Last Stage『この身と共に生まれた大怨』①
Last Stage『この身と共に生まれた大怨』
深宵園-東方鸞層
自機:博麗霊夢
霊夢が乗ると、舟は泡に包まれて宙へ浮かんだ。舟の船首が紅い月に向く。月光を注ぐように空けられた壁面の穴を通り抜けて、舟は深宵園の空へ出ていった。
霊夢の耳に風を切る鋭い音が聞こえる。そして視界の中では月が少しずつ大きくなっていった。月は、はじめは掌で掴めそうな大きさだった。次第に大きくなっていき、気付けば霊夢の全身よりも大きくなる。それほど大きくなってもまだ、月は肥大し続けた。月が湛える炎の揺らめきは、よりはっきりと霊夢の眼に映った。
「どこまでも大きくなるわね……。着くころにはどうなっているのかしら?」
やがて月は宮殿を超えるほど巨大になった。しかしそれでも月は肥大し続ける。月光も段々と強さを増していた。霊夢も舟も紅く染まっている。次第に霊夢は月光に耐えられなくなり、目を開けていられなくなってきた。薄目を開けていても月光は瞳に突き刺さる。
もう耐えられない。そう思って霊夢は両方の瞼をぎゅっと閉じた。霊夢の視界が暗闇に閉ざされる。そうかと思うと、突如瞼の裏側が紅く光を放った。一瞬の閃光の後、紅い光は闇へ溶けて消えていく。そうして再び霊夢の視界は暗闇になった。
どうも様子がおかしい。先ほどまで聞こえていた風の音が消えた。代わりに何かがぱちぱちと爆ぜる音がする。霊夢は大気の様子にも違和感を覚えた。舟の中では水中でさえ冷気を感じなかった。しかし今は、同じ舟の中だというのに咽かえるような熱気を感じている。霊夢には額と肢体から汗が噴き出てくるのが分かった。瞼を閉じてからまだ数秒と経っていないはずだ。霊夢は言葉にならない不安を覚え瞼を開いた。
「これは……」
霊夢の眼前では紅い炎が燃え盛っていた。ここは屋内なのだろうか。気が付けば霊夢を乗せた舟は、炎に蹂躙される建造物の中にいた。何でできた建物なのだろう。壁も床も火炎に包まれていて、色さえ判断できない。しかし霊夢は鼻孔を突く悪臭から、獣を焼き殺した時の嫌な記憶を想起した。
霊夢を乗せた舟はもはや動かなくなっている。しかし炎に囲まれても燃える様子はなかった。
「舟が故障した訳でも無いみたいね。なら、ここが深宵園の月……」
霊夢が背後を見ると、そこには前方の火炎さえ呑み込むような暗黒が広がっていた。どうやら舟はこの暗黒の向う側から来たらしい。視線を前方に戻すと、そこは幅の広い通路が続いているようだった。炎に遮られて遠方の様子は判然としない。
ふと霊夢は、右横の足元にもう一隻の舟があることに気付いた。霊夢より先にこの場所へ着いた者がいるのだろう。そしてその舟が残っているということは、まだその人物は月にいるらしい。霊夢はそう考え、自分の視界の先に何者かの存在を感じた。
霊夢は泡を破って舟の外へ飛び立った。そして燃え盛る火炎さえ退かせるように、通路を奥へ奥へと進んでいく。何も確信はなかった。しかし霊夢は、自身の行方にこの業火を起こした主がいると感じていた。




