亡霊と神象
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森の中を飛来する大鎌の少女。「お、これが偽魔女のハウスね!」ハートを模した悪趣味な小さな建造物に突っ込む。『む? 違うな、この気配は。』入口を蹴っ飛ばしたところで違和感に気付く。「何? これ?」頭がグラグラする小さいはずの空間が無限に感じる。『周囲に認識阻害の力が付与されていた。この空間も狂いが生じている。』頭痛がして内容が入ってこない。「どういうこと? 簡潔に言って。」『出たほうがいい、今回の件には関係ない。ハズレ、神象だ。』「神象?」
言われた通り空間から出ようと後退するが、何か来る。今の状態ではまともな受け身は取れない。盾を貼ろうとするが思考が定まらない。こうなったら「お願い!」心臓目掛けて何かが衝突する寸前、氷の盾が展開され空間ごと隔絶される。氷の壁越しに飢えに飢えた肉食獣が久しぶりに獲物を見つけたという顔で迫ってきた存在を確認する。氷には鎖が刺さっている―――視認した物はこれか。氷の壁を蹴り、外に脱出する。「で!? 神象って何!?」『お前が人間だった頃に聞いたことのある神とは別に、聖域で産まれ暮らす存在……のはずだが、追放された者や遊びでふらつく者が聖域から降りてくるという噂は聞いたことがある。それにしても定住しているとはな。』外れであるなら無駄な厄介事は持ちたくない―――本来の目的に戻りたいが、あの目は完全に狙いをつけられた。「その神象を撒こうとしたらできる?」『いつも通り逃げてもすぐに勘付かれ、追いつかれるだろうな。』「倒すなら?」『神象の攻撃は基本受けてはいけないと思え。』「オーケー!」
氷の壁が割れ、鎖とハートの弾丸が真っ直ぐ向かってくる。瞬時に魔法陣で自らを包み近場にワープし様子を見る。目の前に口が裂けんばかりの笑みの奇妙な銃を持つ女が同じ高さまで浮かび上がる。「私はフルガル、あなたは?」「……セイ。」「嘘。本名ではないね、嘘はよくないよ。」しっかりとこちらを見据えたまま「キヒヒ。」と笑う様に大鎌を握りしめる手に力を入れる。「残念ながら、これが私の本名だよ!!」大鎌を振るい、リング状に無数に魔法陣を展開し敵を囲う。その全てから超高速で爆弾を撃ち出す。間髪を入れずに新たに魔法陣を頭上後方に数十個の魔法陣を展開しライフルに砲台、ビーム砲を覗かせ、さらに速度を上げて再装填を挟まずに撃ち続け敵の上空に大規模な魔法陣を展開をする。
魔法陣から巨大なミサイルが顔を出す―――しかし、射出される前に無数の鎖が魔法陣ごとミサイルを撃ち砕く。「魔法? ああ、そっか精霊と契約した魔女か。勘違いしちゃってたや。しかもその蛇もなかなか。」舌舐めずりをして体に生えている鎖で爆風を振り払う。「無傷?」『あの鎖で弾かれたか。ミサイルが出せていれば被害は出せていただろう。だが、あの体は仮初―――心臓となる核を破壊しなければ再生する。』「一先、攻撃を届かせないと―――。」取り囲んで来る鎖を避けるため再びワープし背後を取る。振るわれた大鎌と銃が激しく火花を散らす。「不意打ちが好きなのかな?」白い髪を僅かに水色に染め、透かさず敵の背中に氷柱群を叩き込む。「真っ向勝負が好きなら付き合ってやるよぉ!!」鎌を振り切り、自身の速度を上昇させる。『奇妙な弾丸は鎌でも受けるな。鎖はまだしも、あれは権能が過剰に詰められている。』襲いかかる鎖を鎌を回転させて弾き勢いのまま連続で斬りかかる。体を氷霧とし合間に撃ち込まれる弾丸を即座に躱し、再度氷柱と連撃を入れる。「へぇ、なかなか。」鎌を銃で抑えられ腹に蹴りが跳んでくる。「くっ!」既の所で氷の盾で防ぐ、続け様に迫る手刀を回避する。
互いに攻撃を受けない攻防が続くその最中、両者の合間に飛来物が光り輝く。爆発する―――戦闘中でなければ爆弾の方を飛ばしていたが、そうした場合隙を突かれ攻撃を受ける、自分の体を飛ばすしかない。背中に魔法陣を作り氷の足場を蹴る反動で体を捩じ込む。間に合うか? 寸前、鎖が物質を切り裂く。「馬鹿ッ!!」
