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04 奇妙な親子

 先程の埠頭から少し離れた位置にある、小さな波止場にミカヅチ達はいた。ミカヅチ、クロウ、一輝。三人の前には先ほどミカヅチに襲いかかってきた親子が向かい合って立っている。


 親子の背後には、積まれたテトラポットとゆるやかに揺れる海があった。その向こうに、先程までいた埠頭の明かりが見えた。

 少々暴れた事もあり、騒ぎが起こると面倒なので、場所を変えたのだ。近くに人や壊れて困るものがないここならば、少々騒いでも聞かれる事はない。


「さっきはすまなかったね」


 と、女が困った顔で言った。隣にはエルがふてくされた顔で立っている。


「この子はどうも勘違いしやすいタチでね。早とちりで刃傷沙汰になるなんて日常茶飯事なのさ」


 女は右手でエルの頭をぐりぐりと撫でた。親が子供を謝らせる仕草だと気付いて、ミカヅチの口元に笑みが浮かんだ。


「気にしてませんよ。一体どういう理由で勘違いしたのか、ちゃんと説明してくれるなら」

「へえ、いい返答する子だね」


 ミカヅチの返答に、母親は面白そうににやりと口元を歪めた。


「はじめに自己紹介しとこうか。あたしは二上茉莉香(ふたがみまりか)。こっちは息子のエル」


 茉莉香は隣に立つエルの肩をぽんと叩く。エルがふてくされた顔のままでいると、茉莉香は再度強めに肩を叩いた。


「ほら、エル。挨拶は?」

「……二上エルです。よろしく」


 エルは不承不承、といった感じで挨拶するのだった。


「俺は……ミカヅチ」

「知ってるよ。偉大なる巨神(タイタン)の子。そしてそっちがレディ・クロウ」


 茉莉香は確認するように人差し指でミカヅチとクロウを指し、そして一輝に指を向けた。


「あんたは知らない。ヒーローの新人さんかい?」

「まあ、そんなとこです。名前は……」

「ブライト・アームだ」


 ミカヅチの言葉を遮って、一輝が言った。その顔は少々誇らしげである。知り合い以外に初めて名乗ることができたのが嬉しいようだった。


「ブライトと呼んでくれよ」

「ブライト、ね。了解」

「……俺にはただのバイク乗りにしか見えないけど」


 ぼそり、とエルがつぶやいた。今の一輝の格好はヘルメットをかぶった大学生だ。エルの感想も当然といえば当然である。

 茉莉香ににらまれて、バツが悪そうに目をそらした。話を切り替えようと、ミカヅチは茉莉香に尋ねた。


「軍人さんなんですか?」

「元だけどね。なんでそう思ったんだい?」

「その強化服が軍用な事くらいは、俺にもわかりますよ」

「ちょっと伝手があってね」

「それにさっきのエル君を止めた動きは、強化服の力だけじゃできません。体自体を何かいじってるんだと思って」


 以前にミカヅチも、似たような相手に出会った事があった。彼は遺伝子レベルからの大がかりな肉体改造を施した強化人間であり、ティターニアのかつての宿敵の一人だった。国津大が初めて巨神(タイタン)の力に目覚めた時に、事件を起こしていた相手でもある。


「へえ」


 茉莉香が感心したように片眉を上げた。

 

