5歳です-02
診察が終わり侍医の話を聞けば、頭にはたんこぶが出来たもののあとは打ち身らしい。打撲はしていない。治癒魔導師からの診断も平気であるとのこと。前世では階段から転落死したというのに全然違う結果である。念の為、安静にしておく事を言い渡され侍医は去って行った。
「暇になってしまったね。ふふ、でもニコルとたくさんお喋りができる」
「わあ、嬉しい! ……ところで、兄上。お勉強は?」
前者は建前、後者が本音。ニコルの記憶だけの時なら喜んで兄上と話し込むだろうが今は違う。勿論、兄上の事が好きなのは変わりはしないが拗らせまではいかないし、今頃は確か王宮家庭教師による勉強の時間だったはず。大人になってもっと勉強していれば良かったと痛感した前世を持つ私からしたら私に構うより勉強してほしい。
「え、ニコル……? ちょっと冷たくない? まままままさか反抗期!?」
待て待て待て。これでちょっと冷たいってどういう事なのか。どうしよう、この兄早くなんとかしないと。
「違うよ。母上に見つかったら……」
「うっ!?」
我らが母上は華奢で優しく穏やかな人ではあるが、いろいろと容赦がない。私と兄上が自由時間に話し込むのはいいが、勉強や鍛錬の時間をサボろうものなら……思い出したくない。
「そうだ! 兄上のオススメの本を貸して。それを読みながら兄上の事を考えるから」
「僕を考えながら読書するニコルは最高に可愛い。よし、取って来る」
ちょろい。
頭がお花畑状態で部屋から出て行った兄上には悪いが家庭教師に捕まる事だろう。これで良い。
1人になれば自然と溜息がこぼれる。前世を思い出したはいいが、これは困ったものである。このゲームにはニコルのバッドエンドもあるにはあるが、現状で急いで折るフラグは存在しない、多分。兄上の重度なブラコンはどうにかしないといけないが、あの反応を見るからにして長期戦を挑まなければ反抗期で片付けられてしまうだろう。
「お元気そうで」
その声は開いた窓に外から足をかけた人物から発せられた。