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出会いがしらは危険がいっぱい

お待たせしました。では、どうぞ!


 学園も終わり放課後になり薬局でシャンプーを買った俺達は、夕暮れの公園入り口に差し掛かる。すると、なにやら揉めている声が聞える。公園内を覗くと大学生くらいの男が二人で女子高生を強引にナンパしていた。


「や、やめて下さい……結構ですから」


 二人で強引に手を引き連れて行こうとする。


「大丈夫だってなにもしないから」


「俺達が案内してやるって! でも、その前に楽しもうぜぇ」


「ですから……結構です……」


 美咲は俺の袖をちょんちょんと引っ張った。


「志雄……」


「ああ、わかってる。お前は俺から離れんなよ」


 美咲を出口に待たせると追っ払った時に今度は美咲にちょっかい出しかねない。


「うん」


 俺と美咲は三人のとこに脚を進める。


「痛っ! お願いします。もう放してください……」


「だから、一緒にこれば放してやるって」


「そうそう。俺達とあそぼうぜ! 楽しいからよ。とりあえずご休憩でもしてさ」


 ニヤニヤと下心丸出しの横顔、見てるこっちがイライラしてくる。


 俺は男達に近づくと一声かける。


「なぁ、あんた達そのへんにしとけよ。嫌がってんのわかんねぇのか?」


 二人の男はいきなりの闖入者に驚き振り返る。一人は長身の金髪で中々の筋肉質だ。もう一人の奴は小太りの長髪だが、拳を見ると拳ダコが出来ている。女子高生はというと、俺と美咲を交互に見て同様している。まぁ、普通そうなるわな……。公園内には子供が離れてサッカーをしているし、親達も子供が近づかないよう見ている。止めに入ったところでなにも出来ないし、とばっちりにあったらたまったもんじゃない。


だったら始めからほっとくのが一番だ。なにもナンパで命まで取られる心配はないなんて軽率な考えでもしてるのだろう。場合によっては事件に発展する可能性だってあるというのに……。つーか、この女子高生の制服って、あの超お嬢様校の綾瀬女学院か……。


 綾瀬女学院の制服は水色のブラウスに赤とピンクのチェックのスカートだ。胸のポケットにはAjのエンブレムが縫われている。その可愛らしい制服は女子人気が高い。

 しかし一方、学費がめちゃくちゃ高く一般の家庭では通うことができない。制服だけでも数十万近いらしい……。


 綾瀬女学院の生徒は腰辺りまで伸びた綺麗な紅の髪に大人っぽい顔立ちをしている。それどころか、神はこの娘に贔屓でもしてるんじゃないのかと、疑問にを投げたくなるようなスタイルだ。制服の上からでもわかる豊かな胸に細い腰つき、すらっとした美脚……全体的に綺麗というより美しいと表現したほうがこの娘に合っている。


 まぁ、ナンパしてる二人の気持ちも分からなくもない。


「なんだテメェは?」


 金髪の男が女子高生の手を放し、俺の元にやってくる。しかし、小太りの男は逃がすまいと確りと腕を掴んだままだ。俺は金髪を無視し後ろにいる美咲に視線を向ける。すると美咲は一度頷き俺から離れる。こういうときに何も言わないでも考えが伝わるのは付き合いが長いお陰だろう。どうせコイツ等は俺に絡んで喧嘩になる。そうなれば女子高生は解放される。その隙に美咲が女子高生を連れて離れれば被害は受けないだろう。


