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連続投稿

 ◆



午後の授業が終わり放課後――。


 志雄は鞄を持ち美咲に近づく。


「美咲かえろうぜぇ~~」


「どうしたの? なんかご機嫌だね?」


 鼻歌交じりの志雄を見て美咲は首を傾げる。


「今日はハンバーグだからな~~」


「あはは。志雄子供みたいだよ」


「なんとでも言ってくれ。それより早く買い物いこうぜ」


「はいはい。もうちょっと待ってね」


 美咲は鞄に筆記用具をしまう。

 美咲がすべて仕舞い終えると、志雄は再び美咲をせかす。


「よし! 美咲いくぞぉ!」


「はいはい。優ちゃん、ハルくん、また明日ねー」


 美咲は千里と水瀬に手を振り別れを告げる。


「ええ、また明日」


「二人とも気をつけてな」


「おお、サンキュー! ほら、いくぞ美咲」


「え? ち、ちょっと! 志雄引っ張らないでよっ!」


 志雄は美咲の手を引き、教室を飛び出て行った。


「志雄の奴なんであんなに機嫌がいいんだ?」


 千里春斗は水瀬優香に聞く。


「今日は美咲が晩御飯にハンバーグ作るみたいよ」


「ああ、それでか……」


「ハンバーグであれだけはしゃげる高校生も珍しいわね」


「そうだな。でもよ、あいつら見てると……」


「付き合ってない……なんて、信じれないわよね」


 水瀬は千里の言葉を代弁した。


 千里と水瀬は窓際によると、美咲と志雄がちょうど校門を抜けるところだった。しかしその距離は遠く、水瀬の肉眼では確認できない。


「あいつ、まわりをまったく気にしてないな……」


 志雄は校門を抜けても美咲の手を確りと握ったままだった。


「この距離でよく見えるわね?」


「ああ、片目だが視力はいいからな」


「そう……。それにしても、黒井君の鈍感は何とかならないかしら?」


「相手が志雄じゃな……美咲ちゃんも報われないな」


「美咲が気があるのはまる分かりじゃない! それなのにあの男は……」


「まぁ、あの鈍感は罪だよな……」


「度の過ぎる鈍感は死刑にすべきね」


「いや、それは流石にやりすぎだ」


「それじゃあ、終身刑?」


「いや、日本に終身刑はない」


「なら、無期懲役でいいわよ」


「なぁ、鈍感ってだけで重すぎやしないか?」


「鈍感はそれだけの罪ってことよ。出られる可能性があるだけマシよ」


 水瀬と千里が放課後の教室で志雄の鈍感について口論を続ける。


 そんな中、志雄達はもう間もなくスーパーに到着するのだった。







-------------------------------------------------------------------




「くしょん! は、は、はっくしょん!」


「昨日からくしゃみしてるけど大丈夫?」


「大丈夫だって、多分花粉の影響だろ」


「そう? 薬なら今持ってるけどいる?」


「いや、いい。それよりもスーパー見えてきたぜ! さっそく買い物だ!」


「はいはい。わかったから、スーパーの中では静かにしてよね」


 俺と美咲はスーパーの中に脚を進める。俺は買いかごを手に持ち美咲の後ろをついてまわる。

 美咲は野菜コーナーから徐々に周り、俺の持つカゴへ食材を入れていった。


「ジャガイモと人参あとはキャベツあったから……卵を買って……」


 美咲は家の冷蔵庫の中を思い出しつつ食材を揃えていく。


「なぁ美咲。肉は?」


「もう、慌てなくてもちゃんと買うから。それにお弁当のおかずも考えないとね」


「なんだ明日も作ってくれるのか?」


「もちろん。毎日作るよ」


「なんか悪いな」


「なんで? 私が好きで作るんだし気にしないでいいよ。志雄母(お母さん)に志雄のこと頼まれてるしね。それに毎日購買だと生活費がかさんじゃうし」


「そうか? ありがとな」


「うん」


 徐々に脚を進め俺達はスーパーの奥にある肉屋に到着した。

 この、スーパーにはちゃんとした肉屋が入ってるため、肉は新鮮で何よりも安い。母さんに連れられ昔からよく買い物に来ていたため肉屋のおっちゃんとは仲が良い。

