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10.怪しい仮面

 結局、気を失った那々美は目を覚ます前に関係者に連れて行かれ、降霊会はそこでお開きとなった。関係者や司会、加えてまだ那々美に会っていなかった人々からも敵意のこもった視線をぶつけられて、大達は逃げるように会を後にしたのだった。

 予想よりも早く帰る事になって、ひとまず近くの駐輪場に置いていた自転車を取りに、大達は歩きながら向かっていた。


「残念だよ、ほんと。まさかいっちゃん達が霊を降ろす前に那々美様が倒れるなんてさ」


 ガードレールとビルに挟まれた広い歩道を並んで歩きながら、幸太郎が心配そうに言った。


「きっと那々美様、すごい体調が悪かったんだ。無理を推して俺達の為に頑張ってたんだね」

「うーん、ひょっとしてさァ、大がなんか変な人を呼んだせいなんじゃないの?外国語で喋ってたけど」


 凛の茶化すような口調に、大は少しむっとしながら反論した。


「別に変な人じゃないよ。綾さんのご先祖様なんだから。さっきの那々美さんが話してたタイタナス語だって、かなり訛りがきつかったけど現地人らしい発音だった。少なくともタイタナス人の霊を降ろしたってのは信憑性がある」

「おいおい、嘘だろ……。結局そういう結論が来るのかよ」


 勘弁してくれ、と一輝がつぶやいた。悔しそうに顔をゆがめるが、それも仕方ないだろう。元々幸太郎が騙されていない事を調べる為に大達に依頼したのに、結局逆の結果が出てしまったわけだ。反対に幸太郎は得意満面の笑みを浮かべた。


「だから言ったろ、いっちゃん。那々美様は本当に霊を呼べるんだ。いっちゃんも霊を降ろしてもらったら、僕の気持ちが分かったと思うんだけどな」

「悪いけどな、コウ。霊を降ろすっていうし今さっき巫女さんに降ろしてもらったわけだけど、コウは全然変わったように見えねえぜ。単に思い込みって事はねえの?」

「ひどいな。じゃあ証拠を見せたげるよ」


 そういうと幸太郎は小走りに大達の前に出た。立ち止まる大達の二メートルほど前で向かいあい、体を軽く上下に揺らし始める。


「見ててよ……」

 タイミングを計るように体を曲げて、呼吸を整え、掛け声と共に一気に跳躍した。

「ハッ!」


 近くにあったガードレールの柱の頭を蹴り、更に跳んだ。飛んだ先にある電柱に足を、電柱から生えているボルトに手をかけて、縮めた全身のバネを一気に伸ばす。それによって地面から四メートル近くまで跳躍した幸太郎は、宙で鮮やかな縦回転を見せ、元の位置へと綺麗に着地した。


「おおー……」

 あっけにとられる大達の前で、幸太郎は自慢げににやりと笑った。


「どう?霊を降ろした直後はこういう事だってできるんだ。俺がはまるのも分かるでしょ?」

「すげえ!すげえな!」


 先ほどの空気などどこへやら、一輝が興奮して幸太郎に駆け寄った。


「なんだよお前、そういう事できるんなら先に言えよ!」

「こういうのができるのは霊を降ろしてもらってからすぐなんだよ。一日ごとに力が落ちちゃうんだ」


 確かに並みの学生とは思えない動きだった。一流のアクションスターのような見事な跳躍に大も驚いていたが、もう一つ別の事も頭にあった。


「こないだのアキラが言ってた守護霊って、やっぱりナナミさんの事だったのかな」


 隣で凛が大だけに聞こえるようにつぶやいた。凛も同様の考えが頭に浮かんだようだった。人に一時的ではあっても超人的な力を容易く与える巫女。果たして彼女は何者で、何を考えているのか。


「それじゃ、俺こっちだから。今度は那々美様のところでちゃんと降ろしてもらおうよ」


 横断歩道を挟んだ先のマンションに向かう幸太郎を、大達は手を挙げて見送った。幸太郎の姿が見えなくなった後、また駐輪場に向かって歩き出しながら、一輝はぼやくように言った。


「しかしなぁ……。結局巫女さんが本物なのかどうなのか、わかんねえままか。結局のとこどうなってんだろうな」


 うんうん、と凛も声を出して同意した。


「秋山君と大は実際に霊に触れたから楽しかったかもしれないけど、ボクらは結局この仮面をもらっただけだもんね。これどうする?」

「とりあえず持っとけばいいだろ。またコウが降霊会に呼んだ時に、持ってきてくれ、って言われるぜ、多分」

「そっか」


 納得する凛の隣で、大が気になっていた事を声に出した。


「それよりも、俺は日高那々美が降ろした霊の言葉の方が気になるんだよ」


 那々美が、正確には那々美に降りたギデオンが口にした『ラージャルが来る』という言葉。これが大の頭にこびりついていた。

 ラージャルについては那々美が知っていても、まだおかしくはない。世界史では教えないが、映画やドラマ、様々な作品の主役に取り上げられた事もある人物だ。各作品は日本にも輸入されているし、日本人が知っているタイタナス人の名前としては、ティターニアの次には来るだろう。仮に先ほどの言葉がギデオンではなく、那々美の演技なのだとしたら、その名前は真っ先に思いつくところだ。

 だが先日、ちょうどラージャルの仮面を強奪した連中に遭遇した大としては、単なる偶然で済ませる気にはなれなかった。


 手に持った仮面に目をやる。木製で安物なのは分かるが、つくり自体は丁寧なものだ。果たしてこれが守護霊を降ろす事にどういう関係があるのか、大には分からなかったが、少なくとも製作者は真面目に作っているらしい。


「そういや、あんときの巫女さんってなんて言ってたんだ?ラージャルだかレージャルだかを連呼してたのは聞こえたけど」


 一輝が単純に疑問を口にする。大は手に持っていた仮面を見せながら、


「ニュースでやってただろ? 昨日市立博物館に展示されてたラージャルの仮面が、強盗に襲われて盗まれて……?」


 説明の途中で、仮面に対する違和感の正体に気が付いた。黄金と木、質感の違いや表面の色のせいで気付かなかったが、この仮面は先日見た、ラージャルの黄金の仮面と同じ造形をしている。

 ラージャルの仮面の強奪、『ラージャルが来た』という霊の声、そしてこの仮面。偶然というには続きすぎていた。


「一輝、秋山の部屋分かるか?」

「ん? そりゃ分かるけど、どうした?」

「話が聞きたいんだよ。今すぐ」

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