「おいおい! テメェなっ! シカトぶっこいてんじゃねぇぞ!」


俺が金髪を無視し前へと進む。

金髪右手が俺の胸倉に伸びるが、俺は男の手を右手の甲で軽くいなし小太りの男に近づく。


「はぁ?」


 軌道をいなされた金髪の手は虚空を舞う。そして一瞬何が起きたのかわらず男は硬直していた。


「お前はいい加減その手を放せよ」


 俺は両手をポケットに入れ小太りの男を威圧する。


「おい、ガキがっ! お前は年上にたいする口の聞き方ってのを知らねぇのか? それともなにか、女の前だからカッコでもつけてんのか?」


 小太りの男は女子高生の手を放し、テンプレ的なセリフといかにも噛ませ犬ぽい悪顔で下から睨んでくる。そして金髪も後ろから手を伸ばしてきた。


 俺は無視し、美咲に目で合図する。すると美咲は頷き、戸惑う女子高生を引き離す。


 金髪の左手が俺の右肩に乗ると、俺は左手で肩に乗った金髪の腕を取り前へ引き込む、すると金髪はバランスを崩しす。そして俺は金髪の鳩尾みぞおちに右肘を突き立てる。するとゲフッと言う声と共に腹を抱えうずくまる。


「テメェ!」


 小太りの男は仲間がやられた事に怒り右拳で殴り掛かってくるが、拳は俺にとどかない。それどころか男の拳は反れ、俺の左拳が小太り男の頬を打ち抜くと簡単に崩れ落ちた。


 簡単に説明するとこうだ。小太りの男の右拳は拳を横に向けてのストレート。対して俺の拳は左の縦拳、理論上縦拳と横拳では縦拳の方が断然速い。そしてなによりも描く軌道上に問題がある。横拳の場合は肘が横に向くが縦拳は真っ直ぐの直線ライン、この場合は両拳が交差するとき横拳は縦拳の肘のラインに逸らされ横拳の軌道が逸れる。


 そう、これはジークンドーの初歩の初歩リードパンチだ。クソ親父に幼い頃より扱かれ続けた結果だ。


「んで、どうする?」


 俺は再び両手をポケットに突っ込み見下ろす。


「はぁはぁ……くそっ!」


 金髪はまだ腹を抑え呼吸を整える。


「くっ……顔は覚えたからな……」


 小太りの男は右の手の甲で切れた唇を拭うと、いかにも後で仕返しに行くと言うばかりの口ぶりだった。こういう輩は二度とたてつかないように牙を叩き折るのに限る。

 少しばかり痛い目にあってもらうか……。俺は意識を刈り取らないくらいの力で金髪男の顔を蹴り飛ばす。瞬時に脚を戻し、小太りの男に視線を向ける。腰を落とし下から突き上げるように掌打を繰り出す。


