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ネトゲ(2)

「早くドアを直して出て行きなさい。魔法でこおらせるわよ」


「魔法? 倫瑠さん,ネトゲに熱中しすぎて,現実とバーチャルの区別もついてないんですか?」


「あんた,誰に口きいてんのよ?」


 倫瑠が,社長令嬢とは思えない,育ちの悪そうな言い回しですごむ。



「それより,あんた,ちゃんと調べたんでしょうね。私がなんのためにこのボロ家に閉じ込められてるか分かってんの?」


 今,僕と倫瑠がいるのは,巳織みしき村という日本海に面した漁村である。

 江戸時代から時間が止まっているのではないか,と疑いたくなるくらいに文明が遅れているこの村に,2人は民俗学の調査のために来ていた。


 この村では海神かいじんが信仰されている。そのことは学会で明らかにされている。しかし,その海神の名前,性格,逸話いつわといった情報について,先人せんじん達の調査がなされた形跡けいせきがないのである。そのことに目を付けた倫瑠は,巳織村の現地調査を決意したのだ。


 とはいえ,フィールドワークを行っているのはもっぱら僕であり,倫瑠は村について早々,すれ違う村人に挨拶の一つすらすることなく,あらかじめ僕が確保しておいた古民家に転がり込み,籠城ろうじょうを始めた。


 これこそが恥ずかしくて決してよそには言えない飛鳥井倫瑠の民俗学調査のスタンスなのである。

 助手である僕にすべて調査をさせ,自分はネトゲの世界にのめり込む。

 僕が全ての調査を終えたところで,倫瑠はようやく仕事を開始する。僕の調査の結果を,持って生まれた頭脳と文章力によってまとめあげ,論文にする。

 そして,倫瑠は,論文を飛鳥井倫瑠単独名義で学会に提出し,名声をさらう。


 倫瑠はこれを「二人三脚」と名付けているが,どう考えたって倫瑠が僕を一方的に搾取さくしゅしているだけである。悪魔の所業しょぎょうだ。



 僕は元々倫瑠のファンだった。

 高校生の頃,倫瑠の「意欲がみちる民俗学」という文庫本を読み,感動した僕は,その後,雑誌のインタビューの写真で倫瑠の容姿を見て,ゾッコンとなった。


 倫瑠に会いたい,という気持ちだけをコンパスに,倫瑠が准教授じゅんきょうじゅを務める大学に2浪して入り,倫瑠の研究室のドアを叩いた。今考えれば,これがすべての誤りであり,僕の転落人生の始まりだった。

 倫瑠の正体を知り,さらに「意欲がみちる民俗学」がゴーストライターの手によるものであったことを知り,千年の恋が冷めた頃には,僕はすでに助手としてこき使われていた。




「ちょっと,あんた,人の話聞いてるの? 調査は進んでるわけ?」


「いや,聞き込みを行っているんですが,村の人がなかなか答えてくれなくて」


「使えない奴ね。この村の海神について有力な情報が得られるまではこの家に帰ってこないで。約束よ。指切りげんまんうそついたら針千本はりせんぼん…」


「ちょっと! 相手の合意がないのに勝手に約束を取り付けないでください!」


 やはりこの女は悪魔である。



「うるさいわね。とにかく出て行って」


「無理です。もう夜です。僕に野宿のじゅくしろとでも言うんですか?」


 倫瑠があきれたようにため息をつく。



「あんたそれでも民俗学者の卵? 夜こそ調査の本番よ。この村で一番博識そうな人間に強い酒を無理矢理飲ませて情報を引き出しなさい」


「村人はとっくに寝る時間です」


「民家に泊まってこそ民俗学調査が深まるってものよ。男色だんしょくの村人はいないの? 一夜をともにしたら情報をくれるような」


「助手の体を売ろうとしないでください!」



 自分自身は何もしないくせに,倫瑠の要求はとにかく高い。


 僕は壊れた戸を簡単に直すと,なおもギャーギャーとわめく倫瑠を無視し,囲炉裏いろりのそばにいた布団に横になった。






 声優の豊崎愛生さんが結婚した,というネットニュースを見ました。

 そのネットニュースによれば,声優のヲタクは,声優のプライベートには干渉しないという主義らしく,豊崎さんの結婚についても,ショックを受けることなく,ただ祝福する傾向にあるとのことです。


 ドルヲタである菱川は,このネットニュースを見て驚愕しました。僕が豊崎愛生さんのファンだったら,結婚のニュースに間違いなくショックを受けます。だって,好きな人が他の誰かのものになってしまうことは辛いじゃないですか。望みが薄いとはいえ,一応は存在している「ワンチャン」すら消えてしまうのは嫌じゃないですか。



 そんな菱川は,敬愛するシンガーソングライターYUIさんの離婚のニュースを心より祝福します(問題発言)。

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