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倫瑠VS村長(2)

「とにかく,出て行っとくれ。そもそもこの古民家はわしの所有物だ。わしには学者さんにこの家から出て行ってもらう権限けんげんがある。もちろん,戸を壊す権限もな」


 若干過激であるが,村長の発言はまぎれもない正論だ。

 このままだとこの古民家,ひいてはこの村から追い出されてしまう。

 出逢であって早々,日菜姫と遠距離恋愛だなんて耐えられない。倫瑠には,持ち前の頭脳を駆使くしし,村長を追い払って欲しいところだ。



「はあ!? あんた,そんなことしたらどうなるか分かってるの? 私の火の上級魔法で骨のずいまる焦げにしてやるから!」


 おいおい。ネトゲの世界と現実世界との混同こんどうはなはだしい。倫瑠が生まれ持った天才的な頭脳は,今では完全なるゲーム脳と化してしまったようだ。



「ま…魔法!? が…学者さんは魔法を使えるのか?」


 村長の声が震える。



「ええ。レベル300を超えてるから,みずきんつちの全ての属性の上級魔法を使えるわ。あんたみたいな雑魚はイチコロよ」


「くそ…どうすれば…」


 さすが未開人みかいじん。「ネトゲ廃人」の生態にここまで無知だとは,僕にとって嬉しい誤算ごさんである。

 僕は倫瑠にエールを送る。倫瑠,その調子だ。ハッタリによって村長を追い出してしまえ。



「私とあんたの歴然れきぜんたる力の差が分かったでしょ? さあ,さっさと帰りなさい」


「くっ……」


 これで勝負あり,と思ったそのときだった。


 倫瑠のパソコンから,「ぎゃああ」という人間の悲鳴が聞こえた。


 無論,これはゲーム内の演出である。味方の兵隊が倒されたときに発せられる効果音だ。


 しかし,未開人である村長は,この世の中に,人間の声を出すものが,人間以外に存在していることに思いが至らなかったようだ。



「悲鳴!? 学者さん,まさかこの古民家に村人を監禁かんきんしているのか? そうか。この村に災厄さいやくを持ち込んだのはお前だったんだな! 許せん!」


「いいえ。これはネトゲの効果音よ!」


 倫瑠が都合よくネトゲと現実世界の区別を取り戻したものの,「ネトゲ」の存在を知らない村長に話が通じるわけがなかった。



「村人はわしが守る!」


 意気込んだ村長が戸に体当たりをし、ドターンッという土砂崩どしゃくずれのような音を立てて戸が倒れた。



「村人はどこだ!?」


 息を切らし,目を充血させた村長が,部屋一面を見渡す。


 もちろん,そこにはパソコンに向き合う倫瑠と,布団にもぐり込んでいる僕しかいない。



「おかしいのう。村人は誰もいないのう。空耳だったのかのう」


「ええ。あんたは自分の老害をわきえるべきね。焼き殺してやるわ」


 倫瑠が数時間ぶりにパソコンの画面から目を離し,村長をにらみつけた。僕は恐怖で震え上がる。今の倫瑠の顔つきに比べれば,般若はんにゃのお面ですらいやし系の部類に入る。


 しかし,村長の抱いた感想は,僕とはまったく逆方向のものだった。



「う…美しい……」


 村長は目をトロンとさせ,口をポカンと開けたまま立ち往生おうじょうした。

 ブカブカのモンペを履いているから確認できないが,おそらく股間こかんの方も反応している。

 

 たしかに倫瑠は「美人過ぎる民俗学者」として,倫瑠の本性を知るよしもないネット掲示板の住民などに持ち上げられている。僕が「いや,鬼畜きちく過ぎる民俗学者」だと真実を書き込めば一瞬で炎上してしまうほど,倫瑠に対する幻想が広まっているわけだが,それくらいに倫瑠のルックスは万人ばんにんウケするのである。



「はあ,あんた,何言ってるの?」


「…日菜姫以上じゃ……」


「あんた,何言ってるんだ!!」


 これは久方ひさかたぶりの僕の発言である。

 布団の中で状況を静観せいかんしているつもりだったが,反射的に声が出てしまった。


「へえ,あんた,ひなきという女の子に相当熱を上げているようね。調査そっちのけで女の尻を追いかけることに熱中していたんでしょうね。まずはあんたから焼き殺そうかしら」


 しまった。どう言い訳してこの災禍さいかを逃れようかと思った矢先やさき,村長から耳を疑う発言が飛び出した。



「前言撤回じゃ。学者さん,村に残っていいぞ」


「え!?」


「学者さんはべっぴんさんじゃから特別じゃ」


「本当!?」


 ギラギラの目をキラキラした目に一転させた倫瑠を見て,村長がにやける。



 つまるところ,このエロジジイはどこまでもいってもエロジジイだった。






 昨日,ユーザー「菱川あいず」名義で,「自慢の彼女(ハロウィン用ショートショート)」というタイトルの,800字程度の恋愛小説が投稿されました。


 性的趣向が倒錯した上に歪んでいる菱川が,このような純朴なラブストーリーを書くはずがありませんので,これはおそらくゴーストライターによる作品だと思われます。そうでなければ,この作品は,いつも変態小説を投稿し続けているがために女性ファンがつかないことを気にした菱川が,あさましくも女子ウケを狙って投稿したものだと思われます。

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