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ミズムシイタルコ(1)

 壊れた戸を律儀りちぎに直すと,「お騒がせしました」との一言をえ,村長は古民家を出て行った。


 村長は退去する寸前まで,倫瑠に対して,というか,倫瑠のグラビアアイドル並みの胸の膨らみに対して,イヤラシイ目を向け続けていたが,ディスプレイで繰り広げられる戦闘に夢中な倫瑠がそれに気付くことはなかった。



 何はともあれ,これで万事ばんじが丸く収まった。

 引きこもりの倫瑠にとって宝の持ちぐされである美貌びぼうも意外なところで役に立つのだな,と総括そうかつしたところで,僕は日菜姫とのデートを再開することにした。倫瑠に見られないように頭から布団をかぶり,鼻にハンカチを当て,まぶたを閉じる。

 はあ,やっぱりいい。日菜姫の匂いはなぜだか暖かい。太陽に包まれているようだ。



「おい。変態,目を覚ませ」


 北風よりも冷たい声が,僕の幸福こうふくを一瞬で吹き飛ばした。



「あんた,その女性もののハンカチはどこでくすねてきたの? 変態は嫌いよ。助手を辞めてもらうわ」


「い…いや,これには深い事情がありまして…」


「あんたの弁解録取べんかいろくしゅをしている暇はないわ。さっさと外に出なさい」


「…え? 本当にクビにするんですか?」


「残念ながらそんな暇もないわ。とりあえず,まずは布団から出てきなさい」


 僕は渋々倫瑠の指示に従い,布団から顔の上半分をちょこんと出した。



「あんた,さっきの村長の話は聞いてたわよね?」


「倫瑠さんが日菜姫以上とかいう戯言ざれごとを言っていましたね。村長はご高齢なのでボケが始まってるんだと思います」


「何? あんた,そんなにクビになりたいの?」


 倫瑠が怒りを込めて強打したエンターキーが,パチンと大きな音を立てる。



「しまった…。口が滑った…」


「素直な部下を持つべきとは言うけど,部下が素直すぎるというのも考えものね。その話じゃないわ。この部屋に入ってくる直前のこと。村長が何を言ったか覚えてる?」


「えーっと,なんでしたっけ?」


 正直,よく覚えていない。「倫瑠が日菜姫以上」発言の他に記憶にとどめたことは,日菜姫がお琴を弾けるという有益ゆうえきな情報くらいである。



「本当に使えない助手ね。村長が『この村に災厄さいやくを持ち込んだのはお前だったんだな!』って言ったのは聞こえなかった? それともずっとオ◯ニーに集中してたのかしら?」


「ひ…日菜姫さんは神聖な存在なので,けがすようなことは絶対にしてません!」


後段こうだんはメインの質問じゃないから,躍起やっきになって答えなくいいわ。前段ぜんだんの,村長の『災厄を持ち込んだ』発言を聞いたか否かを端的に答えて」


「たしかに聞きました」


 ネトゲの効果音を村人の悲鳴と勘違いした村長は,倫瑠が村人を監禁していると早とちりし,「この村に災厄さいやくを持ち込んだのはお前だったんだな!」と怒号どごうを上げた。


 果たしてこの発言に何か深い意味があるのだろうか。



「ピンと来ていない顔ね」


 倫瑠がパソコンの画面を見たまま言う。僕に背中を向けているというのに,なぜ僕がピンと来ていない顔をしていることが分かったのだろうか。



「『持ち込んだ』って過去形になっていることがミソね。『災厄』はすでに持ち込まれているということ。しかも,それが私たちのせいと勘違いされたということは,私たちがこの村に来た2日前よりも以降に,この村で『災厄』が起こったということね」



「なるほど…」


 僕は倫瑠の推理力に感心し,口を開ける。


「何,ポケーッと口を開けてるのよ?」


 だからなぜこの女はパソコンの画面を見ながら僕の表情が分かるのだろうか。

 もしやネトゲ廃人という生き物は,ネットゲームをしながらでも周辺の様子を察知できるのだろうか。そういう特殊な進化をげているのだろうか。



「この『災厄』と,私たちがこの村を追い出されようとしたことは無関係だとは思えないわね。おそらく,村長がこの古民家に訪れる直前にその『災厄』は発生し,その『災厄』をよそ者である私たちに知られないため,村長は私たちを追放ついほうしようとしたのよ」


「ほお」


「ということだから,さっさと外に出てその『災厄』の正体を突き止めてきなさい」


「ほ…え?」


「村の人が恐れているものが何かを知ることは,民俗学調査の基本中の基本よ」

 

 たしかに倫瑠の言っていることは正しい。ただ,正しいからと言ってこんな深夜に助手を使いっ走りにしてよいということにはならないと思う。



「でも…」


「グダグダ言ってないで早く外に出なさい!」


「まだ,『でも…』しか言ってないんですけど…」


「そこからグダグダ言うつもりだったんでしょ。言っておくけど,頭より先に足が動かないようじゃ,民俗学者失格だからね」


 これもまた正しい。だが,引きこもり民俗学者の倫瑠にだけは言われたくない。



「あと10秒以内に行かなかったら,あんたのSNSアカウントを炎上えんじょうさせるからね。10…9…8…」


 火の上級魔法よりも格段かくだんに現実味のあるおどしである。

 一つ断言できることとして,四六時中しろくじちゅうネットに勤しんでいる人間をネット上で敵に回すのは決して得策とくさくではない。



「わかりました! 行きます!」


「7…6…5…」


「ちょっと待ってください! 今準備中ですから!」


「…とか言いながら,今,ポケットにくだんのハンカチを入れたわね。そんなの準備として必要ないわ。置いていきなさい」



 僕は仕方なくハンカチを布団の上に置く。

 先ほどから警戒して倫瑠を監視していたが,倫瑠がこちらを振り向いたことは一度もなかった。

 やはり倫瑠の目は特殊な進化を遂げているようである。






 聞いてください! 菱川のiphoneが,小龍包によって壊されました!!!



 本当です!!! 本当なんです!!! 信じてください!!!



 つまり,こういうことです。

 

前提1

菱川のスマホの画面はバキバキに割れている


前提2

菱川の食べた小龍包は,肉汁が溢れ出てくることで有名(TVで紹介されたこともアリ)


前提3

菱川は食事中,だいたいシャドウバースをやっている


前提1+前提2+前提3

かじりついた瞬間,小龍包の肉汁が,シャドバのプレイのために机に置かれたiphoneを襲う。肉汁はバキバキに割れた画面からiphoneの内部に侵入。iphone壊れる。



 ちなみに,iphoneは小龍包の肉汁が入り込んだことによって,ホームボタンがずっと感知している状態となり,呼んでもいないのに「用件はなんですか?」とsiriが出しゃばってくる状態となりました。。。助けて。。。

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