イベント率100%6
くそっ! このままじゃ遅刻だ! 俺は静奈先生を呼び止める!
「静奈先生ストーーップ!」
俺の大声にビクっとし、静奈先生は俺達の方に振り向く。
美咲は静奈先生に挨拶をしてから横を通り、教室に入っていく。俺も挨拶をして教室に入ろうとしたが襟首を掴まれた。
「黒井くん。いまのは少しずるくない?」
「そ、そこをなんとか! ち、遅刻だけは、遅刻だけはご勘弁を……」
俺は静奈先生に手を合わせ拝む。
「ふふ。冗談よ」
「えっ? マジですか!」
「マジです。でも今回だけですよ」
「ありがとうございます」
「あっ! ちょっと待ちなさい!」
お礼をいい教室に入ろうとした瞬間またもや襟首を掴まれる。
「ぐげっ! まだなにか?」
「ネクタイ曲がってる……」
静奈先生の細い指先が俺の首もとに伸びる。距離は自然と近づき、先生からは男のリビドーを掻きたてる甘い匂いが鼻腔をくすぐる。あと一歩、いや、半歩で静奈先生との距離はゼロ距離となり、静奈先生の豊かで柔らかそうな胸が俺に押し付けられる……って、俺はなに考えてんだ! 相手は先生だぞ!
「はい、これでよしっ! 早く席についてね」
「あ、すみません。ありがとうございます」
俺は静奈先生にネクタイを締め直してもらってから席に着く。
俺が席に着くと静奈先生は出席を取り、簡単なHRを始める。だが、俺はHRを聞いてる余裕がない……なぜなら席に着いた途端疲れがどっと出てきた。
「それじゃ、皆またあとでね」
静奈先生はHRを終えると教室を出て行った。
静奈先生が出て行くのを確認し、俺は机に突っ伏す。そして目を閉じ聴覚に意識を集中すると、水瀬と美咲の話し声が聞えるが、今はどうでも良い。
はぁー帰りてぇーー。ベッドが恋しい……。
「よぉ、奇跡的に間に合ったみたいだな」
突っ伏す俺に春斗が話しかけてくる。俺は重い瞼を開け春斗を見ると、長い白銀の髪を束ね肩から垂らしていた。
「ああ、なんとかな……電話サンキューな、助かった」
「そりゃあな、美咲ちゃんが三十分前に居ないなら心配になるさ」
「ははは、美咲さまさまだな」
美咲のお陰で俺は一度も遅刻をしたことが無い。それは常日頃から美咲が気を配り、俺に合った時間の段取りをしてくれているからだ。本当に美咲には世話になりっぱなしだ。
「なぁ志雄、一つ聞いても良いか?」
「ん? なんだよあらたまって?」
「お前達一緒に寝てたろ?」
「は? な、なにいっててんだだ」
な、なんでコイツ朝の出来事知ってんだよ! 動揺すんなよ俺! 別にやましいことはしてねぇんだからな! 胸は揉んじまったが、アレは事故だ!
「いや、そんな動揺すんなって、電話越しからの声のタイミングでなんとなくな。それと、お前からする美咲ちゃんの匂いがする。いつも以上にな」
「匂いって、お前は犬か! 第一そんな事実はねぇよ」
「そうか? たださっきはいつも以上に仲がよかったみたいだし、何かあったのかと思ってな」
コイツは……鼻だけじゃなく勘もいいのか……しかし、俺から美咲の匂いがするって……もしかして昨日のシャンプーか? いや、そんなことよりも……。
「さっきって何のことだ? 俺達は遅刻しない為に走ってきただけだぞ」
「お姫様抱っこでか?」
「おい!」
俺は慌てて春斗の口を塞ぐ。
「なんでお前が知ってんだよ」
俺は春斗の頭部を下げて小声で話す。
「オレの眼を侮るなよ。屋上からなら大抵は見渡せる」
「……あっ! 完全に忘れてた……」
春斗の左目は病気で見ることが出来ないが、その分右の視力は8.0……つまりは十キロ近い距離を見通す眼を持っている。……ったくお前はどこのマサイ族だよ……。
「そにしても珍しいわね美咲が寝坊だなんて」
「うん……昨日は志雄と色々プレイしてて寝不足なんだ……まだちょっと身体が……」
ん? 春斗との会話中、俺は美咲の危ない発言を耳にキャッチしたが、俺よりも早くクラスの連中が美咲の発言に食いついた。
「えっ! うそっ!」「ついにしちゃった!」「「美咲ちゃんどうだったの?」「色んなプレイってどんなの?」などと、朝から女子共がキャーキャーと美咲に群がる。
そして水瀬は早々とその中から脱出して行った。
「まてぇ美咲! その言い方はダメだ! 誤解される!」
俺は直ぐに美咲の処へ向かおうとしたが、男子生徒が俺に群がり行く手を阻む。
「黒井てめぇーー!」「俺達の美咲ちゃんをよくもぉーー!」「てめぇーだけ大人になりやがってぇーー!」「黒井キスさせろーー美咲ちゃんと間接キスだあぁぁーー!」
「おい! てめぇら意味わかんねぇよ! 離れろよ! 誤解だって言ってんだろ! くそっ!よんじゃねぇ! 気持ち悪いんだよ!」
俺は群がる男子生徒にもみくちゃにされる。春斗は俺の元から瞬時に離脱し美咲のもとへ駆け寄った。