「志雄!」


 しかし美咲の張り上げた声で、俺の掌打は顎先ギリギリで停止する。


「ひぃぃ!!」


 小太りの男は情けない声を上げ尻餅を着く。


 俺は拳を降ろし美咲を見ると、美咲の目は『これ以上はやめなさい』と、言っている。


「……ちっ! 二度と顔見せんなよ」


 俺はシッシッと動物を追い払うように手を振る。すると男達は呆気なく逃げ出す。


 情けねぇな……。

 男達が逃げると美咲達が俺によってくる。

「志雄! あれはやりすぎだよ!」


「んなこと……」


「あるの! 大体なんで最初から喧嘩腰なの?」


 俺は右手で頭を掻きながら言う。


「あのなぁ……ああいう奴等は下手に出るとつけ上がるんだよ。どうせ突っかかってくるなら早いとこ済ませた方が断然いいだろ?」


「だからって喧嘩していい理由にならないでしょ! もう少し変わったやり方出来ないの?」


「……ったく、助けろって言ったのはお前だろ! だったら俺の助け方に文句を言うなよ」


「私は喧嘩しろとは言ってない! あれじゃあ一方的な暴力と変わらないじゃない! 志雄なら押さえ込むことだって出来たはずでしょ?」


 うう……。確かにあれくらいの雑魚なら間接とって少しばかり脅しておけば引き上げたかも知れない。しかし俺は面倒だったために力を行使した。


「……悪かった気をつける」


「約束だからね」


 美咲は小指を差し出す。


「……その指はなんだ?」


「ん? 指きりだけど?」


 美咲は首を傾げなに言ってるのっという顔をする。


「ガキじゃあるまいし、んな、恥ずかしいことなんか出来るか!」


「志雄! 約束するんでしょう!」


 美咲はまったく怖くない顔で俺を睨む。


「わーったよ。すればいいんだろ……」


 俺は小指を出し美咲と指きりをする。


「あのー?」


 俺達のやり取りを律儀に終わりまで見ていた綾瀬女学院の生徒が控えめに話しかけてくる。


「ああ! ごめんね。ほったらかしにしちゃって」


「あ、いえ、大丈夫です」


「怪我とかしてないか? 結構強引に引かれてたろ?」


 俺は女子高生に近づき右手をとる。


「……え? 痛っ!」


「あ、悪い……。やっぱり少し腫れてるか……早めに冷やしたほうがいい」


「あ、はい。そうですね。ありがとうございます」


 女子高生は頭を下げる。


「いや、大したことじゃねぇよ」


「まぁ、ちょっと強引な解決だったけどね」


「ったく……まだ言うのかよ……」


「うふふ。お二人は仲がよろしいんですね」


「ん? ああコイツとは幼馴染だからな」


「志雄、幼馴染のイコールが仲良しとは限らないよ。少しゲームのやり過ぎなんじゃない?」


「お前だけにはいわれたくねぇーー!」


「ねぇ、それよりも自己紹介しようよ」


 美咲は俺をスルーして女子高生に話かける。


「そうですね。これも何かの縁ですし、わたくし綾瀬女学院の二年、綾瀬彩乃です」


「私は綾瀬学園二年の水野美咲だよ」


 二人が自己紹介を終え俺の番になる。


「同じく二年の黒井志ぼぶっ!」


「えっ!」


 突然の後頭部への衝撃で俺は前のめりにバランスを崩してしまい綾瀬を押し倒してしまった。まだ、押し倒しただけなら事故ですんだだろうが、あろうことか、倒れた直後に俺と綾瀬の唇は見事に密着してしまった。綾瀬の唇は暖かくそして柔らかい……。至近距離の綾瀬からは女の子独特の甘い香りが……そして俺の左手は制服越しからもわかる柔らかな豊満なバストを掴む。しかも運悪く、俺の膝は丁度綾瀬の股の間に入ってしまっている。まずい……なんちゅうToloveる適ハプニングだ……!


 俺は慌てて綾瀬から離れるが、綾瀬は小刻みに震えていた。


「あ、綾瀬落ち着け! これは事故だ!」


「……事故」


「そうだ事故だ! そこにサッカーボールが転がってるだろ!」


 いきなりの衝撃の正体は子供の蹴ったサッカーボール……。よく二次元である王道のパターンで『現実にあるわけない!』と、言われようとこれが事実なんだからどうしようもない。


「そうですか……サッカーボールが……」


「そうそう! わかってくれるか?」


「はい、わかりますよ……なんていうわけないでしょうがっ!」


 綾瀬の雰囲気が変わり、綾瀬の左手が俺の右頬に炸裂し、スパ―ンっと、実に良い音を立てる。 


 そして綾瀬は顔を真っ赤にし口を拭いながら走り去ってしまう。


「痛っ……おい、綾瀬! ちょっと待ってくれ!」


「志雄……」


「美咲! 綾瀬を追うぞ! このまま誤解はまずい!」


「なにが……」


「美咲?」


「なにが誤解だーー! 志雄のバカーー!」


 美咲は右手で俺の左頬を叩く。そして再度気持ちの良い音が響き、美咲も走り去っていく。


「いってぇな……美咲までなんだよ……それになんで泣いてんだよ……わけわかんねぇよ……」


 俺が頬を擦っていると一人の子供が近づいてきて、サッカーボールを拾うとボールをぶつけた事を謝ってきた。しかし、すぐに母親の処へ戻っていく。その母親は戻ってきた子供に「ああいう二股男になっちゃダメよ」と言っていた。子供は子供で「はーい」と実に良い返事をする。