周囲一帯を巻き込む大爆発、木々を消し飛ばし地を抉る。
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爆発の境界線に魔法陣が浮かぶ。逃げ込む前に物質が飛ばされた方向に微かに人影を見た、確かこの辺りだ。「避けたか。」背後の声―――恐らく爆発の元凶か、よくもやってくれたな。直撃こそしなかったが片足が掠った。怒りが収まらない。「おい! 危ないだろ! 何して……? お前……。」振り向き様にキレ散らかすが口が止まる。「騒がしいから掃除しただけだ。」男はタバコに火を付け、吸いながらセイに目を遣る。「なんだ? その驚き様は?」目に見えて警戒心を強くし、訝しみ尋ねる。「お前、なんで生きてんだ?」「ちゃんと死んだつもりだったけどな。俺のことを知っているか。」「よく話は聞かせて貰ってたからね。」噛みつく声で言い放つ。「……ああ、お前まさか。」「お前が見殺しにした彼女の友達だよ。」鎌を強く握り臨戦態勢をとる。「まるでペットを飼っているかのような話は聞いていたがお前だったか。しかし、見殺しか。その言い草は居合わせ見てたか、なら分かるだろ? 彼女の死を避けることはできなかった。」「……!」その言葉は当時リューにも言われた。自分の行動や魔法が悉く何かに阻まれ、焦り必死になっていた時に『このままではお前も死ぬぞ。』と。
力を抜き鎌を降ろす。「あいつは小動物を可愛がるようにお前のことを大事にしていたからな、殺しかけた事は謝罪しよう。」タバコを投げ捨て、手を差し出す。「何?」「和解と自己紹介だ。俺はお前の事を知らない。」「知る必要ないだろ。」「俺は現状を大して理解していないからな、行動を共にさせてもらうぞ。」「嫌だ――」鎖が男の体を貫く、慌てて鎌で自分への攻撃を防ぐ。同時に攻撃されていたらやられていた。鎖が引き抜かれ戻っていく。「いイねぇ、さっキのハカなり効いたよ。でも、これでもうジャ魔は入ラない。」ダメージが入ったのか、腹が裂け肋骨の代わりとでもいうかのように鋭い鎌が剥き出しとなり輝きを放ちながら大きく蠢いている。
「直撃で死ななかったか、面白い。」地面に転がったまま小声で呟く声がする。(リュー、なんで無事なの?)『死んでいると言っていたことから生体的には死なないのだろうが、あの神象の攻撃は確かに影響を与えるタイプの権能だ。遅効性か?』「こっちを見るな、俺は死んだことにして話を進めろ。あいつを一箇所に釘付けにして警戒を怠らせろ。策ならある。」『ここは手を借りることにしよう。』フルガルを見上げ上空に飛び立つ。「もっと高いところに行かない? その方がさっきみたいな邪魔も入らない。」「名案だネ。」雲にも届きそうな高さまで更に飛び上がる。
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……「行ったか。」起き上がり指輪の呼び出しボタンを押す。「お呼びですか?」「またですか。」空を指差す。「撃ち落とせ。」2体は空を見上げ、目標を確認する。「もしかして高出力砲ですか? あれ燃費悪いから嫌なんですけど。」「両方ですか?」「いや、鎖の方だ。巻き込んでも構わん。」「分かりました。組み立てを開始します。」
前よりも攻撃の威力や速度が上がっている、が。鎌が身体を掠る―――攻撃への対処や警戒力が落ちてる。ただ、こちらは攻撃を受けてはいない。(あいつは無事だけどリューの言うことは信じられる)鎖の軌道も不規則でデタラメになって弾丸も心なしか大きい。その代わり、殺気が感じやすく防げはする―――それでも前は耐えていた氷の盾が一撃で粉砕されるが。これなら時間稼ぎに留まらず倒すことができそうだ。そう思うと心に余裕が出てくる。そう思っている限りは。
