救出
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「いやぁ! 助かったよぉ!」「もう少し静かに話せ。」木々の陰に隠れた場所で身を潜める。「後は帰るだけですね。」「ほんとに一人だったのかよ。よくそんなことできるな。」「私もねぇ、最初は皆と居たんだけどすぐにどっか行っちゃって。」「合流前から同じところに何度も戻り鎧やゾンビと殴り合っているのは見えていたが、かなり重症のようだな。」「その籠手……、石ですか?」「うん! そうだよ! 見る?」籠手を見つめる少女に見張りの男が声をかける。「今なら気配はない。」「分かりました、行きましょう。お名前を聞いてもいいですか?」「ポトレだよ!」
木々を抜け拠点への道を進む中、空に暗雲が垂れ込める。「τどうしたの?」「急いだほうが良いかと、落雷が来ます。」「ここに来て雨なんて見たことねぇけど、雷なんて降るのか?」「来ます。」激しい音と光が来た道を照らしその場を揺らす。「……本当に急いだ方が良さそうだ。走れ!」照らされた道の先には落ちた雷と同じ色の鎧の軍勢がこちらを見据えていた。一瞬で一行との距離を詰めてきた一体の鎧を銃撃が撃ち抜く。「私が足止めをします。」「私もやるよ!」「駄目だ! 今まで見てた白いのとは様子が違う! 後、俺達はお前を捜索してきたんだ! 大人しく逃げろ!」「ですが、あの数と速さでは逃げ切るのは無理です。」二体目の鎧が拳に砕かれる。「自分狙いじゃなかったら対処できるよ!」「……これって。」「僕狙いっすね。」「各個撃破か? いや……。」「どこでこんな恨み買ったんだ?」「身に覚えはないんすけど、試しに囮になってきますよ。」「一人で行く気ですか!?」「止められるのか?」「止めるくらいならいけますよ。」「待ってください! 鎧に殺されたら―――。」「行け。今まで信じたことはなかったが、その言葉だけは信じよう。」「酷いなぁ。」「俺は信じてるからな。」反抗する少女を担ぎ、一時的な別れの言葉をかける。離れる背中を笑顔で見送り、一人孤立した所を鎧に取り囲まれる。「逃がす気はないみたいだね。」鎧をひとつひとつ確認し周囲を見渡す。「本体はどこかな?」
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「ウイ、いい加減に機嫌治してくれ。」「理解はできても許容できる問題じゃないの。」「奴はいつも俺達に何かを隠していた。あれが奴の招いた問題ならばこの判断は正しい。事実として追手はいない。」「ですが……。」「前方に見覚えのない人物が確認できました。」報告により各自が対象を確認する。「敵か?」「いえ、そうは見えません。武器も構えていませんし。」「あの武装は知りません。警戒は……必要なさそうです。」「おい、視力バカだけで盛り上がって結論付けるな。」「何も見えないよ!!」「隊長さんもいます。」整った装備の女性が腕を組み一行を迎える。「先程天使が連れてきた分と含めてこれが全てか?」「ああ、現状私が把握してる戦力はこれだけだ。足りるか?」「不測の事態を考慮すれば不十分だが仕方ない。」「アルムさん、この方は?」「私の名はアミリア・ドルムレド。増援としてエレティアに力を貸している。」「挨拶なら帰ってからでもいいだろう?」「調べなければいけない事がいくつかある。その前に確認しておきたかった。先程の雷を見た以上、貴方達は理解してもらえると思うが異変が起きている。エレティアからの伝言だ。『準備が整うまで拠点にて待機』と、必要なことは伝えた。」「あなたは?」去ろうとするアミリアに尋ねる。「戦力になりそうなものを探しに行く。」
アミリアがその場を去った後、一同は拠点へ足を進める。「増援と言っていましたけど、彼女以外にもいるんですか?」「彼女を入れて4名だ。」「少なくないか?」「皆我々の物差しで測れる存在ではない。」「アミリアという方は人間かと思われます。」「やはり、そうか。しかし彼女は魔法に近い技術を持っていた。」「少数精鋭か。」「それより、君達が見た雷とやらについて報告してくれ。」
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暗い屋敷に二人の訪問者が訪れる。「誰だ?」門の上から見下ろす問に答えは訪れない。「侵入者か。」業火を纏い敵を駆除するために翼を広げ襲いかかる。「邪魔。」翼は体を離れ、胴は八つ裂きに切り裂かれた。巻き添えを受けた扉を踏み越え奥へ進む。「突然の訪問に加え、礼儀を知らないのかな。使いの振る舞いは主の品格に関わる。」椅子に座る男が目を開く「貴方が言えることですか? 魔王。」「自由過ぎる配下を持つと苦労が絶えない。立場が逆とはいえ君達の苦労は伺えるよ。」固体化した空気の弾丸が顔の横を通り壁を穿つ。「俺らの仲間が死んで、その主が行方不明だ。」「貴方は何か知っているのでしょう?」少し考える素振りを見せ、間を開けて顔を向ける。「信頼を築けていないのは残念だ。世界の裏まで足を運んだところ申し訳ない。私は何も知らない。」「本当か?」「何か勘違いをされているが、私はバランスを取るためにここにいる。騒動にはかかわらないスタンスでね、警戒される者ではない。加えて、君達は主の力を見誤っている。アレが静かに消える訳がない。」二人に報せが届き顔を見合わせる。「当ててみようか?」「結構です。お騒がせしました。」立ち去る背を見送り、一息つく。「今日は客が多いな。」訪れる気配に語りかける。「相変わらず姿を隠すのは得意か。ここに来るということは計画が上手く行き過ぎて暇になったか? 抵抗する気はないよ。手は打ってある。」
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「とんでもない面倒事を押し付けられたな。」「神様気質はいつになっても変わりようないのかな。」「それで? ここは何処なんだ、ロア。」「知らないよ。伝えられた通りに探してるの。手伝わないなら静かにしてて。」微動だにせず作業を見守る。「……ここかな?」目の前の空間を弄ると突如として周囲が岩壁で囲まれ洞窟の内部へと化す。「……オーブくん、ふざける余裕ないかも。」開けた空間の中央に琥珀の中に眠る自らの主を確認した。「おい、どうすんだよ。」「とにかく、動きを止めて。一瞬でも止められたら巻き戻せる。」琥珀に罅が入る音が聞こえた時、空間を劈く目に見えない刃が辺り一面に広がり二人は飛び退く。周囲の空気ごと空間を圧縮し主を捕らえようとするが身を捩じるかのように抜けだそうとしている。「今!」「おう!」上へ上昇しかけたところを叩きつけられ、落下の衝撃で床が崩壊する。主の目前まで転移し、衝撃に順応される前に手を当てる。崩壊した洞窟は戻り、駆ける刃は勢いを失い、床に伏した主は勢いよく起き上がる。「や! 久しぶりだね、二人とも。」「おかげさまでな……。」「何が、あったか、聞いても?」
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