 せめて本人が聞えないように言っててくれ……それに二股でもないし事故だし……。






両頬に熱を帯びながらとぼとぼと帰路つく。


綾瀬に叩かれたことはまだ納得がいく。事故だとしてもキスしちまったんだから叩かれても俺は文句は言えない。

しかし美咲に関しては意味不明だ……どれだけ思考を巡らせても答えにたどりつく事が出来ない。


「はぁ~なんでかなぁ……ん?」


 ため息を吐き脚を止める。


 俺の前方を塞ぐように立ちはだかる二人の黒服とメイド、日も落ち始め徐々に暗くなって来ているというのに黒服はサングラスを着用していた。



 メイドを中心として左右に黒服、それはとても異様な光景だった。見るからに黒服は人を護るために訓練されたボディーガード。しかし本来ガードとは一般人につくことはない。まして使用人のメイド如きにガードなどつけるだろうか? それともあのメイドは実は依頼人でただのコスプレ好きか? まぁどちらにせよ答えは時期に出る。なんせ黒服からは俺に向ける敵意がひしひしと伝わってくるのだから。

 


 メイド一行は三メートル弱あけた場所で立ち止まる。近づくにつれ黒服からは明らかな敵意と殺意が滲みでていた。



「私はある人の使いでまいりました。貴方が黒井志雄様でよろしいでしょうか?」


「え、あ、はい……」


 メイドの物腰は柔らかく、ヒップを超える長く綺麗なブロンド。綺麗な顔立ちとシンプルなメイド服越しからもわかるくびれた腰、そして全体的のバランスを整えるベストなバストサイズ。それは大き過ぎず小さすぎず、まさに理想サイズ! 


もしも理想のお姉さんは誰だ!ランキングがあるなら間違いなく投票したくなることまちがいなし! 正直、俺のストライクゾーンだ!


「近くに車を止めてありますのでご一緒に来て頂いてもよろしいですか?」


「えっと……ある人って誰ですか? 俺にはメイドさんを雇ってそうな知り合いも友人もいないんですが……」


「名は申し上げることが出来ません。しかし来ていただければわかります」


 怪しすぎるだろ……メイドだけならともかく二人の黒服からは殺意すら感じるんだぞ……俺が気を緩めたら最後、襲ってきてもおかしくないぞ……。


「……もし断ったら?」


「そうですね。多少強引でも来て頂くしかありません。大人しく従って頂くのが懸命な判断だと思いますよ」


 メイドが指をパチンッと鳴らすとボディーガードの男達が前へ出る。


 やっぱりこうなるのか……。


「そりゃあ恐いな……だが断る!」


「なるほど……それでは仕方ありませんね。助さん格さん懲らしめてあげなさい」


 メイドは左の助さんと右の格さんを見て指示をだす。


「アンタどこの黄門様だ!」


 俺のツッコミなど相手にもされず、助さん格さんが俺に襲い掛かってくる。

 俺は助さんの右ストレートに左の拳を合わせる。お互いの拳がぶつかり合い助さんの拳から鈍い音がする。


「ぐっ!」


 格さんが直ぐにフォローに入り、左の上段回し蹴りが俺の頭部を狙う!