もし対面している相手が人間であれば現状は決着と言えるだろう。勿論、人が空に舞うことはない故に決着ではないが第三者に両顎を掴まれ無理矢理口を開かれなければそうはならない光景と人は捉える。戦闘中に相手が口を開いたなら連想するのは噛み付き程度。人以外との戦闘経験の無さによりその行動を攻撃として捉えることができなかった。「え?」銃撃も鎖も動きを止める。完全な隙だ、今ならいける。「準備ができたぞ! 引け!」その言葉を聞き、我に返る。『おい! 聞こえているのか!? 返事をしろ!』踏み込もうとした勢いを殺しワープを用意する。「ごめん、聞こえてなかった。」180度に開かれた口の中央に光り輝く球が表れる。そうだ、これはさながら怪獣映画で怪獣が咆哮―――違う、光線を放つ構えだ。その場から動いても狙いを定めまま動かない。『何度も声を掛けたが反応がなかった。む? お前、その右手の傷は?』「え?」そう言われ手を見ると小さい切傷が付いていた。気付かなかった、いつの間に付けられたのか。『そういうことか。』
「撃て。」声の方を見ると如何にも機械装置の外観をした人よりも巨大な砲台が眩い光線をフルガル目掛け放つ。激しい熱と音が伝わる。「うわ! すご!」セイが使用していたビーム砲の数十倍の威力、それ以上とも感じとれる。空中の射線上には塵ひとつ残っていない。「やったか!?」「ああ、完全に消滅した。」砲台は淡く青い部品に分解され2つの人の形へと変形する。「なになに!? その凄いの! 並大抵の軍事兵器の比じゃないんだけど!?」あからさまに態度を変え目を輝かせて近づていく。「軍事技術はまだ追いついていないのか。」「ねぇ! これ頂戴よ!」「やらん。」「いいじゃん! 死んでるし遺族もいないなら貰い手もいないでしょ!」「……ま、考えといてやる。」「マスター、知らないうちに譲渡の話を進められては困ります。」分離の終わった2体が話に混ざる。「これを新しい主にするんですか?」片方がセイの頭をポンポンと叩く。「この子達名前とかあるの?」「名前? 今お前に触れているのがβ、もう片方がα。」「へぇ! よろしくね!」2体の手を握り強く振る。「この後はどうなさいますか?」「お前達をまだ使う可能性がある、同行しろ。行き先はこいつに任せる。」「んー、じゃあ、とりあえずこのまま真っ直ぐ。」「雑ぅ。」
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寂れた町、人の痕跡残る商店街。「急に呼び出して、何の用だ? 神様。」目の前をるんるんと歩く女性に問いかける。「おいおい、神様じゃなくて『元』神様だよ。アダムくん。」振り返り、後ろ歩きのまま続ける。「私が以前、『悪』というものを調べていたのを覚えているかな?」「ああ、そういえば探っていたな。先代の残党だったか? 禄に目立った動きも痕跡も手掛りもなく投げ出していただろ。」「先代じゃなくて先々代だよ。動きも痕跡もなかったのは先代以前の記録、私の代以降じわじわと動いている。当時は私も立場があって動けなくて相手できなかったんだ。」「何故だ? 直接出向かなくとも―――。」「リゾットの死因は奴らだ。」嘗ての同胞の名を聞き口を閉ざす。「だから死因を誤魔化していたのか。」「『使い』では敵わない、私が直接対処しなければいけない。もう神じゃないから、私に何かあっても問題ないしね。」「何かあるかもしれない事に巻き込まれているわけか。」「何かあった時に即対応できるのは君だけなのだよ、アダムくん。頼んだよ。」くるくると回り辺りを見回す。「ここにはもう人はいないけれど私達が来る前はいたのだよ、賑やかなほどにね。そう、奴が食ったんだ。」
「『悪』の一つ、名を『ゼロ』と名乗っている。特異な存在以外は全く相手にならない。」「だから。」そう続けようとした時、威圧感と共に目の前の空間が歪み人影が現れる。「覚悟しな。」
