物語は突然に
始めまして、夢希 望です。
僕はパロディが大好きです!! ネタばんざい!! やりたいことだけを詰め込んでます。かなりの自己満足作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。
卒業の日、校庭のはずれにある大きな樹の下で告白すると、恋が実ると言う伝説がある。
単なる噂なのかも知れないが、俺はこの伝説を信じている。
そう、今日は卒業式。俺は三年間しっかりと、彼女の好感度は上げたつもりだ。
別に今まで告白する勇気がなかったわけじゃない。
今日という日の為に、念密なプランを経て、何度も妄想の中で告白を繰り返し続けてきた。
あとは、リアルで彼女に自分の気持ちを伝えるだけだ。
そう、伝えるだけ……。でも、これが難しい。
しかし今を逃せばチャンスはない。
胸の高鳴りが、ギアチェンジをしてスピードを上げ、心拍数を急上昇させる。
呼吸は荒くなり、緊張しているのが手に取るように分かる。
「すぅーはぁー」
俺は深呼吸をして、心を落ち着かせた。よし、これで大丈夫だ。俺はちゃんと彼女に伝えることが出来る。この大きな伝説の樹の下で気持ちを伝える。
彼女のことは手紙で呼び出してあるし、あとは待つだけ、来てくれないと話にもならない。
まだか、まだかと、時間を気にするが、意識すると時間の流れは特に遅く感じる。
しかし彼女が姿を現すと、気持ちの暗雲は一挙に晴れていく。
待ちに待ったこの瞬間。気持ちを伝える機会が訪れた。
「ごめんね。待った?」
「いや、大丈夫。それよりも来てくれてありがとう」
「う、うん……。それで、話って?」
彼女の頬が紅潮しているのが分かる。彼女は多分待っている。
俺が告白するのを待ち望んでいるはず。正直に暴露してしまえば、この伝説は、はっきり言ってデキレースだ。ここに来てくれただけで、返事をもらったと同じ事。
だって、そうだろ? 『伝説の樹の下で告白すると恋が実る』なんて、言われる伝説の樹の下に来るって事は、告白されるのが分かっているって事だし、なによりも好意が無ければ来なくていい。
仮にも伝説の樹の下だ。オカルトを信じるわけじゃないが、強制的に気持ちを変えられたら、たまったものじゃない。
「俺と付き合ってくれないか? ずっと好きだった」
「し、志雄くん……」
一瞬の沈黙がと長く感じる。返事はまだなのかと、期待と不安が交差する。
「ご、ごめんなさいっ!」
「えっ?」
予想していなかった返事に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
この樹の伝説はデキレースでもないのか? じゃあ、誰がこんな話を広めたのか。
「志雄くんの事は嫌いじゃないけど、友達以上には思えないの……」
「そ、そっか、わかった。こんな所に呼び出して悪かったな……」
大好きだった彼女は「ごめんね」と、言って俺の前から去っていく。
俺の想いは、もう彼女にとどかない。俺はいったいどこで選択を間違えたのか……。
もしもやり直せるのなら、もう一度初めから、彼女と出会ったあの時に……。
俺の視界は真っ暗な深い闇の中へ落ちていく。闇の中で唯一見ることが許された文字。
それは、中央に残酷な程、大きく白い文字で【BADEND】と表示された。
「くそっ! またかよ!」
俺はコントローラを投げ捨てる。何度もプレイしているのに、エンディングまで辿り着けず俺はイライラしていた。このゲーム【ドキドキ学園メモリアル】通称【ドキメモ】は主人公の名前を自分に設定する事ができ、ヒロイン達に名前を呼んでもらうことが出来る。
この事がギャルゲーユーザーに大ブレイクとなり、ギャルゲー史上の幕開けとなった伝説のゲームだ。魅力のあるヒロイン達が自分の名前を呼んでくれるのなら非常にやってみたい。
そんな気持ちで、この【ドキメモ】を借りてプレイしてみたが、思いの他このゲームは奥が深く攻略が非常に難しい。まぁ、俺の場合は全般的にギャルゲーが苦手なだけな気もするが、しかし攻略サイトに頼るのも情けないので、見る気にはなれない。
そして、そんなことすればアイツが俺を許さない。自称ギャルゲーの女神。ここで自称ギャルゲーの女神の名言を述べよう。『ギャルゲーを制するものは、全てを制す』二次元とは非日常。俺達のリアルと比べると、とんでもないイベントの連続。そんな世界を神の如く先読みする事が出来れば、リアルは簡単に予想できてしまうらしい。
ふとっ、時刻を確認すると、掛け時計の針は八時丁度を差した。
今日は学園が休みの日曜日。普通なら時刻を気にする事はないが、俺は本屋でバイトをしている為、そろそろ準備を始めなければならない。テレビモニターを消して準備を始めていると、二階の窓がひとりでに開いた。振り向くと、一人の女の子が窓を跨ぎ部屋に入ってくる。
「あれ? もう起きてたの?」
「ああ、ゲームしてたからな。それよりも、また窓から入ってきたのか」
「志雄は幸せものだよ。可愛い女の子にギャルゲー的なイベントしてもらえるなんて」
そう言って、彼女は窓際のベッドに腰掛けた。まるで自分の部屋のように遠慮がなく、くつろぎだすのは、俺のリアル幼馴染水野美咲みずのみさき家が隣同士で家の構造上の都合があり、俺達の部屋は、窓から六十センチ程の距離を跨げば、簡単に行き来することが出来る。