「遅い!」


 俺は相手の上段回し蹴りを右肘を立て相手の拗ねで受け止める。


「くっ!」


すかさず左の上段回し蹴りで助さんの頭部を打ち抜き、さらにその反動を利用し右の裏拳で格さんの顔を打ち抜く。


 ほんの数秒の出来事で俺は本職のボディーガードを沈める。


「……ったく、だらしねぇな……」


 俺は両手をポケットに突っ込む。


鉄菱てつびしにエルボーブロック……さらにそこからの連携技……とても学生の戦いかたとは思えませんね」


 へぇーメイドの癖に鉄菱なんて名前を良く知ってるな……。


 ちなみに鉄菱というのは中指の間接部分を突き出した拳で主急所を突く技だ。しかし、握力がないと逆に自分の拳を痛めることになる。


「こいつらは俺を学生だと思い舐めすぎたな……んで、どうするよメイドさん?」


 俺はメイドを眼光で威圧する。


「そこの二人はあとででも回収します。それよりも貴方には、少し躾が必要なようですね」


「躾ね……そうゆうのは、一部の業界の奴が喜びそうだな。だけど生憎と俺は誰かに躾られるのは嫌いでね」


「目上の者への口の聞き方やその態度、躾のなってない野良犬には調教が必要ですね」


 先ほどから表情を崩さず、辛辣な言葉を続ける。別に俺は敬語が使えないわけじゃない。ただ向かってくる相手には下に見られない為にどうしてもタメ口になってしまう。


「……ったく、人を野良犬扱いかよ……アンタが女じゃなきゃ、ぶん殴ってたぞ! 良かったな俺が男女平等パンチの人じゃなくて」


「言っている意味がわかりませんが、私は力ずくでも貴方を連行しますよ」


 力ずくで連行? 大丈夫かこのメイドは? ボディーガードが秒殺されてんのになに言ってんだか……。

 俺は道端で意識を失ってるボディーガードをみるが完全に伸びていて、とても直ぐには目が覚めるとは思えない……。


「新手でもいるのか?」


「貴方の頭はニワトリ以下ですか? 私自ら調教するといったはずですよ」


 ……このメイド俺と殺る気か? 確かに俺は殴るつもりはないが、大人しく殴られてやる義理もない。


「やめとけよ。俺は女とは喧嘩やらない主義なんだ」


「貴方はホモだということですか?」


「はぁ? どうしてそうなった!」


「いま自分の口でおっしゃいましたが……」


「ちげーよ! 喧嘩に決まってんだろ! 俺はノーマルだし女が好きだ! 大体なんでいきなり下ネタになんだよ!」


「そんな卑猥な目で見ないでください。妊娠してしまいます」


「するかっ!」


「そんな事はどうでもいいです。さっさと始めましょう」


「どうでもよく――がはッ!」


メイドに一瞬で距離を詰められ、俺の鳩尾に膝を突き立てる。その威力はとても女性とは思えない。余りにも強力な膝蹴りで俺は肺に溜まる酸素を強制的に吐き出さされた。


「今の一撃で倒れなかったことは評価しますが、次の行動に移る反応が遅すぎます。これはマイナス評価です」


 メイドは俺の手首を掴む。


「なっ! これは! ぐっ!」



 メイドの使っているのは合気道の小手返しだ、これじゃあ力ではどうにもならない。逆らうことも出来ずに俺は地面へと叩きつけられる。

 受身をとり完全に技が決まるのを何とか阻止し、俺の身体は横を向く。俯けにされたら、完全にお手上げだ。しかしそんな俺にメイドは俺の頬を脚で踏みつける。

 メイドの履いている靴はヒールタイプのためかなり痛い……。 メイドに顔を踏まれることは、とある業界ではご褒美に違いない……。



「どうですか、来ていただける気にはなりましたか?」


「くっ……ははは! いいね! いいね! 最高だ!」


 このメイドめちゃおもしれぇーー! こんなこと普通メイドがするかよ! なんなんだこのギャップは!


