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世界崩壊  作者: 古亜
世界崩壊編
6/9

魔女

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 結界内部、何もない空中に一筋の切れ目が入り穴が開かれる。「どこだここは?」『目的地だ、この結界内に貴様の妹がいる。』穴を閉じ鬱蒼とした森の中、辺りを見回す。「それで何処にいるんだ?」『まあ待て、今探している。……居ないな、間が悪かったか。』「はぁ? ここにいるんじゃねぇのかよ!?」『間違いなく居た! 少し動いただけだ、暫く待てばまた現れる。』「待たなくても出てくる時間まで動けばいいだろ!?」『この結界の中では時間の流れが制限されている、時を跨ぐことはできん。一度我の空間へ戻ろう。』「座禅でもするかぁ?」来た道を戻ろうと刀を握りなおす。『む? 伏せろ!!』理解するよりも先に指示通り身を屈める。どこからともなく飛んできた何かが頭上を通り抜け木を薙ぎ倒し地面に突き刺さった。突き刺さったそれを目視した瞬間再びケイゴ目掛けて真っ直ぐ襲いかかる。「!?」咄嗟に横に避け穴を開こうと刀を振るうが光る弾丸により阻止される。「お前がとろいから逃げられるとこだったよ。」「そいつァいけねぇなぁ。折角会えたんだ、そんな勿体ねぇことはしたくねぇ。」恐らく先ほど飛んできた物体であろう不格好で罅割れた大剣のようなものを担いだ男と目が合った。『魔女か、それも二体。行動も読まれていた、面倒なことになったな。』(魔女……?)「魔女であってるよ。」男の後ろからフードを被った少女が小さな銃を構えたまま声をかける。「シュレン、どうだこいつは?」「多分外から来た奴だよ。」男はニヤリと笑い大剣を構える。「メーデス、俺の名だ。楽しもうぜ?」『相性が悪いな、奴の大剣を砕いては厄介なことになる。我が攻撃を行えば即座に砕きかねん。』(あんまりぶつけない方がいいか?)「バレてるよ、()()のこと。」「うるせぇ! その為に連れてきたんだろうが!」『いや、少し厄介だが防ぐ程度であるならば問題ない。隙を作り次第引くぞ。』刀を構え向かい合う。「準備が整ったようだ。逃げる気は消えてない。」「そうか。まあいい、行くゼェ!!」踏み込みに合わせ大振りの横薙ぎが放たれたが体格故か高さのある一撃ともとれるそれを潜り抜けケイゴは真っ直ぐに刀を滑らせ胴を狙う。「少し遅ぇな。」男の体は浮かび上がり刀は大剣と同じく空を切る。「オラよ!」踏みとどまり、振り返り様に入れ替わるように襲いかかる大剣を刀で受け止める。受け止められた大剣は流れるように受け流され再び向かい合う状態となった。「なぁ、寝てていいか?」「は? 起きてろ。」『少し動きを速めるぞ。』相手が構えるよりも速く踏み込む。突撃する刀に対して大剣で防ぐ構えを取る。「後ろ。」体をひねり背中に回り込む瞬間に声が届く。回転のまま切りつける刀の先に後ろ手に大剣が降ろされる。「な!?」咄嗟に地を蹴り大剣から距離を取る。「速くなったな、目で追えなかったぜ。」『判断が速いな。面倒だ、貴様は奴を切ることだけを考えろ。大剣の事は忘れろ。』「今度は真正面から突っ込んでくる。」「おお、理解が速い奴だ。最初からそうすりゃいいんだよ。」真っ直ぐに近づき全力で刀を振り下ろす、合わせるように大剣が刀を真正面から受け止めるように振るわれる。


 至極色の液体がメーデスの肉体から飛び散る。「グァ……!?」その場にいた三者とも何が起きたかを理解できずに思考が停止したが逸早く行動に移ったのはケイゴだった。同時にシュレンがケイゴに意識を向ける。「逃がすか!」即座に放たれた弾丸に対し自ら距離を詰め刀を振り上げることにより空間ごと引き裂き両断した。続いて放たれた弾丸がたどり着くころには裂け目は消失していた。舌打ちをし銃を降ろす。「メーデス、一体何された?」「ああ……、道理は分からねぇが俺の『剣』をすり抜けやがった。」「あの刀、やっぱり何か仕掛けがあったか。」「なに、同じ手は二度も食らわねぇさ。」傷跡が消えた体を起こし立ち上がる。「次は、よろしく頼むぜ相棒。」「追うのか? どう探す?」「一度見つけた獲物だ、この結界内に現れるなら匂いで分かる。」それまで力を存分に蓄えておこう。本気を出せた時のために。