特異な存在でなくては相手にならない―――嘘ではない、確かなことだと納得させる存在に反射的に身構える。「大将自ら出てくるとは、探す手間が省けて助かるよ。」能天気ににこやかな表情を崩さず存在に対峙する。「いえいえ、貴方様を相手取る事は配下にとって重荷です故、『自由』の君。」仰々しく礼をするが男は隙を見せない。「それで、何の用だい?」「貴方様の行動は読めない、ならば何か仕出かされる前に処理せねば。」「へえ、お出迎えわざわざどうも。」
踏み込んでくる。『神盾壁』―――咄嗟に神性の壁を創り上げ空間を遮る。「流石、『自由』の『使い』は作り上げるものが違う。」壁は夢幻、そんなものはありもしないと言うかの如く平然と歩み寄る。狼狽えつつも次の手を打とうとする前に光の槍が男に襲いかかり距離を取らせる。「おやおや、無抵抗のまま従ってはくれないのですか。」「ごめんよ、従うのは苦手なんだ。」辺りの空間が少しづつ『何か』に侵食されている。先程の壁も壊されることなく突破された、何なんだ? 『悪』というのは。「アダムくん、君は最低限の力だけを使ってくれ。後、先に謝っておこう。ごめんよ。」振り返らずに敵を見据えたまま小さく呟いた。発言の真意を聞こうと口を開く前に離れていた男が一瞬で距離を詰めアダムを蹴り飛ばす。「君の狙いは私だろう? 気移りしないでくれよ。」「申し訳無い、邪魔立てされるかと思いましてね。」向き直り、場が静寂に包まれる。「君達、何か企んでるみたいだけど、コソコソと何をしているんだい?」「いいえ、ただ我らの主のために懸命に働いているに過ぎません。」互いに笑みを崩さない。
天地、壁や空中様々な場所から光の槍が雨の如く注がれる。「素晴らしい、魔を祓う槍をこれ程放つとは、私が何か分かっておいでか。されど、悲しいかな。全て無駄なことだ。」光の槍は全て男の体を通り過ぎ、難無く眼前に辿り着き胸を貫く。闇に呑まれつつある瓦礫のなかからアダムは全てを見ていた。「そういうことかよ……!」男は神象の核を掴む。「これか。」核を体から引き抜き握り砕く。「死体といえども嘗ての神の肉体だ。最高級の養分となっていただく。」倒れる死体に手をのばす。『天岩戸』―――神性のある岩が幾重にも死体を囲い、数多の札と印により封印が施され、その場から消滅した。男は瓦礫から半身を乗り出していたアダムを一瞥する。「まだ生きていたか。不愉快だが目的は果たした。そのまま無力に無に呑まれ息絶えるといい。」現れた時と同じように歪みの中に消えていった。
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結界内部中央、無人の都市に聳え立つ塔の内部。生活感のある一般的な部屋の中で男は椅子に座り本を流し読む。「あーあ、疲れた。」天井から降りてきた赤毛の魔女を一瞥し、本に目を戻す。「遅かったな、始末はできたか?」ソファに寝転んだ状態から魔女は不機嫌に男を睨みつける。「はあ? 一瞬だったけど? 消し飛ばしてやったわよ、あんな雑魚。それより、人間の方はどうなの?」「帰してやった、用がないからな。」魔女は呆れてため息をつく。「こんなところまで忍び込んでくる輩を放置ねぇ。」「お前のことは知らないが、俺は彼らが何をしようと問題ない。」沈黙する魔女に男は続ける。「お前達を手伝ってやるつもりはない。」「自分で作った世界でしょうに。」「お前が呼んだ客だ。」「……ウィル達は?」話を逸らそうとしていることを察しながら目を向けずに応える。「二人でどこかに行った。目的は知らん。」「ふぅん。」
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同じく塔のある通路において少女と羽の女が歩きながら話していた。「戦う道具が欲しい?」「はい。」「別にいいけど、妖だよね?」「あ、シマモといいます。」「何か変な力とか持ってるんじゃないの?」「そういうのはないんですよね……。」「ふーん、そうなんだ。私達がいる限り君がわざわざ戦う必要はないと思うけど?」「力になりたいんです。」あの男か。「憑き霊?」「そうゆうのじゃないです!」「まあ、いいよ。付いてきて。」
