Stage3『捨てる者あれば奪う者あり』②
どうやら舟が進む鍾乳洞は一本道ではないようだ。何度か枝分れした道を通り抜けることがあった。ふと、枝分かれした先には何があったのだろう、という疑問が浮かんでくる。しかしそのような疑問も、急に聞こえてきた話し声で吹き飛んでしまった。
「だから言ったじゃない! みんなが行った世界が丁度よさそうだって!」
「いや、だからグレーテ! 一旦、舟を自動操縦に戻せば外まで……」
「いやよ! これはもう私のなんだから、元に戻すなんてありえない!」
声は霊夢の上方から聞こえていた。そちらに目を向けると、一隻の舟の船底が見えた。船底から、茎を編んで作った舟だと分かる。その外見は霊夢が乗る舟とよく似ていた。いつの間にかどこかの岐路で合流していたのだろうか。その舟は段々と高さを落とし、霊夢が乗る舟と同じ高さまで降りてきた。
見ると、舟の上には二人の子どもが乗っていた。二人は髪の長さこそ長短で違っていたが、顔立ちはそっくりだった。彼女たちはハンスとグレーテ。髪の短い方が姉のハンス、長い方が妹のグレーテ。異邦人の双子だ。
「おーい、そこの子たち。これって、あとどれくらいで何処に着くか知ってる? さすがに退屈になっちゃったわー」
呑気な声で霊夢が声をかける。すると、双子の顔がぐるっと霊夢の方を見た。
「わーっ! おねーさん、その舟どうしたの? 私たちのと一緒!」
グレーテが尋ねる。それに続いてハンスは目を輝かせた。
「いいところに来てくれたねえ、おねーさん! 本当に助かったよ!」
言うなり、ハンスは霊夢の方へ手を伸ばした。かと思うと、何かを引っ張るように両手を後ろに引く。すると今まで霊夢が乗っていた舟が、見えない糸に引っ張られたようにハンスとグレーテの方へ飛んで行った。霊夢は振り落とされ、水中に投げ出された。
「安心してねー、おねーさん。ここ水中だけど、息はできるから」
「くすくす、けれども可哀想ぉ。こんな迷宮を一人でさ迷うことになるんですもの」
霊夢を指してハンスとグレーテは笑う。霊夢は咄嗟のことだったが、水中で体制を立て直して二人の方を向いた。
「あ? どういうことか説明しなさい」
ハンスとグレーテはくすくすと笑い続けている。
「おねーさんのおかげで、私たちは外まで出られるんだよ。私たち、道が分からなかったからね。おねーさんの舟は勝手に動くみたいだし、私のものにして、妹を先導してあげるの」
「良いわねえ、姉さん。この調子で、外の世界でも沢山のものを奪いましょー! まずは家とか欲しいわねえー」
霊夢は二人を睨み付け、札と針を構える。
「どうやらお仕置きが必要みたいね。私のものも幻想郷のものも! それを奪うなら、どうなるか思い知りなさい!」
「あははははっ! おねーさんが私たちに向ける攻撃! 全部!」
「きゃははははっ! 私たちのものにして、おねーさんにお返ししてあげる!」
行先も帰り道も分からない水路の途中で、霊夢と双子の弾幕が重なり合う。