「……なにやら新しい扉を開いてしまったみたいですね……ホモのドMで肛門好きですか……救いようがない変態です……」


「そのネタやめろ! 俺はホモでもドMでもねぇよ! それになんだ肛門好きって!」


 俺はメイドの脚の下で暴れるが一行に抜け出せない……。


「先ほど肛門がどうのこうの言っておりましたが違いましたか?」


「全然ちげーよ! 肛門じゃなくて黄門さまだ! なんで今頃さっきのツッコミ拾ってくんだよ! つーか、いい加減に脚どけろよ!」


「騒がしい方ですね……それで来ていただける気になりましたか?」


「なに、なにもなかったみたいな清ました顔で言ってんだ! はぁはぁは……」


「踏まれるのが気持ちいからって、そんな興奮しないでください。気持ち悪いです」


「ちげぇーー! 突っ込むところが多すぎて息が切れてんだよ!」


「ホモの乱交パーティーですか?」


「ボケとツッコミのエンドレスに決まってんだろ! 同じようなネタがループしてんだよ!」


「それでそろそろ来ていただけますか?」


 ダメだこのメイドだと調子が狂う……。俺はメイドの脚を掴みどけようと試してみるがピクリとも動かない……。


「しかたねぇな……」



 俺はメイドのロングスカートに手を掛けめくり上げる。


「なっ!」


 俺の人生初のスカートめくりはメイドさんです。辺りが暗くなってきいるのが原因で視にくくはなっているが、そりゃあバッチリと脳内HDに保存できるくらいはガン見してしまった。だってメイドさんは紫色の下着でガーターベルトを穿いていたんだもん。これまた人生初の着用状態ガーターベルト!


 しかもメイド! つーかガーターベルト萌えじゃねぇけど、いいなこれ!


「うぁエロ……」


 メイドは脚をどけ俺の顔を蹴り上げる。


「ぐおおおおおっいてぇーー!」


 俺は転がりメイドとの距離を取り、顔をさする。すると鼻からは血が垂れていた。


「鼻血までだして最低なエロ犬ですね……下着を見て興奮しましたか……」


 メイドは冷たい目を向ける。


「これは興奮したんじゃなくてアンタに蹴られたからだよ!」


「しかしこれは立派な犯罪です。警察に行きましょう」


「いきなりマジメかっ!」


 メイドは少しずつ距離をつめてくる。


 くそっ……仕方ないか……。


 俺はマジシャンが手から花を出すように何もない空間から右手の指の間に玉を三つ取り出す。


「……マジックですか?」


「そいじゃ、さいなら」


 俺は三つの玉を地面に叩きつける。すると玉が破裂し一瞬で辺りを覆う煙が巻き上がり視界を奪う。そう、要するに煙玉だ! ピンチの時の脱出よう。まさかメイドに使うとは思わなかったが……。俺は近くの塀を乗り越え気配を殺し身を隠す。


「しまっ! けほぉけほぉ……やられましたね。まさか煙玉なんて物を持ってるとは……」


 煙が晴れると、メイドは二人のガードに近づき一喝する。


「いい加減起きなさい! 引き上げますよ」


 二人のボディーガードは起き上がりメイドに頭を下げる。


「「油断しました。申し訳ありません」」


「油断したのは私も同じです。そのことは構いません。しかし学生相手に秒殺はいけませんね……トレーニングメニューを変更しますので覚悟してくださいね」


「「は、はい」」


 メイド一行はゆっくりと引き上げて行った。


 行ったか……? なんつーか、とんでもないメイドだったな……。

 さて、俺も帰るか……腹減ったし、そろそろ美咲も機嫌直してるだろ……。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 マジか……あまかった……。


 俺が家に帰り食卓を見ると一切の飯が作ってなかった……。


 俺は自室に行き窓をあけ美咲の部屋の窓をノックする。


「おーい、美咲腹減ったぞ……。まだ機嫌悪いのか?」


 ガラガラっ美咲の部屋の窓が開き、美咲が顔をだす。


「志雄、お腹空いたんだ……」


「お、おう。だからなんか作ってくれ」


「私ね……いま機嫌悪いんだけどわかってる?」


「……えーっと……なんで?」


「し、志雄のバカぁぁぁぁーー! これでも食べてろ!」


 美咲はカップめんを俺に投げつけピシャリと窓をしめガチャリとロック掛ける……。


「おい、美咲! なんでそんなに怒ってんだよ! 意味わかんねぇって!」


 美咲は俺の呼び声を無視しつづけ、とうとう電気まで消しやがった。


 もう勝手にしろよ……。とりあえずカップめんあるし今日はこれ食って寝るか……。


 明日になれば流石に機嫌直すだろうしな――。



ボケとツッコミのオンパレード!


次回 転校生が……

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