魔王様とイチゴタルト
温めたポットに紅茶の茶葉を3杯。熱いお湯を入れて覆いをして5分待つ。
カップを2個用意してお湯を注ぐ。スプーンとお皿を準備して…
「ローザ、新作のイチゴタルトを買って来たんだ。一緒に食べよう」
うちの庶民的な王様がやって来た。
王様の名をヴァルター王という。
建国後200年の平和を誇るフェルゼン国の8代目の王。
フェルゼン国内での彼の評価は…
国内の平和を守り、国力を拡大する事に余念の無い勤勉な王。
であるが…外国から見た彼の評価は以下の2つである。
①フェルゼン国の王:農産物をはじめとする良質の商品を輸出する国の王様
②魔王:悪い事をすると魔王がさらいに来るよ。
私は3年前にヴァルターに救われた。
それをきっかけに、家族と共にフェルゼンに移住した。
貯金をはたいて家を買い、治療所を始めた。
カップに紅茶を入れて、2人でほどよい甘さのタルトと紅茶を楽しむ。
「子供の巣立ちは寂しいもんだね。」
「寂しい?ヴァルターは生活全般をユーリ君に依存してましたよね。」
「ああ。だから食事も生活環境もわびしいもんだ」
しかめっ面になるヴァルターを見て笑う。彼に会って3年が経つ。
威厳を感じた事は無くは無いか…1回だけだ。
「今度の休み、一緒に出かけないか?海とか、ナナカ村とか」
「そうですね。久しぶりに村長さんやルド君にも会いたい」
「コルドまで足を延ばすか?春の市場は見ものだぞ」
「そういえば、そろそろ胡椒が切れそうなの。行きたい」
片づけて、薬を何種類か調合したらもう夕方近くになる。
商店街の買い物に向かう。今日はクリーム煮にしよう。
フェルゼンの治安は良い。女性や子供が1人で何の心配もなく出歩く事が出来る。
他の国ではあり得ないのだが。
肉に牛乳と卵とニンジン、玉ねぎ、特売のジャガイモを購入する。
買い物を終えたところで、学校帰りの弟、ノアに会った。
ここに来たときは8歳の小さな男の子だったのに、もう11歳。随分逞しくなった。
荷物持ちを手伝ってもらって、家に帰る。
うちの隣の食堂は今日も繁盛している。窓から中をのぞいたノアが
「ヴァルターさんが居るよ。ユーリが独立したらこれだもんねえ」
と生意気な事を言ってチラチラと私の事を見る。
「そのヴァルターさんからイチゴタルトの差し入れがあるの。今度ちゃんとお礼を言いなさい」と言うと、ノアが目を輝かせた。