イベント率100%2
ラブコメイベントじゃんじゃん行きましょう!!
靴を履き替え、二年の教室に向かう。
俺達の通うこの学園は成績の良し悪しでAからDといった感じで四つのクラスに分けられている。もちろん本人の希望で三ヶ月に一度のクラス試験で成績を残せばクラス替えもありえる。ただ、本人が希望しなければクラス替えはない。しかし、その逆もある。成績を落とせばクラス替えはをしなければならない。一応、補習で成績が戻れば免除っと、いった感じだ。
Bクラスの教室を開け俺達は中に入る。
「おはよーみんな」
美咲の挨拶でクラスの連中が挨拶をする。美咲はこの学園で結構いろんな奴に慕われていて有名だったりもする。恋愛相談で、恋のキューピット役なんかもやってるらしいが、どうせ美咲のことだからギャルゲーの攻略方法でも使ってるのだろう。
そしてもう一つ!
美咲が有名な理由と俺が関係するどこのギャルゲーだと突っ込みたくなる事情。
他のクラスの奴は何故か俺と美咲は付き合ってると勘違いしていると言う事だ。リアルの幼馴染と付き合う奴なんてほんとに一握りだろうに。俺と美咲の場合生まれたときからずっと一緒なわけで、恋愛に発展するわけが無い。家族同然なのだから。
俺は適当に挨拶を交わし窓際の自分の席に向かう。
俺が席に着き、突っ伏すと男が話しかけてきた。
「だらけてると、美咲ちゃんが怒るぞ」
「んなもん、怒らせとけばいいんだよ」
俺は顔を上げず応えた。
「なんだ、寝不足か?」
「ああ、休みに一日ゲームしててそれでな……」
「お前達はゲーム好きだな」
俺は身体を起こし男の顔を見る。
俺の親友でもあり悪友でもある千里春斗は長い白銀の髪を後ろで結び、すらっとした体つき。華奢というわけではなく、無駄な脂肪が一切付いていない。整った顔立ちをしているが、瞳の色は青色で左目には十字の金の刺繍の入った眼帯をつけている。なんでも生まれつきの病気らしい。初めて出会ったとき中二病かこいつ? っと思ったのは秘密だ。
「俺はそこまでじゃねぇよ」
「まぁ、志雄の場合はそうだろうな」
「ん? どういうことだよ?」
「お前自身がギャルゲーの主人公ぽいってことさ」
「どこがだよ! 俺はモテた記憶がないぞ」
「お前の体質のことだよ」
「は? 体質?」
「わかんねぇーって顔だな」
「無理よ。黒井君にはどれだけ言っても分からないから」
「なんだよ。水瀬なら分かるのか?」
美咲の親友でなにかとお節介な水瀬優華。美咲とは雲泥の差があるプロポーションで制服の上からでもその胸はD以上の大きさだろうとわかる。髪型はセミロングで赤色のメガネをかけている。
「自覚ないの志雄だけだから」
水瀬に続き美咲が現れる。
「みんなして訳の分からんこと言いやがって……」
「はぁ~ダメだこいつ早くなんとかしないと……」
美咲は額に手をやる。
「あのな美咲、お前はなにが言いたいんだ?」
美咲ではなく水瀬が応える。
「私が嫌いなのは鈍感なだけの主人公よ」
「はい? なんの話だよ?」
首を傾げ水瀬に聞くと、今度は春斗が応えた」
「諦めた方がいい。それが仕様だ」
三人は、うんうんと二度頷き、俺を見てため息を吐く。
「訳がわからん……」
「はーい。そこ、お喋りは終わりよ。席についてね」
俺達がだべっていると、いつの間にか担任の先生が教壇に立っていた。
御前静奈先生は今年から入った新任の教師にもかかわらず、いきなりBクラス任されることになった俺達の担任だ。新任がいきなり担当クラスを持つのはかなり珍しい。まぁ、それだけ静奈先生の教育スキルが高いのだろう。
年齢も若く、みんなに愛称で静ちゃんと呼ばれることが多い。身長は高く、ナチュラルオレンジに染めた長く綺麗なマーメイドウェーブの髪に、スーツのスカートから見える綺麗な脚線美。「私モデルです」と言われても疑いようのない見事なスタイルをしている。そして、一番の萌え要素が、キレイ系というよりもカワイイ系であるということだ。
