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Last Stage『この身と共に生まれた大怨』③

「今だっ!」

 幾多もの弾幕を撃ち込んだだろうか。ついに阿闍世は動きを止めた。霊夢はその隙を見逃さず、自身のスペルカードを発動する。霊符『夢想封印』。色とりどりの光球が霊夢の周囲に現れる。そして霊夢が阿闍世の姿を見定めた瞬間、光球は一斉に阿闍世へ迫った。阿闍世は光球を前に動き出そうとしたが、光球は容赦なく阿闍世をその光の中へ呑み込んでしまう。炸裂音と共に、煌々とした光が阿闍世の姿を覆っていく。

 勝負は決した。そう思い、霊夢は夢想封印の光を見つめる。仙人や神にさえ効力を及ぼす神秘の光、それが夢想封印だ。何色もの光はいずれも燦々と明るく輝いていた。

 しかし不意に、光の中心が赤黒く濁る。霊夢はその色に禍々しいものを感じた。お祓い棒を握る手に思わず力が入る。赤黒い濁りは大きくなっていき、まるで夢想封印の光を食い破るように、赤黒い炎として噴き出てきた。赤黒く濁った火炎は瞬く間に大きく広がり、光の煌めきを呑み込んでしまう。そして光を呑み込んで尚、際限なく周囲の空間を侵食していく。

「憎めば終わりはない……恨めば果てはない……! 彼奴め、何故我々を生んだ……!? 何故我々を生かす……!?」

 どこからなのだろうか。阿闍世の声が微かに霊夢の耳に聞こえた。

「嗚呼、この深宵園を壊し尽くせ……! 我が『許し難き未生怨』……!」

 赤黒い火炎は、結界内の空間を全て呑み込んでしまうほど広がっていく。霊夢はその火勢に圧倒されながらも、どうにか間隙を見出して直撃を回避し続けた。急がなければ避ける隙間さえ消し潰されてしまうかもしれない。もはや今どこにいて、どのように動いているのかさえ見当もつかなくなっていた。阿闍世がいた場所も見失ってしまった。

「知っているぞ……お前の行いは全て……! だというのに、何故! お前はその身勝手を続けられる……!?」

 本当にそのような声がしているのだろうか。そう疑念を抱くほど微かに、しかし確信を持てるほど明確に、霊夢は阿闍世の声を聞き取っていた。赤黒い業火が燃え盛る音に乗せて、阿闍世の声が呻いているようだった。

「最後の最後で……っ。面倒なことしてくれるわね……!」

 どれだけの時間、赤黒い火炎を避け続けただろうか。あるいはそれは短い時間の出来事なのかもしれない。業火に呑み込まれるかどうかという極限状態の中にあって、霊夢は阿闍世の声を聞き続けた。不思議なことに霊夢には、阿闍世の声を聞くことが赤黒い火炎を避ける手がかりであるような気さえしていた。

「嗚呼、それなのに、何故……? そのような行いを以って生み出し、生かすのに……?」

 微かだが、阿闍世の声が悲嘆に震えた。何かが違う。霊夢は微かな違和感を感じ取る。今までの声とこの声は、何かが違っていた。

「どうして貴方は我々を見ない……お母様……」

 あそこだ。あそこから聞こえた。阿闍世の声は今まで業火と共にあった。しかし霊夢は、先ほどの声だけは聞こえてくる元の場所があるように思えた。

 その声を最後に阿闍世の声は聞こえなくなった。噴出する業火の勢いはさらに強まっている。霊夢は視界の先に、火炎の色が一層赤黒く濁っている部分を捉えていた。業火はあそこから噴き出ているようだ。そしておそらく、あの中心に阿闍世はいるのだろう。霊夢には、先ほどの声があの場所から聞こえたように思えた。

「それが本音なのね。ただただ母親が恋しい……」

 霊夢はそう呟くと、再び夢想封印の光球を展開した。先ほどよりも光球の数が桁違いに多い。そして霊夢は赤黒い火炎の中心を見定める。幾色もの光球は赤黒い火炎の中を飛び、その源泉へ迫っていく。

 光球が火炎の源泉に直撃し重なる度、光は輝きを増していった。少しずつ白い光が結界の中を包み込んでいく。そして最後の光球が重なった時、霊夢の視界は白く染まり上がった。

 白い光の中で僅かな時間が流れる。段々と霊夢の視界に色が戻っていく。霊夢の視界がはっきりしたころ、今まで結界の中を埋め尽くしていた赤黒い火炎は、空へ溶けるように消えていくところだった。霊夢はその光景の中に阿闍世の姿を見つけた。阿闍世は気を失ったのか、全身をだらりと弛緩させ、地へ落ちていくところだった。

 阿闍世の身体が地面へ落ちる。それと時を同じくして、赤黒く濁った火炎は全て空に消えた。


Stage Clear!

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