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世界崩壊  作者: 古亜
世界崩壊編
1/9

エレティア

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 ここは魔女達が潜む異空間。「貴方にエレティアの名を授けます。これより、貴方には異変の調査、解決を担ってもらいます。」魔法陣により映し出される様々な情報を眺めつつ言い放つ白き女性。「はい、マスター。」跪き覚醒してまもない泥人形は従順に答える。「私が無闇に動くと余計なものまで寄ってきてしまいます。念のため私の『魔法』の一部も授けてはいますが、できる限り使うのは避けてください。」報告はこまめにと付け加えて言う。「かしこまりました。その異変とはどのようなものなのでしょうか?」「困ったことに原因も規模も不明です。『輪廻』(嘗ての神)の結界によって閉じ込められてはいますが、既に数回ほど結界が活性化したことを確認済みです。外部とは異なる時空になっています。原初の者達が目立った動きを見せていないということは緊急性は高くないのですが、我々のような彼らの眼中にない者の被害を抑えるには今のうちに対処することが賢明でしょう。既に数名、後から結界に侵入した者もいるようですので彼らと協力することができれば良いのですが…… 」少し難しい顔をしている己の創造主(マスター)を安心させようと泥人形は「このエレティア、マスターから授かったこの命をもって必ずやご期待に応えてみせます。」と言葉をかける。一瞬、少し驚いた顔した女性は微笑み「ありがとう、頼みましたよ。」と、『娘』を送り出した。



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 結界に侵入後、彼女は与えられた力を使い結界内部の情報を把握した。『魔法』とは別に様々な知識や技術が彼女の体には収められていた。中でも、何処かの人類が発達させているという魔術の知識を用いるならばどれほど広大な範囲も調べあげることができ、それに必要とされる魔力も彼女には十分にある。しかし、彼女を産み出した者でさえ理解しきれていないのだ。当然、不明瞭な領域を発見する。これらの領域の解明が重要だと考えられるが、焦る必要はない。わかっている場所から調べればいい。


肉眼で見ても不思議な場所だ。木々が生い茂っているが、それらはいくつかの形を元に複製されたものだ。そして虫や微生物、動物といったものもいない。森の中にある如何にも怪しげな屋敷の形をしたハリボテの中には自身と同じように魔力を持ったものがいる。しかし、あまりにも弱い創造主とは比べ物にならない事は明らかで、彼女の力でも戦って負けるようなことはないだろう。屋敷とは違い古き集落を模した場所にもその力は感じ取れた。多くの人の反応とともにその存在はそこに留まっている―――が、人とは少しずれた地下、恐らくその者の住処だろう。結界に侵入して真っ先に目に映ったもう一つの結界の中も気になりはするが、まだ情報が足りない以上、潜入するのなら前者である。


その住処の主が外に出た―――則ち、空き巣である。地下にありながらも無駄に煌びやかな装飾は品や芸術性の無さを感じさせる。「これは……。」神棚のように部屋の壁に掛けられた通信機―――魔法ではなく魔術によるものだ。その真下のまた無駄に煌びやかな戸棚の中に1枚の紙を見つける、魔術による契約書だ。与えられた役目は人の管理、定期的な魔力の献上、対価は人々に対しての扱いの自由。特にこれといったことはない。ただ、口を挟むとするのなら、この契約を結んだものは脅されているのか、生きようとしていないのか。それとも単純に愚か者なのか。そうでなくては()()()()縛られるこんな契約を結ぶようなことはしないだろう。いや、彼女と同じ境遇の者であれば、今彼女がそうしているようにこの契約にも従うだろう。つまり……


「こんなところにコソコソと、ネズミかな?」声に目をやれば、1つしかない部屋の入口を塞ぐようにやはり無駄に煌びやかな装いの女がこちらを睨んでいた。間違いなくこの部屋の主であろう者はエレティアを不思議そうに眺め口を開く。「人間が忍び込んだかと思ったけど、他の魔女? お互いの領地には不可侵のはずなんだけど。」「魔女?」何を言っているんだこいつは。「ああ、学の無いお馬鹿さんは契約書なんて読めないか。私達は魔女でこの世界にゴミみたいにいる人間を各自で管理するのが仕事なんだよ。でも、それぞれに方向性の違いってものがあるからね。お互いやりたいことをやるために縄張りを作って干渉しないようにしてるんだよ。」わかった? と見下すように説明する彼女は続けて「それにちゃんと持ち場にいないと魔力の献上ができない。そうなったら逆らったってことで殺される。でも、あなたみたいな可愛らしい子が死ぬところ私見てみたいな、きっとキレイ。」「献上された魔力は何に使われるのでしょうか?」「この世界の中心にある都市を包む結界の強化。色々な魔力を混ぜるとより強固な結界になるって。」聞かなかった? とエレティアの顔に手を伸ばし頬を撫でようとするが。