「さすが巨神(タイタン)の子。若くても色々経験を積んでるわけだ」

「前に似たような相手に会った事があるだけですよ。フェイタリティっていう」

「なんだ、フェイタリティ? あのクソボケか」


 一変して吐き捨てるような口調に、ミカヅチは面食らった。気は強そうだが美しい顔立ちの彼女から吐き出される罵声は、聞く者の背筋を震わせるものがあった。


「いや、ちょっと……」

「そういや、あんたが初めて現れた時に倒したのがあいつだったっけ。ニュースで見たよ。そのままぶっ殺しといてくれればよかったのに」

「知り合いなんですか?」


「まあ、昔の知り合いだよ。それよりあんたは? ティターニアもそうだけど、タイタナスの神様がなんで日本であんたに力を貸してるんだい?」

「そこは……ちょっと込み入ってまして」


 ミカヅチは言葉を濁した。説明するには自分の周囲に関する、様々な事を話さなければならない。正体にもつながる話を、うかつにするわけにはいかなかった。


「まあ、そこはいいさ。あたし達が信用できるか、まだ判断できないだろうしね」

「信用する為にも、お互い情報共有といこうよ。そっちもそうしたいから、ボク達と話をしようと思ったんでしょ?」


 クロウが言った。茉莉香もうなずいて返す。


「それもあるけど、ちょっと『アイ』の偉い人達にコネを作っておきたくてね」

「コネ?」

「ああ。ティターニアとドクター・クロウの弟子がそれぞれいるんだ。坊や達なら、いざって時にグレイフェザーなんかとも話をつけられるだろ」


 ミカヅチは眉を寄せた。


「……それってつまり、あの魔法陣は、もしかしたら『アイ』の大物に知らせなきゃいけないような大事件につながってる、って事ですか」

「そうかもしれない、そうじゃないかもしれない。できればそのへんを調べるのに、あんたらの手を借りたいんだけどね」


「ティターニア達に話をつける必要があるって、何故そう思うんです?」

「シュラン=ラガの兵隊に襲われたからだよ」


「なに!?」「うそ!?」


 三人は思わず声を上げていた。

 シュラン=ラガ。それはかつてティターニア達が戦いを繰り広げた、異次元に住まう巨大な帝国の名である。その侵略の爪痕は今も世界各地に残っている。

 ミカヅチ達の世代には生涯忘れる事のできない名だった


「エルも昔は別の力を持った超人だった。それがあの悪魔みたいな姿に変われるようになったのは、最近の魔法陣事件が起きてからさ」


 そういって茉莉香はエルの方を見た。エルの胸元から、あの魔法陣と同じ痣が見えた。

 退屈そうにしていたエルが、茉莉香の視線に気づいて顔を向けた。


「ママ、まだ?」

「そうだね。なあ、あんたら」


 茉莉香はミカヅチ達に向かって言った。


「あたし達はこれから、そのシュラン=ラガの痕跡を追ってみる。あんたらはどうする?」

「痕跡? さっきの魔法陣から、ですか?」

「ああ。エルが気付いたみたいなんでね」


 ミカヅチは心中驚いていた。ミカヅチ達も魔法陣の周辺は見て回ったが、特に気になるものはなかった。それなのにエルには何か気付くものがあったのか。


「これからすぐ移動する。ヒマなら協力してもらえるかい。なんたってヒーローだろ? あんたら」


 軽く指をさされて、クロウが戸惑うような顔をした。


「えっと……。そりゃ、困ってるなら助けるのはやぶさかじゃないけど、先に話を」

「俺はいくよ」


 クロウが言葉を終える前に、ミカヅチは前に出た。


「ミカヅチ?」

「シュラン=ラガがこれに関係しているって言うなら、俺も見てみたいんで」


 ミカヅチの瞳には強い光があった。

 ミカヅチ達以上の年齢の者にとって、シュラン=ラガは心に大きな傷を残した国と言ってよかった。数年にわたって地球全土に侵攻を開始し、その被害は戦争終結から十年近く経った今でも、各地に様々な爪痕を残している。


 彼らが地球に再度狙いを定めているのだとしたら、人々がそれに興味を示すのは当然の話である。

 しかし、ミカヅチの心中に燃える炎の勢いがどれほどのものか、この親子も理解することはできないだろう。

 シュラン=ラガはミカヅチにとって、幼少期から因縁のある相手だ。もしまたここで何かの計略を練っているのならば、それを阻止したかった。


「ふうん……」


 言葉少ななミカヅチに、茉莉香は軽く首をかしげたが、結局は納得したようだった。


「まあいいさ。巨神の子の手が借りられるならありがたいしね」

「ああ」


 ミカヅチは振り返り、クロウと一輝の方を見た。


「そういうわけだから、二人はまずグレイフェザーに連絡を……」

「どういうわけだよッ!」


 クロウが怒声を返し、ミカヅチは思わず怯んだ。


「なにも、そんな怒らなくても」

「怒ってる? ボクが? ああそうかもねェ。一人で勝手に決めてさァ!」


 クロウのいつもは大きな瞳が歪み、恨めしそうにミカヅチをにらみつける。彼女がここまで腹を立てているのは珍しかった。


「ボクらはチームだよ? 隣にいるのに、一人で勝手に話を進めないでくれる?」

「今回ばっかりはクロウに同意だ。お前が悪い」


 ブライトも隣で腕組みしながらうなずいた。


「シュラン=ラガと聞いて、気になるのはお前だけじゃないんだ」

「ボクらも行くからね。三人全員参加。リーダーの決定。例えサブリーダーでも異議は唱えさせない」

「……わかった、悪かったよ」


 ミカヅチが頭を垂れると、クロウがへの字口を作りながら謝罪を受け入れた。単純だが裏表のない彼女の性格は、とても魔法使いとは思えない。しかし友人としては最高の気質だった。


 クロウは茉莉香に視線を向けて、


「そういうわけだから、いい? ボクら三人、全員でシュラン=ラガを追う」

「ああ。わかったよ」


 茉莉香はそう言うと、少し考える素振りを見せた。


「一応車は用意しているけど、ひょっとしてあんたら、走ったほうが速いの?」

次回更新は19日21時頃予定です。

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