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 森の開けた道に響く荘厳な鐘の音と共に扉はゆっくりと開き始めた。疑問を口に出すよりも早く、拳一つ程度の隙間が開いた扉から一筋の白が銃弾の如く子供目掛け一直線に飛び出した。亡霊は咄嗟に何重にも圧縮し重ね合わせた城壁を創り出す。城壁は衝突により轟音と亀裂を生みつつも白を防いだ。「リュー! あれ何!?」『……喜べセイ、強敵だ。』目を合わせ口角を上げる。「へぇ♪」扉が開き二つの人影が現れ白は縮み槍の形となり持ち主の手へと帰り城壁は崩れ落ち泥へと戻った。「仕留め損ねた、まだ技量が足りないか。」「あの、もしかして、あの子どもたちを?」「そうだ、あの子供()狙いだ。」白槍を持った小柄な女が後ろのローブを睨みつける。「貴様、何の真似だ?」ローブが抗議の声を上げる前に亡霊が怒りをぶつける。「その子供は『聖域』に侵入していた。『使い』として処罰を行う。」「君達が戸締りしてないからこんな子供が迷い込むんじゃないの?」ふわふわと亡霊に近づき口を挟む。「女王様、一時休戦ってことで手組まないかい?」後ろの子供達を一瞥しセイを睨みつける。「随分と身勝手な話だが、やむを得ん。互いに争う暇は無いようだ。」白槍の女は空中から取り出した本を開き二人を一瞥した。「今はお前達の様な者の相手をする仕事はしていないし、興味も湧かん。大人しく、その子供二人を渡せ。出来る事なら傷を付けず生きたまま連れて行きたいのだが……。」周囲に展開された泥が竜巻や戦闘機を生み出しその場を取り囲む。「アルマリア、何もしないのなら下がっていろ。守る戦いは嫌いなんだ。」「すみません、ジェイスさん……。」本を仕舞い、構えた白槍が腕に絡まる。「何あれきも。一応あなたにも加速かけてあげるね、慣れなきゃ気分悪いだろうけど。」「問題ない。」「……、来ないの?」構えを崩さずにこちらを注視したまま口を開く。「魔女や亡霊に無闇に斬りかかることはしない。尤も、お前達に戦う気がなければ争う必要もない。」「それは残念だったね!!」銃撃とともにセイが斬りかかるが手に絡まった白槍がジェイスの周囲に球を描く様に流動し銃撃と鎌を弾く。「マジ?」セイのいた場所が薙ぎ払われ斬撃の軌跡が残る。反動でセイが飛びのくと同時に竜巻が地面を抉りながら球に衝突し、泥となって覆いかぶさる。「反撃しかしない気か?」覆いかぶさった泥が徐々に沈みこむ。