出席を取り、簡単なHRの後はいつもと変わらない授業が始まる。
静奈先生の担当教科は数学……。数学は眠気を誘う呪文だ……。
昼休み。退屈な授業が終わりクラスに喧騒が響き渡る。
「ふぁぁ~~。やっと飯か……」
俺は、両腕を上げ、大きく欠伸する。
「よく言うよな……静奈先生の授業からずっと寝てたろ」
春斗が弁当を置き、俺の前へ腰掛ける。
「俺が数学苦手なの知ってるだろ? どうしても眠くなるんだよな……」
「だからって、寝てばかりいるとクラス落ちしかねないぞ」
春斗は呆れ顔をしつつ弁当の蓋を開ける。
「ああ、気をつけるさ」
俺も鞄から弁当を取り出し蓋を開ける。
中身は、タコウインナーに卵焼きにアスパラのベーコン巻き。プチトマト二個とレタス。それとご飯にはゆかりの振り掛けが振ってあった。
「なんだ、今日の弁当は美咲ちゃんか?」
「ああ、よくわかったな」
「いつもは、ゆかりなんて振ってないだろ。美咲ちゃんの弁当はよく振ってあるからな」
「言われてみればそうかもな」
「ハルくんは良く見てるね。それに比べて志雄は……」
美咲と水瀬が弁当を持ち近づいてきた。
「黒井君に何かを理解しろって言うのがそもそも無謀だと言う事を私はこの一年で学んだわ」
「おいおい、今日はやたらとつっかかるな……」
机をくっつけ二人は向かい同士に腰掛け弁当を開く。俺達四人は高校に入ってから知り合い、いつもこうして弁当を囲む。二年に上がっても同じクラスで入られるのは、この学園のクラス制度のおかげでもある。三人とも本来Aクラスに上がるくらいの余裕な成績にも関わらず、あえてBクラスに居るのは俺に合わせていてくれるからだ。
まぁ、そんなことを本人達は言わない。だからこそAクラスまではいけなくても、せめてBクラスに留まる努力はしている。
「別にそんなことないわよ。ただ、美咲への感謝の気持ちが足りないんじゃない? 黒井君のお母さん海外に行ったって美咲に聞いたけど、家事全般美咲に任せるんでしょ?」
「人聞きわるいな……俺だってやれる事くらいやるって」
「例えば?」
「……部屋の掃除とか風呂とトイレの掃除とか、あとは……洗濯とかかな」
「それってあたり前じゃない? それを美咲にさせたら、とんだダメ亭主よ」
「ダメ亭主って……水瀬まで俺達を夫婦扱いすんなよ」
「そ、そうだよっ! 私達そんなんじゃないからっ!」
美咲は全力で否定する。
そこまで全力で否定されると一応傷つくぞ美咲……。
「私は知ってるけど、傍から見ればアンタ達は付き合ってるようにしかみえないけど?」
「確かに、幼馴染だけの関係には見えないよな」
続いて春斗とまでもが俺達を茶化した。
「もうっ! ハルくんまでっ!」
美咲は頬を膨らます。
「おい、あまり美咲をからかうなよ。こいつ拗ねるぞ」
「その原因は主に黒井君にあるだけどね」
「……っ! 優ちゃん!」
美咲はなにやら慌てて水瀬を規制する。
「なんで俺が原因なんだよ? 俺は何もしてないよな?」
一瞬三人に冷たい視線を向けられた。
「志雄は気にしないでいいよ……無駄だろうし……」
「は? なにがだよ?」
「呆れるくらい鈍感ね」
「もうぉっ! 優ちゃんてばっ!」
「わかったわよ……」
二人のよく分からない会話に俺の脳内はクエッションで埋め尽くされる。
「なぁ、春斗は意味わかるか?」
俺は仕方なく春斗に聞いてみた。
「その答えは自分で見つけるものさ。っていうより分からないお前が異常だ」
「はい?」
結局わからず仕舞いで俺の貴重な昼休みは過ぎ、退屈な午後の授業が始まるのだった。
俺もこんなラブコメの世界に行きたい。