第一章 一ページ目 盗賊と少女とグロイオブジェ
「ああ、寒。」
そう、男は呟いた。
男はフードのついた白いローブを纏っており中には黒いセーターを着ている。
腰には太いベルトを巻いていて、腰の右側には大きめのポーチその隣にはランプ、左側には剣がぶら下がっている。雪が降り積もる、大きな山何の装備もなく登っている。
男は、はあ。とため息をつき。
「そういや、師匠。山は舐めるなって言ってたな。」
そう言った後に男は皮の手袋の上から火をボッと出す。
「暖かい。」
男は、はあ。と再び溜息をつき山を登る。フードから白い髪がチラチラと見える。
男が山を登っているとふとあることに気が付いた。
足跡が一方向にしかないのだ。登りの足跡はあるが下りの足跡がない。
男はそれを警戒してか、腰の左側にある剣の柄にそっと触れる。
はあ。とため息をついた。
男がしばらく山を登っていくと、左右の綺麗な雪景色が白い土模様になる。
突然ヒュンと男に矢が飛んでくる。
その飛んできた矢をバックステップで避ける。
「止まれぇ!」
男の声が大きく響く。すると六人、男が現れる。
三人は剣を持った剣士で、二人は弓を持った弓兵、一人は真っ黒のローブを着た、魔術師。
おおよそ、盗賊だろう。
「おい!そこの白フード野郎!命が惜しければ、荷物すべてを置いていけ!」
男は何故こいつらはこんな軽装な奴を襲うのかとふと疑問が浮かぶ。
阿保だからか、もしくは弱そうだから、その二つの答えにたどり着く。
「はあ。どうせ、置いてっても殺すんだろ」
男はそうぼやく。
盗賊はニタアと笑い、一人の剣士は剣をパンパンと軽く手に打ち付ける。
「お前ら!殺っちまえ!相手は一人だ!」
そこまで、聞くと白いフード男は剣を抜く。
白フードの男は突然猛ダッシュをする。白フードの男の横をヒュンヒュンと矢が落ちる。
一番近い、剣士までたどり着くと左下から右上へ切り上げ、体を二つにする。
返り血を浴び、白いフードが赤く汚れる。
切られた剣士のすぐ後ろにいた剣士が上から下へと剣を大きく振る。
「プロテクト」
血を浴びた男はそう唱え、左手で相手の剣を掴む。男の手からは不思議と血が出ない。
剣を掴み、その後相手の腹にキックを喰らわす。
剣士はうおっ。と間抜けな声を漏らす。剣士は剣の柄から手がスルッと抜けそのまま仰向けに倒れる。
つかみ取った剣を適当に投げ捨てる。
その後に倒れた剣士の胸を踏み、相手が動かないようにしてから、両手で剣を持ち喉に思いっきり刺す。「ふがっ!?」と変な声を最後に剣士の息は途絶えた。
そこに矢が数本飛ぶ、男は喉に突き刺さった剣を抜き取り、すぐに後ろへ下がる。
「貴様あああ、よくもおおおおおお」
そう叫び、一人の剣士は上に剣を振り上げたまま、フードの男に向かって走り出す。
フードの男は少ししゃがみ剣に当たらないようにし、一気に距離を詰める。そして、相手の頭を掴む。すると、次の瞬間、剣士の頭がごうと燃え、真っ黒になる。
フードの男が手を放すと、剣士は力なく倒れた。手を放して、すぐに三つの火球と二つの矢が飛んできた。
そのうち、一つの火球を握り潰す。残りの火球と矢は剣で切り捨てる。
「な、なんだよこいつ!?化け物か?」
そう弓兵の一人が叫ぶ。
「いいから、打つんだよ!」
「弾幕を絶やすな!」
残りの二人が弓兵の言葉をもみ消すように叫ぶ。フードの男は
「アイス」
そう、唱える。男が唱えると、空気が空色に輝き氷でできた槍が3つ現れる。その後槍が弓兵や魔術師の腹に突き刺さる。
「「ぐああああああああああああ」」
盗賊たちが叫びをあげる中フードの男はスタスタと歩いていく。魔術師の横に来たところで
「お、おい。お前、助けてくれ。俺には大事な娘がいるんだ」
魔術師の男が助けを求める。何とも図々しい話である。
その言葉を聞き、フードの男は一度足を止め口を開く。
「人を襲うということは、それ相応の覚悟をしているということだよね?そんな覚悟もないのに人を襲うなんて甘いよ」
一度口を閉じこう続ける。
「何のリスクもなしに何かを得るなんて不可能なんだよ。しかも、人を襲っておいて助けてほしい?図々しすぎる。」
そう言い、再び歩み始める。すこし行ったところで、再び止まる。
「あ、そうだそうだ。忘れていた。」
