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07 魔法陣の正体


「これは……」


 我を忘れて、ミカヅチは部屋に入っていった。フローリングの床の上にセラミックのような板が敷き詰められて、その上に謎の記号が複雑に絡みついた、円形の陣が描かれていた。魔法陣は紫色に輝き、明かりのない室内を照らしている。


 部屋には他に何もなく、まるで生活感がない。しかし窓にだけは高級そうな遮光カーテンがつけられていた。おそらくこの魔法陣が発する光を防ぐためだろう。


「大当たりじゃないか。言った通りだろ?」


 エルがどうだ、と言わんばかりの顔を見せた。。魔法陣の全体を眺めて、クロウが首をかしげた。


「でも、やっぱり魔力の流れなんかは感じないよ。一体何なの、この魔法陣」

「魔法陣じゃない」


 皆がミカヅチの方を向いた。

 ミカヅチは魔法陣に視線を集中していた。この魔法陣らしきものが何か、実際に稼働している姿を見てやっと気が付いたのだった。


「これは魔法陣じゃない。昔見た事がある。シュラン=ラガの結界回路だ」

「結界回路……って、なんだよそれ」


 聞いたことのない単語が出てきて、エルが疑問の目を向けた。


「シュラン=ラガの科学技術の一つだ。特殊なポリマーを使って図形を描いて、描かれた図形の形状に応じて色んな機能を発揮するんだよ」

「じゃあ、この魔法陣自体が何かの機械みたいに稼働してる、ってことか」

「ああ。例えばこれが、どこか別の場所にある隠れ家に飛ばす入口(ポータル)になる、みたいにな」


 もしこれがミカヅチの考えている通りならば、どこにでも展開できる、携帯式の遠距離ワープ装置を持っているようなものである。こんな安アパートでも、拠点への移動に使う際の隠し場所としては十分というわけだ。


「多分、あの町中に描かれた魔法陣も同じ結界回路なんだろうな。効果は別物かもしれないけど、使い終わった後に燃やすか何かして回路を処分した。そして残った焼け跡が謎の魔法陣として見られてたんだ」


 ミカヅチはエルの胸元を見た。はだけたままになっている胸元で、痣が魔法陣と共鳴するように、同じ光を放っていた。


「その痣も、シュラン=ラガと何か関係があるって事になるのかな」

「嘘だろ? 俺はそんなん知らねーよ」

「そりゃ、シュラン=ラガが地球に勢力を残してたのは十年以上前だからな。記憶に残ってなくてもおかしくないよ。それよりこっちだ」


 指差した魔法陣は輝きを失うことなく、光を放ち続けている。果たしてこれがどんな機能を果たしているのか、ミカヅチ達は誰も分からない。しかしこのまま放置しておくとしては、危険すぎる代物だ。