美咲は女子達の質問に何事か戸惑っていたが、少しして自分の失言に気がついた。
「ち、ちが、そうじゃなくて!」
「昨日は遅くまでゲームしてたみたいだね。美咲ちゃん」
意外にも助けを出したのは水瀬ではなく春斗だった。
「う、うん! そうそうゲームのことだよ! 志雄とはなにもないから!」
そういうと女子達の熱は覚め、俺に冷たい視線を向け席に帰って行った。
気のせいだろうか? なぜかその視線は『ヘタレ』っと言っているように聞える……。
男子生徒を全て薙ぎ倒したが、なぜか悲しい気持ちになる……って、あれ? そういえば授業は? 黒板を見ると自習の文字がデカデカと書かれていた。
「なんで自習? あれ一時限目って英語じゃなかったけ?」
「呆れた……御前先生の話きいてなかったの?」
美咲のもとを脱出していた水瀬はいつの間にか俺の席に座り頬杖をついていた。
「お前なんでここにいんだよ……」
「あっちにいると私にまで火の粉が飛ぶじゃない。こっちなら黒井くんが露払いしてくれるでしょう? 私ああゆう話は苦手なのよね……」
「……苦手なのは美咲も同じだと思うぞ」
「ああ、それなら大丈夫よ。どうせ千里くんが助け舟だすんだしね。適材適所よ」
確かに言われてみれば大抵は春斗がフォローしてる気がする……。
「まぁいいや……。それで、なんで自習なんだ?」
「緊急会議らしいわよ。それで教師達が今は会議室」
緊急会議ねぇ……それであれだけ騒いでたのに隣からも教師が来ないわけか……。
「んで、一時限目を全クラス自習にするだけの会議の内容ってなんだよ?」
「そんなの私が知るわけないじゃない」
「いや、お前ならわかるだろ」
「その根拠はどこからくるわけ?」
「よくあるじゃないか、ギャルゲーの主人公の悪友は女の子の情報や好感度を知ってたり、どこから仕入れたのか謎な情報をもってたりとか」
「黒井くん。私は女であって男じゃないんだけど……そういうのは大抵は男じゃないかしら?」
「いや、この場合立ち位置適に水瀬が悪友で美咲が主人公かと」
「はぁ……黒井くん、美咲に毒されてるわね。ご愁傷様……」
水瀬は哀れみの目で俺を見る。
「そんな目で俺を見るな! 冗談に決まってるだろ!」
「あーはいはい。それで会議の内容だったわね」
水瀬はスカートのポケットから手帳を取り出しページをめくる。
「まてまて! 会議の内容知らねぇんだろ?」
「えっ? 知ってるわよ」
「今までのくだりはなんだったんだよ!」
「そうね……あっ! 尺稼ぎとでも思っといて」
「なんの尺だぁーーー!」
「うるさい! 聞きたくないの?」
「いえ、聞きたいです」
俺は大人しく水瀬の話を聞くことにした。
「なんでも、転校生がくるみたいよ」
「転校生? 新学期始まって一ヶ月たってんだぞ! なんでいまなんだよ?」
「さぁね。ただ、その転校してくる人がただの生徒じゃないからこその緊急会議なんじゃないのかしら?」
「確かに……。それでその生徒の素性は?」
「そこまでは知らないわ。ただ、これは私の勘だけどね……政界の大物つながり」
「総理大臣とかか?」
「そうね。良いとこ突いてるじゃない」
「でも、総理って俺達くらいの子供いたか??」
「いるわけないでしょ! 私達ぐらいの子供がいたらそれこそ問題よ!」
「そりゃそうか……いま二十八歳だっけ?」
「今年で二十九歳ね。最年少の総理大臣で初の女性総理」
「それに綾瀬グループの令嬢ときたもんだ。完全に綾瀬の天下だな」
「まぁ間違いではないわね。でも綾瀬グループや綾瀬総理お陰で日本の莫大な借金はゼロになった。そのお陰で日本経済の潤いだけではなく、世界的にも貧しい人が助けられてるのは間違いなく綾瀬に力があるからよ」
「そうだな。それで、そろそろ聞かせろよ。水瀬は誰だと思うんだ?」
「綾瀬総理の妹よ」
「妹なんていたか?」
「まぁ、テレビとかには出ないみたいだから、知らないのは無理ないわね」
「それで、なんで妹なんて思ったんだ?」
「これ以上は言えないわ」
「なんでだよ!」
「確証もないことをベラベラと喋って、それが間違いだったらそれこそ転校生にも悪いじゃない。それに転校生如きで緊急会議を開くって事はそれなりに力がある重要人物な訳でしょ? だったら、下手に探りを入れない方が吉だと私は思うのだけど?」
「……つまり要約すると、変な噂が立ち転校生が馴染めなかった場合は学園側に圧力がかかる可能性があるって言いたいのか?」
「まぁそういうことよ。それじゃあこれでこの話は終りね。美咲も復活したみたいだし私は大人しく自習してるわ」
水瀬は手を振り、自分の席に戻る。
俺も席に着き大人しく自習を始める。
しかし、転校生か……いつくるんだろうな?
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