「自分で可愛いとか言ってんじゃねぇよ」
と、言いつつも、美咲の可愛さは贔屓なしで事実上かなりのレベルだ。しっかりと手入れのいきとどいた長く綺麗な髪に、幼さが残る顔立ち。スレンダーの体系と低めの身長が美咲の魅力を引き立てている。
「ねぇ、志雄がやっていたゲームってこれ?」
美咲はベッドの脇に置いてあったゲームケースを手に取る。すると、突然目を輝かせた。
「ドキメモじゃない! 懐かしい~。ねぇ。志雄は、もう攻略したの?」
「いや、それが……。ずっとプレイしてたんだけど、全ルートBADENDでさぁ」
「このギャルゲーは、そんなに難易度は高く設定されてないはずだけど……。ちゃんとフラグさえ立てればエンディングまで簡単に進むよ」
「いや、フラグは立ってるつもりだけど、どうしても上手くいかないんだ」
「甘いな〝塩〟くん。名前のわりには甘すぎる。いっそ、砂糖に改名したほうがいいかもね」
美咲は片目を閉じて、左手の人差し指を左右に振った。
「人の名前をネタにするなよ。調味料じゃねぇんだぞ!」
「はいはい。まぁ、見てなさいって」
俺は嫌な予感がしてならない。俺の長年の感が『逃げろ』と、言っている。
「いい、志雄。そもそもギャルゲーは恋愛に置いて最も大切なことを教えてくれる。そしてこのギャルゲーは青春というリアルさを出すためにね、色々と工夫がされてるの」
そして美咲はテレビモニターの電源と、ゲームのスイッチを入れた。流れ出すギャルゲーのメロディー。懐かしさに感動する俺の幼馴染。そして、美咲の魂に火がついた。
『自称、ギャルゲーの女神』水野美咲。これまで攻略したギャルゲーは数知れず。
そして、俺をこの道に沈めたのも美咲だった。どちらかと言えば俺はアニメの方が楽で好きだ。って、余裕ぶっこいていると、美咲のギャルゲー講座が始まってしまう。
一度つかまると数時間は語りっぱなし、なによりもたちの悪いのは、ギャルゲーをプレイさせられ攻略するまで何度でもやらされる。
「美咲、悪い! 俺はこれからバイトだ! あとは好きにやっててくれ! じゃぁな!」
「ち、ちょっと! 志雄、待ちなさいよ!」
美咲の声が聞こえるが、わき目も振らず部屋から脱出し、俺は慌てて自転車に飛び乗ると、ペダルを力いっぱい踏み込み、美咲から逃げるようにバイト先に向かう。
俺がバイトをしている本屋は、新綾瀬駅から徒歩五分。とても便利な本屋さん。最近はマンガや新刊のライトノベルにも力を入れてきている。今月に入ってから、ラノベとマンガ本の本棚を五棚も増設している。正直やりすぎだと思うのは俺だけじゃなく、バイト仲間の意見でもある。
店長の刹那さんは、三十代手前でありながら、その辺のモデルに劣らないくらいのイケメンだ。
まぁ、性格に難点はあるのだが……女子高生やOLといった女性に人気があり、うちの書店『夢』はかなり繁盛している。
棚を増やした結果、店の通路は狭くなったが、売り上げがかなり上がっているらしい。お客の半数以上が女子高生やOLといった女だらけの空間に近いのは店長の力か?
「まったく、あの人どこのギャルゲーの主人公だよ! モテすぎだろ」
俺は店の駐輪場に自転車を停めていると後ろから声を掛けられる。
「誰が、なんの主人公だ?」
「刹那さん! 何でもありません」
いつの間にか店長の刹那さんが立っていた。
「今日は早いじゃないか?」
「あ、はい。ちょっとした理由が……」
俺は、さっきの出来事を刹那さんに話した。昨日徹夜で刹那さんに借りたギャルゲーをしていたこと。朝になると幼馴染が部屋にやってきて、ギャルゲーを発見され、全ルート攻略できなかったと話すと、勝手にギャルゲーをスタートして講義を始めたことを――。
「はははっ! お前それで、自分の部屋から逃げてきたのか」
「笑い事じゃないですよ……。アイツのギャルゲー好きは、もう異常さを感じます」
「まぁ、そう言ってやるな。好きな奴はリアルの飯よりギャルゲーを選ぶからな。それにしても、徹夜でプレイして一人も攻略できないとか、お前は才能無いとか以前の問題だな」
「なに言ってるんですか、これからが本番だったんですって」
「わかった、わかった。それよりも、さっさと着替えて、新刊のチェックと展開頼むぞ」
それだけ言って、刹那さんは事務所に向かって行った。
「えっ! 俺が新刊の展開やるんですか?」
刹那さんは振り返らずに、頭上で右拳を握り、親指を立てた。
「マジですか……」
俺は急いでスタッフルームに向かい着替えを済ませる。と、言っても紺色エプロンを掛けるだけに過ぎないのだが、早くしないと営業時間になってしまう。
十時には店を開けなければならない。あと残り一時間……。果たして間に合うのか、結構厳しいところだった。
まずは古くなり、傷みがある本を引いて、フェースを確保する。次に、新刊の納品書と照らし合わせ、在庫を確認。これが、一番時間が掛かる。
確認が終われば、あとは陳列するだけ……。
残りは二十分。何とか間に合いそうだが徹夜明けのバイトは辛い。俺は両頬に渇を入れ、残りの作業をこなしていく。
評価やコメントお待ちしてます。これからよろしくお願いします。