塔のある一室の扉が開かれる。「よっこいしょ。ほら、ここだよ。」「わぁ、すごいですね。」部屋一面に敷き詰め並べられた武器の数々を見渡す。「ここにあるのなら全部好きに持ってっていいよ、私のコレクションみたいなもんだから。」床に置かれた武器を跨ぎながら部屋に入る少女を追いかける。「あの、何かオススメとかありませんか?」「オススメ? どれも優秀だよ。」「ああ、そうではなくて、使いやすさの面で。」「扱いなら直感的にできるし、妖の筋力で扱えない物はそうそうないでしょ。」申し訳無さそうに苦笑いをするシマモを不思議そうに見る。「ウィルさん、私、非力です……。」「どれどれ。」掴まれたウィルの手に力を込める。「もういいよ。」「あ、はい。」力を抜き手を離そうとする。「いや、握って?」「え?」
「……これはなかなか。」試し撃ちに用いた無傷の的を見て感嘆に浸る。「軽い剣とかかなぁ? いや、戦うなら手頃な呪いとかある魔剣的なのがいいか?」「すみません……。」「ここまで戦うのに向いてないことあるんだね。」「うぅ。」「そんなに役に立ちたいの? 赤の他人でしょ?」「幼馴染なんです。」「あいつ、その割には見覚えなさそうだったけど。」「私が死んで妖にされるときに私の記録を消すことをお願いしたんです。私が死んだことで迷惑かけたくなかったから。」「なるほどねぇ。そんで未練タラタラストーカー?」「違います! ただ心配で見守ってただけです!」これとかどうよと、武器を投げ渡す。「ウィルさんこそ、なんであの人と一緒にいるんですか?」落としそうになりながらも辛うじて受け止める。「まあ、成り行きかなぁ。同郷の好でつるんでるだけ。」「同郷って地域の話ですか?」「世界の話だよ。私達の世界だと言語問題は解決してるんだ。」「あぁ、つまり、そこのお友達ってことですか?」「知り合ったのはこっちだね。」「どうしてこちらに?」「手短に話しても長くなるけど、いい?」手に持っていたものを諦めてそっと床に置き小さく頷いた。「ひとまず、君が住んでた世界と同じものがもう一つあるってことにしとこう。その世界は同じように人が暮らしてるんだけど、こっちの世界とは色々違ってね。その内の1つとして『魔術』っていう明確な違いがあるんだ。まあ、能力というよりは技術みたいなイメージでいいよ。」「お二人も人間なんですか?」「ああ、そうだけど言っちゃダメだよ。そういうことにしてるから。」「あ、気を付けます。」「それで基本的には大差なかったんだけど、ある時事件が起きたんだ。確か『魔女災害』だったかな、世界中が『魔女』に荒らされたんだよ。そして、その名前の通り『魔女』はすぐに過ぎ去っていったんだ。人々は共通の敵を前にして結束し復興を目指そうとした……ところで壁が立ちはだかった。」「何があったんですか?」「『魔女』による汚染だよ。環境だけじゃなくて人や動物も数多くその影響を受けちゃってね、汚染された土地は不毛に、汚染された動物は異形化して毒を持って狂暴になって暴れるようになったんだ。」「人も……?」「それがね、人は事情が違ってね。ただ単純に元々持っていた『魔力』の量がばかでかくなるくらいしか異変は見つからなかったんだ。」「魔力……。」「気力とか体力みたいなもん、だから別にやばいことじゃないんだよ。テロリストが活発になるくらい、それも汚染された兵隊で鎮圧できるからね。」「なら、どうして?」「まずは私の説明をしよっか。皆、汚染の影響を楽観視して、その内全部元通りになると思い込んでたんだ。遠くの大地だけを見て自分たちのことまで見れてなかったんだよ。」品定めをする手を止め、話に聞き入る。「ある病院が大爆発をした。また、別の病院は崩れ落ちた。民家は火の海に沈んだ。ある街は人が争って全滅した。どれも小さな事件として扱われて異変だって気づかれるのが遅れたんだ。」「それが小さな事件は少し無理があるのでは?」「小さく見えるくらい治安が悪くなってたのもあるよ。産まれてくる自分の子どもが爆弾になるなんて誰も思わないよ。」「え?