「ドレイン」
そうフードの男は唱える。
「僕は、優しいんだ。」
「き、貴様何が”優しいんだ”だ!」
再び盗賊達は悲痛の叫びをあげる。盗賊達の体がドンドン老化していく。やがて、叫びが収まる。
「魔力の量しょっぱいな。」
再び歩み始める。
すこし歩くと再び開けた場所にでる。そこには、煙突のついた一軒の木造の小屋があった。小屋の周りには死体がたくさん転がっている。
若い男や、年老いた者、裸の女性、獣の耳の付いた女の子。とにかく様々な年齢性別、種族の死体が。そんな小屋の煙突からは煙が出ている。
「うっわ、グッロ。死体で、ピラミッドでも造りたかったのか?」
とりあえず、中の盗賊もぶっ殺しとくか。そう思い、剣を抜く。そして小屋に向けて歩を進める。
小屋の扉の前まで来て、コンコンとノックする。
中からはムゴー、ムゴーと声がする。その声を聴いた男は剣を収める。
フードの男はドアノブを回すが、開かない。男はドアノブの部分を思いっきり蹴り飛ばす。ドアは大きな音を立てて開く。
小屋の中央には、テーブルとイスがあり、そして灯りであるランプがある。その奥には暖炉がある。
右側の壁には血の付いた斧、包丁などがかかっていて、その下には口に布を巻かれ喋れなくされた上に両手足を縛られ、体のあちこちに痣のあるボロを着た緑髪の少女がいた。
その少女の目からたくさんの涙が流れていて首を必死に横に振っている。
「んあ、んあ、んあああああああ」
「お嬢ちゃん、もう大丈夫だから。」
そういい、フードの男は少女の後ろに回り、口にまかれている布をほどく。布をほどいている間も少女は暴れる。
「いやああああああ。近づかないで!また私に変なことをするんでしょ!」
そう叫ぶ。
「いや、しないから。腕と足の縄切るから動かないでね。」
そういって、ローブの左側からナイフを取り出す。
「いやだあああ、死にたくなあいいいいい」
ナイフを縄に近づけ切ろうとするが、暴れる。
はあ。とため息をつき、指を鳴らす。少女の叫びが止まる。
「やっと静かになったか。」
「あああああああああ」
少女は声をあげ、目を覚ます。男がビクッとする。
「やっと目を覚ましたか。」
「あ、あなたは何者?」
おどおどしながら質問をする。
「僕はフォルスと言います。ギルド”トランス”に所属している、運び屋です。」
白い髪、赤い目で黒いセーターを着た男はそう答える。
「あなたのお名前は?」
「わ、私は、」
そういい、アタフタし。あちらこちらを見る。少女は自分に白いローブがかけられているのに気づく。フォルスが自分を襲う気が無いと分かったのか少し落ち着く。
「え、えっと私はフィ、フィーユと言います。」
「えっとー、フィーユさん。」
「は、はい!」
フィーユは驚き交じりで返事をする。
「まず、一つ目、僕は、君を襲う気はない。二つ目、君を家まで送る。三つ目、送るとして、君が家に帰るまで絶対に護る!」
そう、少女に言う。フィーユは感動したのか、少し目が潤んでいる。
「え、えっと。送っていただいてよろしいんですか?そ、それと何故私にそこまでしてくれるんですか?」
疑問に思ったことをフォルスに訊く。
「えっとね。僕のところは、業績の分...運んだ物や、数。それに相当して、給料が支払われるんだ。」
「つ、つまり。お、お金の為ですか?」
「それもあるけど、雪山の小屋の中に、ボロ切れ一枚の少女をほおっていくなんてできないし。」
少し間を置き、話を続ける。
「僕は旅もしているんだ。俗に言う”旅人”だ。それと兼用して運び屋もやっているんだ。お金も手に入って旅もできる。僕からすると天職なんだよ。」
フォルスはハッとした表情になる。
「ごめん。話が逸れたね。まあ、君を家まで送り届けてあげるよ、絶対に。約束する。」
「で、でも。お金ないですよ。」
フィーユは悪そうにして、頭を俯く。
「ああ、いいよ。お金取る気なんて最初からないし。」
そういいながらフォルスはフィーユの頭をポンポンとする。
「じゃ、じゃあ指切りしてください。」
涙ぐみながらも真剣な顔でフィーユは答える。
フォルスはフフッと笑い。
「はい」
といい小指を差し出す。フィーユとフォルスは指切りをして、二人の間に契約が成立した。
そしてこれから、フォルスのフィーユ宅配の物語が始まる。