合わせは行っている。


 ミカヅチは腰に提げた白銀の棍を両手に握った。二十センチほどだった棒は一瞬で伸び、それぞれ五十センチを超える長さの棍へと変化する。

 最前列のラースゴレームに駆け寄り、ミカヅチは左の棍で胸元を突いた。


「シャッ!」


 体重を乗せた一撃は乗用車との正面衝突したような衝撃で、ラースゴレームを吹き飛ばす。ミカヅチに群がろうとしていたラースゴレーム達は、前方の仲間と激突してバランスを崩した。


 その隙に、ミカヅチは左に跳んだ。将棋倒しから難を逃れた一匹が反応するよりも速く、右に握った棍を叩きつける。

 偉大なる巨神の加護を持つ白銀の戦棍とミカヅチの剛力は、ラースゴレームの装甲ごと頭部を砕いた。

 彼らは皆、命令に従うだけの生ける屍である。手加減は無用だった。


「っしゃあ!」


 ミカヅチの隣で、一輝は全身を光の鎧で包み、ラースゴレームの群れへと突進した。ブライト・アームの名の通り、光り輝く巨人となって手足を振り回した。

 拳も蹴りも、近くにいたラースゴレームの体に当たれば、そこが破壊されていく。光り輝く竜巻のようだ。

 ブライトを止めようと、ラースゴレーム達が群れで動いた。背中から二体がかりで羽交い締めにし、両足を一体ずつしがみついて動きを止めにかかる。

 さすがに動きの鈍ったブライトを攻めようと、二体が腕に移植された剣を伸ばし、ブライトの胴体めがけて突進する。


「なめん……なぁ!」


 気合一閃、ブライトが体を振り回した。背中に張り付いていたラースゴレーム達の体を掴み、一気に引っ剥がす。

 ブライトはそのまま腕を振り回し、突進してくる相手に叩きつけた。剛力でハンマーのように激突したラースゴレーム達は、互い互いに全身を破壊されて動きを止めた。


 ミカヅチとブライト、二人は近寄るラースゴレームを手当たりしだいに破壊していく。 二人が群れの動きを止め、一部に集中させたところで、クロウの鋭い声が部屋中に響いた。


「Beware my order!」


 おなじみの呪文と共に、クロウの魔術が発動する。先んじて左右に跳んで離れたミカヅチとブライトの間を、クロウが生み出した光の槍が飛んでいった。

 流星雨のように飛んだマジック・ミサイルが、ラースゴレーム達に突き刺さる。肉体と装甲を貫かれ、ラースゴレームは瞬時に絶命して倒れていった。


 茉莉香があぶれたラースゴレームの喉をナイフで切り裂きながら、歓心したように口笛を吹いた。


「意外と子供もやるもんだね」

「はッ、俺の方がすごいさ!」


 茉莉香の隣で、エルが張り合うように言った。悪魔の剛腕がラースゴレームの装甲を砕き、鋭い爪が肉を引き裂いた。


 パワードスーツに身を包む茉莉香は、単純な腕力や破壊力ではこの中で最も弱い事だろう。しかしその俊敏な動きは勝るとも劣らず、手持ちのナイフと左腕部に据え付けられたマシンガンが、ラースゴレームを確実に仕留めていった。