 美咲は肉屋に到着すると、おっちゃんに声を掛けた。


「ひき肉500グラムもらえますか?」


「おう! 美咲ちゃんか! いつもありがとな」


「ここのお肉おいしいですから」


「うれしいねぇー! よしっ! これサービスだ持っててくれ!」


 豚ロース300グラムもおまけしてくれた。


「こんなにいいんですか?」


「ああ。ただ早めに食べてくれよ。賞味期限が近いからな」


「はい。いつもすみません。お弁当にでもしますね」


 俺が二人のやり取りをボケーッと見ているとおっちゃんが不意に話を振ってきた。


「おう小僧、もう美咲ちゃんには告ったか?」


「――っ! なに馬鹿なこと言ってんだよ!」


「なんだまだなのか?」


「まだもなにも、告白する予定なんてねぇよ」


「お前は本当にヘタレだな……美咲ちゃんが可愛そうだろ!」


「は? 美咲が?」


 俺は美咲を見る。


「わ、私は別に志雄のことなんかなんとも思ってないですって!」


 美咲は頬を染めているが、身体全体で全否定する。


 だから、そんな力いっぱい否定されると流石に傷つくぞ美咲……。


「……だってよ」


 俺はおっちゃんに向き直った。


「お前は乙女心ってもんをまったくわかっちゃいねぇな」


「おっちゃんならわかんのかよ?」


「もう、いいって! ほら早くしないとハンバーグできなくなるよ」


「そりゃいかん! 帰るぞ美咲!」


「うん。おじさん、お肉ありがとう」


「お、おう。あんがとよー」


 美咲はおっちゃんに手を振り、早々と肉屋を離れる。


「なぁ、美咲?」


「な、なに?」


 まだ、ほのかに染まった頬で美咲は振り返る。


「お前さぁ、自分で色々なシチュエーションするくせに、からかわれると直ぐ赤くなるよな」


「……なんでそういうのは気づくの?」


「ん? そういうのって? 他になんかあんのか?」


「はぁ~もういいです。あきらめてるから……」


「ん?」


 美咲は残りの買い物を済ませレジに向かう。

 会計は美咲が母さんから預かったクレジットカードで支払う。母さんが親父の所に出かける際はよく美咲にカードを預けていく。



 なんでも俺に預けると生活費がかさむと同時にバランスの悪い食生活になるとかで今まで預けてもらったことがない。普通は幼馴染に預けるなんて変だろうと思うのが一般常識。しかし、美咲の場合は母さんにとって娘同然なだけに疑う必要がない。



 支払いを終え、美咲が鞄からマイバックを取り出し、慣れた手つきで食材をしまっていく。

 ボケーっと美咲の作業を見ていると俺のポケットで携帯が鳴った。携帯を取り出し、名前を確認すると相手はバイト先の店長である刹那さんからだった。


着信を止め携帯に出た。


「お疲れ様です。どうしました?」


『急で悪いんだが、今からバイト出れないか?』


「えっと今からですか……ちょっと待ってくださいね」


 俺は美咲をみる。


「どうしたの?」


「刹那さんが今からバイト入ってくれってさ」


「行ってきなよ。ご飯作っておくから」


「でも、荷物が……」


「平気だよ。それにここからの方が近いし、一度帰ってからだと時間かかるしね」


「……もしもし、おまたせしました」


『それで、入れそうか?』


「はい、大丈夫です。ただ、四十分くらい待ってもらってもいいですか?」


『ああ、無理言ってるのはこっちだし、それくらいなんとかする。悪いな』


「それじゃ出来るだけ早く行きますんで」


 俺は電話を切り、美咲の持つマイバックを掴む。


「いいの?」


「ああ。さっさと、帰ろうぜ」


「うん。ありがとう」


 美咲は笑顔で応えた。


---------------------------------------------------------------------------- 




             

 家に到着すると、美咲は鞄から合鍵を取り出し玄関のドアをあける。



 美咲の持つ合鍵は母さんが直接渡したものだ。ちなみに俺も水野家の合鍵を美咲のお母さんから貰ったが使ったことがない。っていうか、俺達の親はなに考えてんだ?