 強い衝撃が溜息とともに放たれ纏わりつく泥を完全にかき消した。「無駄だ。この程度では私に触れることもできないだろう、諦めてくれ。」「じゃあ、触られないように気を付けてね!」氷を纏い作り出した分身達が同時に襲いかかる。「無駄だと言って―――」弾かれる連撃の中、一つの鎌が殻をすり抜け首に襲いかかろうとする。「成る程。」鎌の刃を掴み取り引き寄せる。「え?」セイの肉体が振り払われた槍に両断される。「馬鹿が……!」「どうやら、お前達は脅威を持っていなかったか。要らぬ用心をしてしまった。」投げ捨てられたセイの体が地に転がる。「まだ続けるか?」亡霊が歯を噛みジェイスに手を翳そうとした瞬間、死体の空中に二つの穴が開き甲高い笑い声が響く。「何が起きている?」穴から現れた二人のセイに亡霊は困惑する。「ちょっと! 私が先に来たんだから、ここは私のだよ!」「私の方が開くの早かったでーす!」「……。魔女は()()()()()()と知ってはいたが、お前の『魔法』は理解した。敵対している状態で生かしておくわけにはいかないな。」睨まれた二人のセイは互いに目をやる。「とりあえず、ヤバイ奴っぽいし一旦協力する方向で。」「あんまり舐めれなさそうだし賛成で。」氷の霧が周囲に広がる。ジェイスが地面を軽く踏みつけ霧をかき消したが瞬時に立ち込める。「やはりか。」背後から迫る鎌を空間ごと素手で弾き返す。「うわ、想像以上にバケモンじゃない?」霧の中に隠れていたセイの左腕が切り落とされる。「こんの!!」セイの『魔法』は発動せず、ジェイスは片手で何かを掴んだまま脳天に槍を突き出す。「まさかとは思うけどこいつ!!」咄嗟に加速することで槍を掠りながらも回避しジェイスと距離を取るが空間が歪む程の斬撃が追撃として放たれる。「『魔法』が効かない!」「そうか、まだ会ったことはなかったか。魔女の『魔法』を無防備で受けて効かないということはない。だが、本質を理解し手段を用意することで防ぐことができる。」距離を取ったセイに対して距離を詰める。「そして、()に手段は必要ない。」「こうなったら……!」セイが空間に手を入れ、ジェイスが槍を振るう瞬間、再び鐘が鳴り霧を掃い両者を遮る扉が現れた。


 「フィリアスか。どうした?」扉が消え、声が届く。「無意味な争いを止めた。その子供達は何も盗んではいない、ただそこに辿り着いてしまった、それだけ。考える前に力で制圧する、その悪い癖を治せ。」背後に目をやるとアルマリアが気弱に訴える目で頷いていた。「その程度の事でお前が動くとは思えん。本題を言え。」「招集だ。」「何? 神の気まぐれは理解できん。戻るぞ。」「は、はい!」


 「待て!」新しく開かれた扉に入るジェイスに向けられた泥は届くこと無く槍に振り払われる。「今の私にお前の在り方を決める理由がない。だが、手放したくないものがあるなら握っておくか我が物とする程度はしておけ、亡霊。半端者には何も為せない。それでも裁きが欲しいのならば、いつでも与えてやる。」


 扉が消え、その場に静寂が訪れる。じゃんけんをして負けたセイは穴に消え勝利したセイは不機嫌な亡霊に声をかける。「んで、続きやる?」向けられた鎌に溜息をつき手を払う。「やめておく。勝ち目が無い事は理解した。」壁で囲っていた子供たちを開放し一瞥する。「外に出る道を作れるのか?」「ん? 出たいの? それなら出してあげるよ、勝者とは寛大なものだからね! どこに出せばいい?」「多少安全な場所ならば何処でも良い。」



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 抉られた崖の下、綺麗に響く拍手の主をガレス達は見上げていた。「あ、兄貴、マズイやつじゃ……?」似た風貌の二人組が緩やかに地に近づく。「素晴らしいね、()()を仕留めるだなんて。僕達からしたらつまらない代物だけど、君達にとって一筋縄で行くようなものではなかっただろう?」ハルカの行動を制止し、降り立った二人組と対峙する。「お褒め頂き光栄だが、どちらさんだ?」「失礼、名乗っていなかったね。僕はラプス、本物の『魔女』さ。」「ラムパだよ♡」「おや? 驚かないんだね。」「あんだけ偽物偽物言われたらそういうのがいるってことは理解できっからな。それで、わざわざ足を止めて何の御用で?」「持て余してる暇を潰しに来たんだ。君達は運悪く出会ってしまった。だから―――」指示と同時にハルカの蹴りがラプスを吹き飛ばす。「ちょ!?」同時にラムパを頭から巨大な岩が押し潰す。「馬鹿の怪力が……!」空中に打ち出されたラプスに真正面から追撃が襲い掛かる。「この程度―――」正面にいたはずのハルカの拳が背後に放たれる。「ッ!?」全方位から不規則に連撃が叩き込まれる中、地上からこちらを見つめる少女に気が付く。「アイツか……!」途轍もない速度で地面に向かって叩きつけられるラプスの後を追い何本もの木々が一点に向け大地へと突き刺さる。攻撃を終え自由落下するハルカの元へミホが駆け出した時、不意にその目が閉ざされる。「は〜い、ストップ♡」