……」「汚染が起きたのは一度切り、汚染の被害者が新しく判明することもなかった。被害者の子に汚染の影響が出ないことも判明した。でも、誰も胎児が汚染されたかどうか調べなかったんだ。人に出る影響は大したことはないって思い込みでね。」「もしかして胎児も、動物みたいに……?」「同じとは言えないかなぁ、ほら赤子が生まれてきた瞬間に産声を上げるでしょ? それが『魔力』の暴走に置き換わったんだ。知識とか経験で使う『魔術』が本能と膨大な魔力で補われたものだと考えられるんだけど、まるでね。」「魔女の魔法……。」「しかも、『魔女』はまた攻めてくると宣言してたんだ。拒もうとする人もいたけど『魔女』の恐怖は強くて汚染された胎児を全て殺処分することにしたんだ。」「そんな……!?」「ひとつの命で100人くらい救えるようなものだからね。仕方ないとは思うよ。それでね、私もその一人だったわけ。」「ってことは、起きなかったんですね!」「いやぁ、それはどうだろうねぇ。私はそこから先は知らないんだ。」「そうなんですね……。」「私の家は裕福で『魔術』の能力も秀でてたんだけど、私が汚染されてることに気付いてとても悩んでたんだ。私を殺したくない、かといって産むわけにもいかない。その両方の解決策で見出しちゃったのが私をこの世界に産み落とす事だったと。」「とんでもないことしてますね。」「やってること一応違法だからね、禁術みたいなもん。こっちに無事に産まれてしばらくしてから産まれる前の周りの記憶が思い出させられたし。」「ああ、それで。」「私はそういう事情。でぇ、スラウだね。信憑性はおいといて、本人が言うにはスラウも汚染の被害者らしいよ。私と違って生きてた時に汚染されたタイプだね。事件を起こすこともなく、こそこそと優等生ぶってに暮らしてたんだと。実力があったのか、さっき言った特殊部隊の勧誘を受けたらしくてね、それを断ったら色々と調べ上げられてテロ計画ばれて逃げたんだってよ。ちなみに本人曰く、逃げてくる時に特殊部隊は皆殺しにしたという自慢話が。」「結構野蛮な思想持ってるんですね……。」「ちょっと、私は別にそういう気はないからね。あいつの狙いは知らないけど、私の目的はこの世界の人探しであって向こうの世界に興味ないから。」「人探しですか。良かったです、ウィルさんが野蛮じゃなくて。……殺したい相手とかじゃないですよね?」「違うっての、ただ会いたいだけ。私にとっての家族みたいな人。雰囲気くらいしか覚えてないからあてはないけどね。」「見つかるといいですね。」
大半の物色を終え、さらに部屋の奥へ足を進める。「扱いやすいのはもう残ってないと思うけどなぁ。」「いっぱいあるのでついでに見ていこっかなって。」楽しそうに並べられたものを鑑賞する。「それにしても、こんな量よく集めましたね。」「大半はスラウからくすねた物だけどね。暇な時に歩きまわって宝探ししてるんだ。」「これとかすごい綺麗ですよね。」そう言って白銀の大剣に手をかける。「ん? ……いつ拾ったやつだろ? 見覚えないなぁ。」「あれ? これ喋ってますよ!!」「はぁ? まさかぁ。」「あ、私にしか聞こえないみたいです。……ほんとだ! 重くない! 」重々しい見た目の大剣を軽々しく持ち上げるが。「え? 蠢いてない?」大剣の刃渡りは切先から溢れ鍔へ流れるようにより大きくなり、純白となった剣身の両側に柄から逆流するように銀の刃先が現れた。「こんなに大きくなりますよ!」「いや、使い勝手悪いでしょ。」そうかな? と大剣を見つめると、鍔が形を崩し剣身を包み込んで握り部分へと収縮した。「これなら持ち運びやすいしいいですね!」「気味悪い気もするけど……。本人がいいならいいか。」嬉しそうな顔を見て、怪しさから目を逸らす。「これからよろしくお願いします! ファルシェイさん!」