 五人が見事な動きを見せて、ラースゴレームの群れはみるみる内に数を減らしていく。

 最後の一匹に飛び蹴りを決め、動かなくなったのを確認して、ミカヅチは軽く息を吐いた。


「しかし、派手な歓迎だな」


 ラースゴレームの残骸をぐるりと見まわして、クロウが言った。


「まだまだ大勢来るかもね。気を引き締めてかからないと」

「いや。それにしては動きが鈍いね」


 茉莉香が開いたままの扉から顔を出し、周囲を伺いながら言った。


「侵入者の迎撃にしては、次の手が遅い。おそらく向こうにもそこまで戦力はないんだろうね。さっきの兵隊で時間稼ぎをして、その間に逃げる算段かもしれない」


「それじゃ困る」


 エルが悪魔の顔のまま、暴れ足りないとばかりに荒々しい声で言った。


「こいつらがなんで俺達を狙うのか、教えてもらわない事には安眠できねえよ」

「ああ、そうだね、エル。あたしもここまで来て、手ぶらで帰るつもりはないよ」


 茉莉香とエルは互いに頷くと、二人揃って部屋を飛び出した。ミカヅチ達も慌てて追いかける。


「ちょ、ちょっと、待って!」

「エルの鼻で追跡する! さっさとついてきな!」


 部屋の外の廊下は至る所で分岐してる上に、どこも似たようなデザインで酷く分かりにくかった。置いていかれたならば元の部屋に戻る事もできず、さまよう事になりかねない。


「なんか今回、俺達がおまけみたいだな」


 光の鎧を身にまとったまま跳ぶように走りながら、ブライトがぼそりと呟いた。隣で空を飛ぶクロウがそれに反応して軽く笑った。


「そんな事言ってもしょうがないよ。とりあえず、ボクらはボクらで頑張るしかないね」

「つっても、敵は全然出てこねえ。後はゴールで何が出てくるか、だな」


 窓のない廊下を走り、いくつか角を曲がり、階段を上ったところで、廊下の突き当りに扉が見えた。


「あそこだ!」


 エルが扉を指さして叫んだ。


「あの中に、魔法陣にいた奴がいる!」

「ブライト、頼む!」

「おう!」


 ミカヅチの声に応じて、ブライトは皆の先頭に立ち、扉に向かい走る。そのまま右拳を大きく振りかぶり、一気に跳んだ。

 落下の勢いもつけながら、拳を打ち下ろして扉を叩く。金属の板はまるで飴細工のようにたやすくねじ曲がり、室内に吹き飛んだ。


 折れた扉の残骸が床にぶつかり、硬い音を立てる。ミカヅチ達はそのまま部屋に突入した。


 入った部屋は、ミカヅチ達が転移されてきたところと同じく、窓のない簡素な部屋だった。二十畳ほどの広さの四角い部屋に、奇妙な形をした椅子や机が並んでいる。

 突き当りの壁には一面モニターが張られていて、廊下や各部屋に設置されたカメラの映像が映っていた。


 そしてモニターの下、扉から最も遠い位置にある机の近くで、男が怯えたような顔を見せていた。

 男の両手には、長方形の機械が握られていた。艶やかな装甲板で構成され、先端には磨かれて赤く光る鉱石のようなものがつけられている。男は機械の後方にある把手を握り、引き金に指をかけていた。


 見覚えがある形状だった。シュラン=ラガの兵士が持っていた光線銃だ。

 入って来たミカヅチ達に、男は即座に反応した。銃を構え、警告なしに引き金を引く。

 SF映画に出てきそうなデザインをした小銃の銃口から、赤い光弾が放たれた。


 クロウの胸元目掛けて、光条が飛ぶ。常人の肉体は豆腐のようにたやすく破壊する光条が迫った瞬間、光は無数の粒と衝撃音へと変化して弾け飛んだ。


「わ!」


 目の前での光に、クロウが瞬きする。胸の前でミカヅチの右手が翻り、白銀の戦棍が弾丸を弾いていた。


「大丈夫か?」

「ボクだって、そのくらい防いでたよ!」


 二人が軽口を叩く間に、男は更に光弾を連射する。ミカヅチは棍で光弾を弾きながら、男に向かって一気に走り出した。


「な、なんだ貴様!」


 男の口から、悲鳴めいた声が発せられた。それでも光弾を連射するが、ミカヅチの偉大なる巨神の加護に満ちた無敵の肉体と、巨神の与えた白銀の戦棍は無類の力を発揮し、光弾をたやすく弾いていく。

 ミカヅチが男の眼前に迫った時、男は悲鳴とも罵声ともつかない声を上げた。


 引き金を引くよりも早くミカヅチの右手が動き、棍が銃身を叩いた。装甲版に包まれた銃身はたやすくへし折れる。銃口から発射された光弾はあらぬ方向に飛び、、近くにあった机を粉砕した。


 手から離れた銃は机の破片と共に床に転がり、カラカラと乾いた音を立てた。

 かつて見た宿敵の姿を連想したか、男の顔に驚愕の相が浮かんだ。


「ま、まさか巨神(タイタン)の子か……!?」

「ああ、ティターニアの弟子だよ。覚えといてくれ」

「くそっ!」


 怒声と共に反撃に動くより早く、ミカヅチの雷光のような左拳が男の顔面を叩いていた。


「げう!」


 意味の分からない言葉を発しながら、男は倒れこんだ。

 ひゅう、と感心したように、茉莉香が口笛を吹いた。


「意外とやるね、坊や。もっと落ち着いた子かと思ってたよ」

「シュラン=ラガ相手に、様子見なんてしてられないんで」


 目を離した隙に何をやってくるか分からない連中である事は、幼い頃から何度も経験してきている。

 なるほどね、と返しながら、茉莉香は男に近寄った。


 鼻筋を抑えて悶えている男の襟元を掴み、左手で男の体をあっさりと持ち上げた。

 男は戦闘訓練も積んでいるのだろう、手足も太く、体重もかなり重そうに見える。それが茉莉香に掴まれて、弱々しく体をよじるしかできずにいた。


「エル。こいつから匂いはするかい?」

「うん。こいつがあの魔法陣にいた奴だよ」

「よし。つまり、あの魔法陣を描いた奴はこいつか、こいつの仲間だ。そしてこいつはあたし達を襲った奴らの仲間、シュラン=ラガってわけだ」


 茉莉香の顔を覆っていた仮面が外れ、元の通り分割されて肩に広がっていく。現れた茉莉香の素顔は敵意と殺意に満ち満ちていた。


「答えな。何故エルを狙った。言っとくけど、あたしはこっちのヒーロー達みたいに殺しはなしとか、そういうやさしさは持ち合わせてないよ」


「き、貴様……! そうか、沖縄の親子かっ!」

「いいね。その素直さに免じて、拷問じゃなくて尋問にしてやるよ。質問に答えな」

「ちょっと、待ってくださいよ」


 ミカヅチは慌てて止めに入った。襲われているならまだしも、戦意を喪失した相手をさらにいたぶるのは気分が悪かった。


「『アイ』に連れていけばいいでしょう」

「あん?」


 制止されるのは予想外だったようで、茉莉香が不満そうな目を向けた。


「あんただけぶん殴っておいて、あたし達は駄目だっての?」

「こいつを殴り飛ばしにきたわけじゃないでしょ。シュラン=ラガが関わってるって証人なんですから、こいつを連れて帰れば……」


 そう言いながら再度男の顔を見た時、ミカヅチの脳裏に閃いた姿があった。十年以上前に見た、ある男の顔だった。


「お前……、ソダル・ガーか」


 ミカヅチが呼んだ名に反応し、男は目を見開いた。


「何故、俺の名を? ティターニアに聞いたのか?」

「昔、色々あってね」


 適当にごまかしながら、ミカヅチは男──ソダルの顔をまじまじと見た。

次回更新は23日21時頃予定です。

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