 「ミホ!!」捕らえられた妹の元へ駆け付けようと空中を蹴る。「おっと、行かせないよ。」いつの間にか真横に居たラプスの手がハルカの背中に添えられ鋭い樹木が胴を貫き地面に突き刺さる。「何ぃ♡? やり返し♡?」汚れ一つ無く降り立ったラプスに笑いながら尋ねる。「意趣返しだよ。人の『魔術』とやらは思いの外使い勝手がいい。それよりもラムパ、『魔法』は使ってないだろうね?」「分かってるよぉ……でも『魔術』は使い方分かんなかったから。」


 何も見えない、ただ血の臭いが届く。昔嗅いだことのある臭いが。「なん、で……!!」「おやおや、その状態でまだ喋れるのかい?」裸足で鉄球を抱えて走った痛みが。「君の動きには驚いたよ、もし僕じゃなくてラムパの方を狙っていたら確実に殺せていたかもしれないね。」傷だらけになって倒れた私に手を伸ばす姿が。「ところで、何をしているんだい?」「私を潰したのって()()?」「……そうだけど、まさかその確認のために何もせずに待ってたのか?」「偽物は見てるのが大事って言ってたでしょ♡! こうすれば何もできないよ♡!」あの時与えられた救いが。「ラムパ……、君は本当に、いや。僕は君のそういうところが好きなんだ。いいかい? 目が見えなくても体を少し動かして抵抗することは誰でも動けるんだ。」「分かったから! コレちっちゃいから考えてやらないとすぐ終わっちゃうでしょ♡! どうするといいと思う♡?」「いや、偽物は所有してる核を破壊しなければ死なないはずだよ。考えを凝らす必要はない。」「核……?」「……。」「ミホッ!!」「あいつまだ―――」「これかな♡?」


 ミホの手に抱えられた鉄球が光を放ち弾け飛ぶ。「わっ!」「!?」ラプスがラムパの方へ振り返る。「アアアアアアアアア!!」一瞬の隙にハルカは身を貫く大樹をへし折りラプスに投げつける。「こっちもか!」消えたラプスを無視しバランスを崩したラムパの半身を消し飛ばす。「……そうか、()()()やりやがったな。」貫いたはずの穴は消え真っ直ぐにこちらを目で捉えている。その後ろ、ボロ布を纏っていたはずの少女は光に包まれ数秒前とは全く異なる目をしていた。「お見通しってか!? 僕達にこんな侮辱まで用意しやがって!!」散らばった血肉がラプスの近くへと集まり形を作る。「ネェ? ナニしたノ? マた殺しタの? わタシヲナンだとオもってルの? ユルセナイ……ユルセナイ!!」「ラムパ待て! 『魔法』は!」


 「そこまでです!」ハルカ達の後方に天使、ミルトゥエルが双刃の先に青い光の刃を帯びた槍を弓として光の矢をラプス達に向けて構えていた。「ダレ?」「スフィーの駒か。」「守護者(天使)です。これ以上暴れるなら私が相手になります!」「テンし? そノニせものをまモルの? ジャマ?」「ラムパ、そいつは『魔女』だ。」「??? ナんデ?」「さすがに『魔法』を使わずに天使も相手するとなると光翼が無いと言っても厄介だ。分かった、手を引こう。」肉塊が元の在り方へと落ち着きを取り戻す。「どうして♡?」「()()()は僕達を必要以上に好き勝手させない手はしっかりと打っていやがった。不服だけど少し大人しくしておこう。」空にゆっくりと溶けていく影が完全に消えたことを確認しミルトゥエルはハルカ達に近づいた。「遅れてごめんね、あなたたちだけでも守れてよかった。」「大丈夫、あいつらも多分気にしてない。さっきの魔女の口振的にあんたが味方なのは分かった。」嬉しそうな笑顔を浮かべミルトゥエルは二人に抱き着く。「信じてくれるんですね! ありがとうございます! ではこのまま帰りましょう!」背後に見覚えのある魔法陣が展開される。「このまま?」喜びのままに飛び立つ光の軌道は真っ直ぐな水平を描いた。



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