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森の中の開かれた道、「へぇ、こんなボタンでどこでも簡単に呼べるのかぁ。」「好きに使え。じゃあな。」男は二体と供に背を向け歩き出した。「どこいくんだ?」「嫌な予感がしてな、どうやらお前と違って自由に歩き回れる御身分ではなさそうだ。」「連れねぇな。」セイはその背中を見届け再び歩を進めた。
『セイ、道の先に何かいるぞ。』「なぁにあれ?」遠くに見えた黒紫の何かの群れに目を凝らす。『生き物ではないが、戦士の風貌をしている。警戒はしていいだろう。』「偽魔女の?」『さて、可能性は低い。移動は行わないはずだ。』「……これ行軍じゃない? 辿ってけば大将の居場所に行けそうだね。」『ああ、かもしれんな。』「じゃあ行くぞぉ!!」空を蹴って大軍へと突っ込んでいく。
黒紫の泥の玉座に座る女王は前方の異変に気付いた。「騒がしい……何だ?」泥の触手に手を触れ様子を確認する。「邪魔だな、潰せ。」
軍勢の中へ突っ込み兵の一体に鎌をかける。「おっと。」弾かれた鎌を反動のまま再び振り兵を真っ二つに引き裂いた。「なんだ、手応えないね。」勢いに乗って隊列を遡る。『だが全てを相手取っていたら確実に持たなくなる。はしゃぎ過ぎには気をつけろ。』「心配性だなぁ、問題ないって!」行く手を阻む様に立ち塞がる兵隊たちを切り刻みながら突き進んでいく。切り裂いた兵の胴体が宙に浮かびその断面を覗かせる。「ん?」突如、断面からセイの体を貫かんと鋭い針が伸びるように飛び出した棘を体を捩じりすんでのところで回避した。「あっぶない、うわ!!」兵隊の体から次々に棘が生まれ突き刺さんとするとともに兵隊達もセイへと攻撃を仕掛ける。「何なのこれ!?」不満を言いつつ氷の刃を展開させ棘や兵の連撃を捌いていく。いくつかの砲撃音が聞き、こちらに飛んでくる物を視認する。「次から次へとぉ!!!」『セイ、流石に無視しなければ体力を一方的に消耗させられるだけだ。この数の雑兵を魔法も使わずにこのまま相手し続けるのは無理があるぞ。』「ああもう!!」鎌を強く握りそれまでの速度よりも速く駆け抜ける。
王冠を身に着けた女を視認する。「お前か!」頸に向けて鎌を勢いに乗せて薙ごうとするが左手の装甲に弾かれる未来を見て即座に逆方向から薙ぎ払う。しかし、空中から湧き出すように現れた泥の壁によって受け止められた。「何の用だ?」「通り道に何か見えたからね。」一度距離を取り壁の向こうからの問いかけに応える。(……こいつは?)『ただの亡霊だ、偽魔女とやらではない。』肩を落とし、鎌を地面に突き立てる。「いきなり斬りかかってごめんよ、早とちりしてたっぽい。亡霊さんはこんなところで何やってるか聞いてもいいかな?」「こんなところに用はない、貴様にもな。」「そう、この兵隊たちとどこに向かうんだい?」「答える義理はないだろう?」「いいじゃん少しくらい教えてくれてもさぁ。ほら、君もこの中ふらついてる仲間みたいなもんでしょ。」壁が取り除かれ姿を現す。「そうだな、邪魔をしないのなら教えてやろう。並べた兵を何度も戻されてはかなわん。」「いやぁ、さっきのはほんとにごめんよ。それであの兵隊は何だったんだい?」「この結界の中には人が集まっている場所がいくつかあるだろう。そこに攻め込むための軍勢を確認していたのだ。」「ふーん、一応理由も聞いていい?」「理由など特にないが、敢えて付けるとすると我が勢力の糧にするためだな。」『これは完全に悪霊だな。悪霊はそんなもんだ。』「なるほどね、じゃあ敵ってわけだ。」笑みを浮かべ鎌を構え直す。「邪魔をしない約束はできていなかったか?」「おう、気が変わった!」「貴様には関係がないだろう? 道を開けよ。」鎌と共に勢いよく踏み込む。「断る!!」泥の壁が大鎌と火花を散らす。「私は人類の味方だからね!」