 美咲は先に玄関をあがりキッチンに向かう

「おーい。美咲! 俺はこのまま行くから荷物は玄関に置いとくぞ!」


 俺は玄関に荷物を下ろす。


「ち、ちょっとまってて!」


「ん?」


 すると美咲はお茶を注いだコップもって現れる。


「はい」


「おお、サンキュー。バイト先で買うつもりだったから助かった。いちいち靴脱いで上がるのもめんどうだったしな」


 俺は美咲からコップを受け取り、一気にお茶を飲み干す。


「バイトがんばってね」


「おう! んじゃ、行ってくる!」


「あっ! 志雄待って!」


 美咲に背を向けると、再び呼び止められる。


「ん? 今度はなんだよ?」


 振り向くと、美咲は両手を俺の首もとに伸ばしネクタイに手を掛ける。


「ネクタイ歪んでるよ。身だしなみはちゃんとしないとダメだよ。……はい! 出来たよ」


 美咲は俺のネクタイをキュッと締める。


「おお、いつも悪いな。そんじゃ、行ってくる」


「うん。いってらっしゃい。気をつけてね」


 俺は玄関を出て、自転車に乗り、バイト先に向かった。


 バイト先に到着すると店内は女性客で賑わっていた。女性誌を立ち読みしている女性達、他にも漫画や雑誌を数冊持ちレジに並ぶ女性達で店内はごった返しだ。

 いつも思うがここって本屋だよな? 女性密度がハンパないし……。

 これじゃあ、流行のオシャレなカフェと殆どかわらねぇぞ……。


「志雄っ! 早くフォロー入ってくれっ!」


 刹那さんは俺に気づき声をあげる。


「はい! すぐ出ます」


 俺は早々とスタッフルームに入り、上着を自分のロッカーに入れ、紺色のエプロンを身につける。鏡の前で、身だしなみのチェクをし俺は再び店内に戻る。


店内に出た俺はレジ打ちや品だしをしつつ、乱雑に戻された雑誌を整理していく。


               




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 そんな作業を繰り返し、お客さんも引き始めたころ、俺のバイト時間は終了した。



 スタッフルームの椅子に腰掛け、少しだけ休んでると刹那さんが二本の缶ジュースを片手に俺に声をかけてくる。



「ほれ、おつかれさん」


 刹那さんは俺にジュースを投げ渡す。


「どうもです」


 俺はジュースを左で受け止め、右手でプルタブを開け、喉を潤す。


「今日は助かった。ありがとな」


「まぁ、俺は部活やってないで時間はありますから」



 俺はジュースを飲み干し、スタッフルームのカン専用のゴミ箱に近づき空き缶を捨てる。

 そのままロッカーに近づきエプロンを掛け、制服の上着を羽織る。



「なんだもう帰るのか?」


「家で美咲が飯作って待ってるんですよ」


「お袋さんは、また海外か?」


「ええ、また親父が呼びつけたみたいで……。まぁ、それで暫く美咲が飯を作ってくれる事になりなして、早く帰らないと美咲に悪いですから」


「そうか、まぁ、二人とも親が留守だからって、あまり羽目を外すなよ」


 刹那さんはニヤついた顔で言う。


「……っ! 俺達は兄妹みたいなもんですし、そんな事にはなりませんて!」


「ん? 俺の言ってるのは怠けるなって事だぞ」


「えっ! だって、いま明らかにそっち方面の顔だったじゃないですか!」


「そっちね……うーん、あっ! お前まさか! エッ――」


「あぁぁーー! 時間がっ! っと言うことで俺帰ります! お疲れ様ですっ!」



 俺は刹那さんの言葉を遮り脱兎の如く逃げ出した。

 急いで駐輪所まで迎い、自転車に飛び乗り、全力でペダルを踏み込む。

 スピードの乗った自転車は風を切り少し火照った俺の顔を気持ちよく冷やしてくれる。



 まったくあの人は……明らかにそういう顔してたのに……。

 刹那さんの言葉で一瞬そういう妄想をしてしまったのは事実だが、そういう妄想トリガーを引くきっかけの原因は刹那さんだ!

 ったく、このあと俺は美咲になんて顔で会えば良いんだよ……。





まだいける!!


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