表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

美少女の役割(2)

「ど…どういう意味じゃ?」


 村長がおそるおそる倫瑠にたずねる。



「とぼけてもらっちゃ困るな。村長だったら,私の発言の意味が分かってるはずなんだけど」


「わ…分からんぞ」


「ふーん。らちがあかないわね」


 倫瑠はスタンドからマイクをもぎ取ると,ポカンと口を開けたままの観客達目掛けて演説を始めた。



「私のファンのみんな,実は,私は民俗学者です。この村の伝統や習俗を調査するため,遠路はるばる東京からやってきました。みんなにはとても感謝しています。みんなのご協力のおかげで,調査は完了しました」

 

 寝耳ねみみみずである。

 この村の民俗学調査はまだ道半みちなかばだと思っていた。肝心の海神「ミズムシイタルコ」について,その名前を除き,何も分かっていないからである。まさか,倫瑠は,古民家で僕から伝聞でんぶんした情報だけで,すでにミズムシイタルコの正体までたどり着いたということだろうか。 



「私の本職は民俗学者です。しかし,みんなの支持によって,この村一番の美少女に選ばれてしまった以上は,この村一番の美少女に求められている役割を果たす義務があると思っています」


 この村一番の美少女に求められている役割? これもまた初耳である。


「この村一番の美少女にされた役割,それは…」


 倫瑠が言葉をめている間,会場は水を打ったように静まり返っていた。

 先ほどまでBGMを構成していた野次の一つすら入らない。

 倫瑠はその状況を楽しむかのように,次の一言を出ししみする。村人の唖然あぜんとした表情を存分に味わったのち,倫瑠はようやく言葉をいだ。



「この村一番の美少女の役割は,あらぶる海神であるミズムシイタルコの怒りを鎮めることです」


 会場の静寂せいじゃくはすでに倫瑠の所有にあった。



「これから、私はミズムシイタルコの怒りを鎮めなければなりません。しかし、私が役割を果たすためには,どうしても私の職分しょくぶんを越えなければなりません。つまり,民俗学者の私が,探偵の真似事まねごとをしなければならないのです」


 探偵は大きく2種類に分けられる。

 浮気調査や人探しを主に行う,現実世界の探偵。そして,殺人事件の犯人を推理する,創作世界の探偵。連続殺人事件が発生している状況化を考えれば,倫瑠が真似事をする探偵はおそらく後者だろう。


 倫瑠の推理は,この村についての説明によって口火くちびを切った。



「この村は漁村です。海に船を出し,魚をり,それを食料にすることによって,この村の人々の暮らしは成り立っています。今も昔も,この村はずっと漁によって支えられてきました。この村には恵まれた海の環境があります。この恵まれた海の環境は当然,海神であるミズムシイタルコによってもたらされたものです」


 どこの漁村にもありそうな,素朴そぼく海神崇拝かいじんすうはいである。生命の維持に必要不可欠な食料が神様の恩恵おんけいによってもたらされているという発想は,信仰の原初的げんしょてき形態けいたいの一つだ。



「しかし,漁は常に上手くいくわけではありません。自然は必ずしも人間の思い通りにはなりません。時には時化しけに襲われることがあります。ときには嵐に漁船が襲われ,かけがえのない村人の命が奪われることもあります。それもまたミズムシイタルコ様の御心みこころ次第しだいなのです」


 日本の神様の特徴の一つは人間臭さである。

 ヨーロッパの天使と悪魔のような徹底した善,ないしは徹底した悪という存在ではない。一柱ひとばしらの神様が,いこともすればわるいこともする。日本の神様は多面的であり、複雑だ。

 


「そして,最近もまたミズムシイタルコが怒りました。久しぶりの大きないかりです。その怒りの大きさたるや,神は思わず呪いによって人を殺してしまいました」


 僕には,倫瑠が,今回の殺人事件をミズムシイタルコの呪いによるものであると断定したように聞こえた。やはり今回の出来事は超常現象として処理するしかないのだろうか。



「不幸にもミズムシイタルコの逆鱗げきりんに触れてしまった人間がいました。その人間の名前は,矢板拓真やいたたくま。皆様にとって聞きなれない名前だと思います。だって,彼はこの村の住人ではありませんから」

 