強く泥が大鎌を押し弾く。『弓兵』呼びかけとともに大地に滲み出した泥から幾人もの兵が弓を構え湧き出る。『射て』弾き飛ばされたセイに向け絶え間無く矢が放たれる。足場を作り魔法陣から矢を放ち撃ち落とす。「弓矢なら私も持ってるよ!」『槍兵』下に目をやり泥を確認する。『上だ!』「はぁ!?」攻撃を防ぐも自由落下による兵の物量により地面に叩き落される。『砲撃』落下地点を取り囲む泥から湧き出た砲門が一斉に追撃を行い煙をあげる。「貴様相手では何も満たされん。」手のひらに渦巻かせた泥を落下地点へと放り投げる。渦は徐々に肥大化し地面を抉り取り勢いを増して襲い掛かるが、その渦は煙に到達すると同時に凍り付いた。「私は結構満足してるんだなぁ。」煙と氷の盾を掃い、凍り付いた渦を粉砕する。「鬱陶しいな。」体の一部が蠢き泥へと変色する。睨み合う両者の間に円錐を思わせる幾つかの輪を伴った一筋の細い光が地面に刺し、鋭い音と眩い光を放った。
「眩ッ!! 何!?」『これは……。』光の中心に装飾の凝った細い短剣を持った二人の子供が姿を現す。「今度は何だ?」子供は辺りを見回し、亡霊と目を合わせる。「女王陛下!?」「女王? あれのこと?」笑顔で亡霊に向かっていく子供を見つめる。「カルセロの子等か! 行方不明と聞いていたが生きていたか!」「お父さんから貰ったこれ握ってたら色んなとこ連れてかれて……。」『やはりそうか。』「何が?」『昔説明したことがあるだろ、『神剣』だ』「前見たのあれじゃないけど。」『複数ある別物だからな。それにあれらは持ち手によって姿を変える。私が嘗て見た時のソレともやや異なる。』亡霊に親しげに接する子供たちに亡霊が問いかける。「何故ここに来た? いや、連れて来られたと言う方が良いか?」子供たちは思い出したかのように剣を指し「急に何かに殺されるって言われて。」荘厳な鐘の音を響かせ場違いな重々しさを放つ扉が現れる。
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結界内、また別の地点において森の地面が掘り起こされるように掻き分けられ幾つかの骨と泥の塊と共に乾き罅割れた泥の人に抱えられた女が姿を現す。「あーあ、空眩し… くもないか。あんま晴れてないなぁ、これはこれで気分が……。」太陽に手を翳す仕草を形だけ真似るが日の光は見えない。骨が穴を埋めた報告を身振りで伝える。「うん、ここ来た目的覚えてる?」骨に足で返事をし、自分を抱える泥に問いかける。泥の人は小さく頷く。「ならいいや、持ってかれた魂見つけたら教えて。私は寝るから。」抱える腕の中で体勢を整える女に泥は問いかける。「居心地悪いし、気分悪いの!」ただでさえ空気が死んでいない場所は好きではない上に移動中に思い人の死を感じた。「私が判断しなくても見つけたらなんとなく分かるって。」目を閉じて本当に眠った女を抱えた泥は骨達と目を合わせ足を進める。一先ず死んでそうなのが視界に入り次第潰して確保する方向で。抱えた主人を髪の先まで揺らすことなく当てもなく彷徨い始める。
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「ヨォ!」古びたアパートの一室のドアを蹴破り、大剣を背負った男が乱雑に部屋の奥へと足を進める。暗い部屋の中フードを被りテレビゲームに集中している背中を確認し、フードを引っ張りヘッドフォンを掴み取る。「ドアを壊すな、鍵渡してたろ?」不機嫌な声で少女は振り返り男を睨みつける。「あんなちまちましたもん使えねぇよ! 変なとこに居つくのが悪ぃ!」ベッドに勢いよく腰を落とす。「それで? 鞍替えしてまでそこに行く価値はあったのか?」「大魔女が気にかけてる以上弱ぇ俺が満足できる分はあるさ、とっと行くぞ。」身支度をすまし大魔女から与えられた門を開く。「着いてすぐに約束事破るなよ。」「そんな見境なく襲わねぇさ、部外者なら好きにしていいって言われてんだ。」釘を刺したつもりだったが微塵も気に留めていない男に呆れる。「まあ、あの化物の事だ。お前がどんなに暴れても影響がないと分かった上で許可してそうだな。」「Win-Winって訳だ。」「眼中に無いんだよ。」
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