手が触れることはなく、頬に触れたのは手首から吹き出した血だった。


突然のことで知覚ができなかったのか、手が床に衝突する音に遅れて痛みに悶え泣き叫ぶ声が部屋に響く。「貴方、人間ですよね?」「はあ!? 私は人間なんかじゃない! 魔女だ!」手首を押さえて蹲りつつも涙を浮かべて睨み上げ吠える。だが、即座に壁に向かって蹴り上げられ、魔術により創られた剣で腹部を壁ごと貫かれ固定される。呼吸はいらないのだろう、ただ口から血を吐きつつ剣を抜こうと身を捩っている。「魔女だと言うのでしたら、『魔法』の1つでも使われては如何ですか?」「言われなくても……『腹掻っ捌いて死ね』!!」言霊を用いた、捉え方によっては呪術とも呼べる。実際に効果が現れたなら、何も知らない者達には魔法と感じられるだろう。しかし、ああ、これは。「魔術―――術者よりも弱い相手にしか効果がない、所詮は人の作りし技です。そして貴方の魔力ですが、ここに来るまでに他の魔力を持った者を確認しました。根源的には同じ魔力―――恐らく契約主から同じように与えられたのでしょう。つまり、貴方方の魔力は最初から一色……寧ろ純度の落ちた質の悪い代物。」更に剣を押し込み怒りと苦痛の混じった声を無視して続ける。「貴方は既に死んでいますね。人は許容量以上の魔力を摂取すると死ぬはずです。」「は?」「契約主が貴方に魔力を与えた時には死んでいる、それにも関わらずここに存在する。つまり、亡霊を無理矢理繋ぎ止めているということになります。恐らくこれですね。」彼女の頭の冠を新たに創り出した剣で突く。「『止めろ』……!」「これを破壊されたら、貴方は普通に人間らしく死ぬのでしょうね。」皮肉にも彼女が騙る『魔女』とは真逆にこの魔力の籠った物を壊される事は弱体化でしかない。「私は、私は……!!」「亡者風情が喚くな。」裂かれた喉を片手で押え、脳が混乱しているのか最早声をあげることもなく血を流す。「試したいことがあるので、少し手伝ってください。」家具の装飾をへし折り、突きつける。「これは確かに人の道具―――魔力などはありません。―――体にも物にも傷は付けられませんか。では……。」手を翳し破片は光を帯びる。「これなら―――ちゃんと傷はつきますか。ただ、これでは少し足りませんね。本来の用途が武器の物なら使えはするでしょうが、不安は残りますね。」彼女の体やティアラを抉り傷つける。「では、貴方はもう用済みです。さようなら。」剣を振り上げ、ティアラごと頭蓋を叩き割る。


恐らく結界に使われていた力は魔力ではなく生命力、魔力はただ奪われていただけだ。本来魔力を持っていない者には何を失ったかなど分からない。使い捨てか、替えのものがあるのか。彼女達にとってはこの結界が世界の全てか。



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 死んだ彼女の魔力を流すことは簡単だ。通信も彼女の復元体で誤魔化せる。彼女の領土から動くのはできる限り控え、現状を把握するためにも暫くは流れに身を任せるとしよう。結界の影響下でも創造主との交信ができる。確実な算段が立つまでは情報の収集に徹しよう。


この結界内には多くの人と魔女を名乗る者が数十名存在しており、その親玉が契約によって奴らに役割を与え縛っている。魔力の質からしてほとんどが私にとって大したものではない。


数名契約をしていない、あるいは内容が軽い者がいた。恐らく、これらが侵入した者あるいは元よりこの地にいた者か。彼女達は他とは違い高い魔力を持つ―――それでも創造主には及ばないが比較にはなるだろう。問題はそれだけではない、『神象』の加護を持った者達がいる。その一人が連れている『死神』を名乗る存在―――創造主でさえ『死神』を存じていなかった。しかし、協力的かつ中心部の結界の内部に侵入が可能となれば利用させてもらうか。


判明した情報を送信中、隙間など無い部屋の角、影から気配が現れる。「やあ、スフィーの傀儡。この世界の居心地はどうだい?」「何とか出来そうかな♡? お人形さん♡」「ラプス様、ラムパ様お初にお目にかかります。いらしたのですね。」「まだいないさ、伝手があって覗かせてもらっているのさ。君のこれまでの頑張りも見ているよ。」「まだ見学中だよ♡ 面白いことはまだだから♡」「伝手とは?」「それは秘密さ。スフィーも聞いているからね。」「盗み聞きは駄目だよスフィーちゃん♡」『貴方達が勝手に話し始めたのでしょう?』通信機越しに呆れた声が届く。「コソコソ何やってるかと思えば、こんなことしてたとはね。母上も面白がってくれるかもね。」「現状じゃ見向きもしないでしょ♡?」『くれぐれもこのことは……』「分かってる分かってる。冗談さ。」「怖い怖い♡」「ところでラムパ様、面白いことがまだとは?」「……そんなこと言ったっけ♡?」「内容は教えられないな。でも後数百回くらい繰り返したら面白くなる気がするんよ。ああ、後1つだけ、真面目な助言をしよう。お前が妙な機械と引き合わせたガキがいるだろ、あいつの目は塞いどけ。」「アレ嫌い。」


「それじゃ、頑張れよ。」「バイバイ♡」『頭なんて下げる必要はないですよ。』部屋の角への一礼を制止され通信機に向き直る。『彼らがあそこまで言うとは余程の何かがあるのでしょう。』「どういたしますか?」『私の『魔法』で、目としての機能以外を眠らせましょう。何があるかは分からなくとも、それで解決できるはずです。』「分かりました。あの、『魔法』についてですが」『この件のみです。人の兵器の強化に関しては私の魔法の使用は禁じます。私の『魔法』でなくても通用するはずですよ?』「はい、確かに魔術を用いた強化があの魔女を名乗る者たちに通用することは実験済みですが、より確実にするためにも……。」『言ったでしょう、私の『魔法』を使用することは避けたいのです。あまりにも強力過ぎます。新たな災いを招くことになるかもしれない。『精霊』や『神の兵団』がいたのだから何が来てもおかしくはない。』「はい。」『それらを退ける程の力があるのなら何とかなりますよ。今後、彼らのように外部から干渉してくる者は増えてくるでしょう。代わりと言ってはなんですが、増援の準備はしています。気を引き締めて、頼みますよ。』「はい、分かりました。」



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