 最初の被害者はこの村の住人ではなかった。「矢板拓真」は最初の被害者の名前ということで間違いないだろう。



「矢板の素性は,彼のSNSから調べることができました。最近巳織村を訪れていて,なおかつここ3日間更新が一切ないアカウントを探したんです。こんな辺鄙へんぴな村を訪れる人間なんてほとんどいませんから,アカウントの特定は容易でした」


 倫瑠は村で起きている連続殺人に興味がないようでいて,実はちゃんと事件について調べていたということらしい。現実の行動力は皆無だが,ネット上での行動力はあなどれない。

 


「矢板はエネルギー資源について調査研究をするハイラル・エナジーという会社に勤めていました。ハイラル・エナジーは,メタンハイドレートに高い関心を寄せる会社です」


 「メタンハイドレート」という言葉は何度か聞いたことがある。別名「燃える氷」。石油やガス資源にとぼしい日本において,次世代のエネルギーとして注目されている資源である。

 


「メタンハイドレートは,メタン分子が水分子に取り囲まれることによってできる個体です。メタンハイドレートが存在するための条件で主たるものは4つ。メタンがあること,水があること,低温下であること,高圧下であることです。地球上においてこの条件を満たす場所は一部の深海です。そして,日本列島の周りにはこの条件を満たす深海が多いのです」


 加齢によって脳が縮小しゅくしょうし始めているこの村の住民には理解が難しい話かもしれない。そんなことには気にもかけず,倫瑠は淡々と説明を続ける。



「ハイラル・エネジーは巳織村に目をつけました。なぜなら,この漁村に面している海はとても珍しい構造をしているからです。海流の関係で,少しおきに出るだけでグッと水温が下がるのです。なおかつ,大陸棚たいりくだな斜面しゃめんも急であり,水深もあっという間に深くなる。この特殊な環境こそがこの村に豊かな海産物をもたらしているのですが,同時に,この特殊な環境はメタンハイドレートの採掘さいくつにとっても理想的です」



 倫瑠はパソコンを起動している最中は常にネトゲにログインしているから,これだけの調査を,データのロード中などの隙間時間すきまじかんに全て行ったはずだ。倫瑠の調査能力には舌を巻く。



「ハイラル・エナジーは,社員である矢板を巳織村に派遣はけんし,ある交渉に当たらせました。ハイラル・エナジーは,この漁村の港を埋め立て,メタンハイドレート採掘用の大きな船が離発着できる港として開発することを望みました。矢板の役目は,その話をこの村の村長に持って行き,通すことです」


 会場の視線が,一斉に司会の村長に注がれる。倫瑠の話によれば,村長は生前の矢板に会っていたことになる。

 村長は用済みであるはずの司会用台本をジッと見つめたまま,誰とも目を合わせようとしない。



「メタンハイドレート採掘事業は,この村に経済的に多大な恩恵おんけいを授けるものになるでしょう。しかし,他方で,この村の基幹産業きかんさんぎょうである漁業に大きな悪影響を与えます。大型の船が往来おうらいすることによる水質汚濁すいしつおだく,採掘による海洋環境の破壊。先祖代々続いた漁村としてのこの村の性格を大きく変えてしまうでしょう」


 この村の人の生活水準は,である。僕と倫瑠のアジトである古民家に代表されるように,住まいは粗末そまつ。食事も粗末。家電の三種の神器であるテレビ・洗濯機・冷蔵庫すら全ての家庭に導入されているわけではない。

 客観的に見て「可哀想」なこの状況は,メタンハイドレート採掘事業を誘致し,莫大ばくだいな補償金を手にすることによって改善されるに違いない。

 とはいえ,この村が漁業を中心とする伝統的な暮らしを脱皮だっぴしてまで客観的な「裕福さ」を求めるべきかというと,それは違う気がする。おそらく村人もそれを望まないだろう。

 矢板の持って来た話は,この村にとって決して開けてはならないパンドラのはこなのである。

 


「メタンハイドレート採掘事業は,不可避的に海をけがしてしまいます。当然,海神であるミズムシイタルコの怒りを買ってしまいます。海はミズムシイタルコのテリトリーであると同時にミズムシイタルコの一部ですから、矢板に天罰てんばつが下るのもいたかたないでしょう」


 矢板が殺害された理由としてはに落ちる。

 とはいえ,実体のない存在であるミズムシイタルコがどのようにして人を殺したのか,という最大の謎については,一切の説明がなされていない。








 パソコンの不調で,せっかく書いたデータ(4000字くらい)が消えました。ショックでエタります。

 これから先のストーリーは皆様のご想像にお任せします←ぇ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