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復讐(2)

「倫瑠さん,大変です!」


 ちょうど僕が出て行ったときと同じように,枕に顔を埋めたままの格好で眠っている倫瑠の背中を,僕は布団越しにバンバンと叩いた。



「痛っ!? 何すんのよ!?」


 さすがの倫瑠も目が覚めたようで,仰向けになり,上体じょうたいだけだが,身体を起こした。



「あんた,村から出て行ったんじゃないの?」


「それどころじゃないんです! 復讐です!」


「はあ?」


「復讐なんです!」


「ちょっと,5W1Hが一つもないってどういうこと? 冷静になって,ちゃんと整理して話して」


 冷静さを失っていることの自覚はある。しかし,一刻も早く手を打たなければ栄が人の道を外してしまう。

 焦るあまり,僕の日本語能力が著しく低下することもやむをえない。



「まず,誰が? 誰が復讐するの?」


「松川栄,日菜姫のお父さんです」


「ふーん。いつ?」


「今すぐです! もしかしたら,そうこうしている間にも…」


「へえ。どこで?」


「分かりません」


「どうやって?」


「分かりません」


「復讐の相手は誰?」


「分かりません」


「じゃあ,どうすることもできないわね」


 僕は,再び布団に倒れこもうとする倫瑠の頭を押さえ込み,枕から遠ざける。



「ちょっと,何するのよ!」


「寝てる場合じゃありません! 復讐を止めなくちゃ!」


「あんたのお目当ての日菜姫が死んだんだから,日菜姫の父親が殺人鬼になろうとアメリカ大統領になろうとあんたには関係ないでしょ?」


「そういう問題じゃありません!」


「大体,それを私に言ってどうすんのよ? 私が引きこもりでこの家から一歩も出ない件については,あんたが誰よりも分かってるでしょ?」


 倫瑠の言う通りだ。倫瑠に頼ったところで何にもならない。あまりにも色々なことが一気にあり過ぎて,頭が混乱していたようである。


 僕が頭から手を離すと,磁石のS極とN極のように,枕と倫瑠の後頭部が引っ付いた。



「これ以上騒がしくしないでね。いい? この村は単なる研究対象なの。村人に感情移入して本来の目的を忘れるなんて言語ごんごどうだ…」


 そのときだった。パトカーのサイレンよりもけたたましい村人の叫び声が,2人の会話をさえぎった。



「また殺しだ!」


 僕の頭は真っ白になる。

 止められなかった。

 ついに栄が,日菜姫殺しの犯人をあやめてしまったのだ。


 しかし,逆だった。



「今度は松川栄が殺された! 親子して殺されちまった!」



-なぜ。


 気付いたときにはまた駆け出していた。

 



 人だかりは今度は浜辺ではなく,栄の家の前にできていた。

 

 できたばかりの人だかりはまだまばらであったため,近寄らずとも中で倒れている男性の様子が確認できた。うつ伏せで倒れているために顔は見えないが,間違いない。つい先ほどまで僕が会話をしていた男,栄である。



 僕はおそるおそる死体に近づいていく。


 栄の身体に傷はなく,血も一切流れていない。しかし,皮膚が独特の色に変化している。溺死だ。さすがに短期間で3度も溺死体を見れば,溺死体の特徴は自然とつかめる。

 とはいえ,栄の家は,一人目の被害者や日菜姫が倒れていた浜辺よりも遥かに内陸ないりくにある。海は見ることはできるが,決して近くにあるわけではない。ここは溺死とは無縁の環境である。

 

 そして,僕は栄の周りの地面に,おそれていたものを見つけてしまった。

 小石で地面を削ったのだろう。その名前は,くっきりと描かれていた。



「ミズムシイタルコ」


 僕は,実は海神ではなく死神なのではないかとおぼしきその名前を読み上げる。


 


 一体,栄の身に何が起こったのか。

 栄は,日菜姫を殺した犯人に復讐をしようとしていたはずである。栄は殺す側であり,殺される側ではなかったはずだ。

 

-分かった。栄は返りちにあったのだ。そうに違いない。

 栄は日菜姫殺しの犯人を殺そうとして,逆に殺されてしまったのだ。そう考えれば,説明がつく。



-否,本当に説明がつくだろうか。

 

 栄の死因は溺死である。栄に襲われそうになった犯人は,どうやって栄を溺死させたのだろうか。ネトゲの世界じゃあるまいし,水のない陸地で魔法によって水を発生させたなどということはないだろう。しかし,それ以外に栄の死因をどのように説明すればよいのか。


 そして,一人目の被害者のときと同様に,ミズムシイタルコと書かれたダイイングメッセージが存在している。


 僕が栄と最後に話したとき,栄は復讐の対象をはっきりと認識していた。つまり,栄は,日菜姫を,そして栄を殺害した犯人の名前を知っていたはずだ。

 ならば,なぜその名前を書かなかったのか。なぜ実体のない存在である,ミズムシイタルコの名前を書いたのか。

 

 何が何だかサッパリ分からない。この村では一体何が起こっているのか。


 まさか,この村では,僕の常識は一切通用しないということなのか。






 これで第3章も完結です。そして,第4章は1話で完結します。


 

 他の作者様の作品を読んでいると,素晴らしいアイデアだ,とただただ感心する一方,「僕はこういうストーリー展開の方が好きだな」と思ってしまうことがあります。とりわけ,菱川が専門分野と自称しているミステリー作品については,色々と思うことがあります。

 それでも,大人であるならば,思いをグッとこらえ,「素晴らしいアイデアですね」という感想だけ残すと思うのですが,残念ながら菱川は幼稚です。

「僕はこういうストーリー展開の方が好きだな」という感想を素直に書いてしまいます。ここの記述はこのように修正すべき,というかなり具体的な指摘を長々と書いてしまいます。

 その件でご不快に思われた作者の方々には深く謝罪申し上げます。


 ただ,他方でAIよりは適切な指摘をしている自信はありますので,菱川に作品の添削(?)をして欲しい方はご連絡ください。ただし,ファンタジーでは皆様には到底及びませんので,ミステリー作品に限らせていただきます。

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