「問題は目の前のこれだろ。『アイ』に連絡しなきゃ」

「『アイ』に、か。まあそうなるよねぇ」


 茉莉香が軽く肩をすくめた。


「どっちにしたって、これ以上俺達には手をつけられません。『アイ』に調査をしてもらいましょう」

「手がかりを見つけたのに、ここで止まらないといけないとは。歯がゆいね」

「これを見つけただけでも十分ですよ。警察だって本気で動いてくれるはずです」


 そこまで話して、ミカヅチの頭に懸念すべき点が浮かんだ。


「まあ……この部屋への不法侵入をどうすんの、って問題はありますけど」

「お前、さっきから言ってるだろ。これは緊急避難だよ。こいつが変な音を立ててたから、俺たちは危険だと思って」


 横からエルが異議を唱えるのを、ミカヅチは思わず苦笑しながら眺めた。

 その時、ふとミカヅチは気がついた。目の前の結界回路の光が、脈打つようにゆらぎ始めていた。

 光が強く、弱く、ゆっくりと動き出す。そのペースは次第に加速していく。結界回路が本格的に稼働を始めている。


 ミカヅチが口を開くまでもなく、皆も気づいたようだった。


「ねえ、ちょっとこれ……」


 クロウが結界を指差す。ついに光は入ってきた時よりも強くなり、奇妙な振動音まで発し始めた。

 これ以上いては危険。皆が直感した。


「逃げろッ!」


 誰が叫んだかわからない声の中、全員が入り口のドアに向かって走り出す。

 瞬間、回路が発した光の塊に、ミカヅチ達は飲み込まれた。


───・───


 意識が跳んだのは一瞬だった。

 視界が暗転し、気づいた時には、ミカヅチ達の周囲は全く別の場所へと変わっていた。

 そこは灰色の金属の壁に包まれた部屋だった。二十畳ほどの広さで、窓は一つもない。四方には左右開きの扉らしいものが見える。天井にはところどころに楕円形の石のようなものが埋め込まれていて、それが発光し、室内を照らしていた。

 無機質で静かな部屋だった。病院を思わせる雰囲気があった。


「ここは……?」


 茉莉香とエルは困惑した表情を作っていた。流石に予想をしていなかった展開のようで、周囲を油断なく確認している。

 ミカヅチには覚えのある景色だった。


「どうも、シュラン=ラガの基地かなにかに飛ばされたみたいですね」

「これが……、シュラン=ラガ?」


 足元を見れば、床面に先程の部屋と同じ模様が描かれていた。


「多分、さっきのは空間転移用の結界回路なんでしょう。あのアパートがどこまでシュラン=ラガと関わってるかはわからないけど。出ていく時は回路を壊すだけで痕跡を残さないで済む、ってわけで」

「でもさァ、あのシュラン=ラガがこんなみみっちい隠れ方してるって、なんか幻滅だよね」


 体の調子を確かめるように、クロウが肩を回しながら言った。


「昔は地球征服しようとした帝国なのに、今じゃアパート借りてそこに出入り口を作ってるなんてさ」

「まだシュラン=ラガとは決まってないだろ。遺物を見つけて勝手に使ってるのかもよ」


 シュラン=ラガの侵略は地球全土に及び、多大な被害を与えている。戦乱が終わり、各地に放置されたままとなっている帝国の遺物を見つけた者がいるとしてもおかしくはない。


 クロウがむむむ、と考え込むように口元に手を当てる。その隣で、ブライトが困惑気味に言った。


「おい、なんかお前ら普通に順応しすぎだろ。もっと驚くとこじゃねえの、これ?」

「悪いけど、ボクらはシュラン=ラガの遺物は前にも見たことがあるんだ」


 ミカヅチとクロウがシュラン=ラガの残党と遭遇した事件は、大が巨神(タイタン)の加護を授かってすぐの事であり、ラージャルの起こした事件よりも前の話だ。ブライトが知らないのも当然である。

 ブライトは少々考え込むように腕を組んだ。


「なんか置いてかれた気分だぜ……」

「あんたら、話はそこまでにしな」


 茉莉香はそう言うと、エルの隣に駆け寄った。明らかに緊張しているその表情に、ミカヅチ達も臨戦態勢を取る。

 茉莉香の視線は扉の一つに集中していた。茉莉香が右手を首筋に当てると、肩から背中にかけて展開していた装甲が立ち上がった。

 小さな装甲がいくつも小気味いい音を立てて展開し、茉莉香の顔を覆っていく。数秒のうちに茉莉香の顔は、銀色の装甲板を重ねた仮面に包まれていた。


 親子の顔には緊張感が漂っていた。二人はミカヅチ達より先に何かを感じ取ったのか、そんな疑問に答えるように、エルが口を開いた。


「誰か来てる。さっきの魔法陣で嗅いだのと同じ匂いがする」

「やばいね。ちょっとヒーローさん達、せっかく来てもらったんだから、手伝ってもらうよ」


 エルの全身が炎に包まれ、悪魔の姿へと変化する。それと同時に、目の前の大きな扉が、左右に音もなく開いた。

 エルの凶悪な悪魔の姿にも負けぬ、邪悪なラースゴレームの群れが、部屋の中に飛び込んできた。

次回更新は22日21時頃予定です。

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