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天才魔法少女は爪を隠す  作者: 茴香バニラ
1章 幼少期
8/15

運命です


手にいれた金貨で手頃な服を手に入れつつ、街を見て回る。

中央にこの国の城があり、その周りに貴族の邸宅。

町人の街があってその裏手にスラムがある。

まだマシな暮らしが出来る平民たちはその外。ぐるりと王都を囲む塀の内に2階建ての建物を密集させて暮らしていた。


スラムの子はすぐに分かる。

着ているもの、その細い腕。痩けた頬。

彼らは露店商の周りをうろついては、旅行者や町人に施しを貰っていた。

どこの世界にもこういう存在があってしまうんだなぁ。


金貨の価値だけはドレイクに叩き込まれたので覚えている。

金貨が十万円

銀貨が一万円

銅貨が千円

鉄貨が百円

コルク石貨が一円だ。


コルク石貨というのは普通の石ではなく、オルスルテナの特産の石で、アルミというよりは大理石に近い。

というわけで、私でもお金さえ持っていればお買い物が出来る。


服を買って崩したお金で買い食いをしつつ、街を歩いて回っていると、コツコツと自分の足音と違う複数の音が近づいているのが分かった。

大方、可愛い女の子の一人歩きに物取りの勝機を見出だした馬鹿な盗人どもだろう。


暇だったので乗ってあげることにする。

好奇心いっぱいといった様子で歩き回る少女、人通りがほとんどない裏路地に入っていってしまう。

後ろから掛けられる声。



「嬢ちゃん、お上りさんかい?おじちゃんたちがいいとこに連れてってあげよう」



見れば悪い笑みを浮かべた3、40代の男が三人。

……テンプレ通りすぎだろう。


にこっと笑って幼い純朴そうな少女を演じる。



「いいとこ?」

「そうだよ。さぁ、おいで……っ!?」



ピリピリと静電気を魔力で集める。

私に向かってまんまと伸ばされた手に溜めに溜めた百万ボルトの静電気を食らわせる前に、男は伸ばした腕を押さえて踞った。



「「なっ!?」」

「その子に触るな。悪党が」



はらりとフードが落ちて、彼の横顔が覗く。


雷が落ちた錯覚。


顔の半分ほどを黒色の布で覆い、燃える炎の色の髪。

切れ長のつり目の色は美しい黒に青が混じったような色で。

人間の耳はなく、可愛らしい髪と同じ赤色の毛に覆われた猫耳が頭の上に着いている。

怒りのような表情を冷たく抑え込んだような顔で彼は手に持った小石をぽんぽんと手の上で放り投げては受け止める。


獣人だと……!?

か、かっこいい……っ!!


ミーハーだと言われようとも私はこういうシチュエーションに弱い。

たとえ、敵が私の力で何とかなるような雑魚だったとしても。



「じゅ、獣人……っ!?」



思わずその横顔に見とれてしまっていると、無傷だった男の内の一人が彼に襲いかかった。



「何しやがるテメェェェェ!」

「風を纏え!ストーンクラッシュ!!」



彼の投げた石が加速する。

正確に男たちの腕に投げられた石は弾丸のようになっている。

当たれば、ただではすまない。

さっきの男の腕もそうやったんだろう。

それにしても、呪文短縮って出来るんだ!!

何から何までかっこいいなぁ。


距離を詰められて苦戦するかと思いきや、男の腕を掴んで投げ飛ばす。

追い討ちの石礫がめっちゃ痛そう。


全員がぶっ倒れたあと、彼はすっと立ち上がって私の前にまで来た。



「大丈夫か?怪我はないか」

「え、あ、大丈夫です!!助けていただいたんですね、ありがとうございます!」

「ああ」



見れば見るほどかっこいい。

キースみたいなタイプではないらしく素っ気ないような返答も様になっている。

年齢でいったら、そう変わらないのではないかと思う。

まぁ、前世の私は大学生だったから、彼よりずっと年上で子供にしか思えなかっただろう。

なのに、今の私にはこの人が物凄く大人びていてかっこいいと思えた。

語彙力が足りない。彼のイケメン度合いを現すには私の語彙力が及ばない。

あと、あの耳、何とか触れないだろうか。

誘惑が強すぎる。



「とりあえず、ここは裏路地で危険だから離れよう」



誘われるがままに大通りのカフェに入る。

イケメンに大興奮しているのを落ち着かせるために、と温かい紅茶を頼んだ。

すると、何故か私の体が震えていることに気がついた。

あれ?何で……。


ああ、そうか。

私、自分の力を過信してはいたけど、自分より遥かに体格のいい男の人を三人も相手取るには精神的には追い付いてなかったんだ。



「大丈夫か?無理しなくていい。男三人に囲まれちゃ当然の反応だ」



イケメンは性格までいいのか……!!

私の心配までしてくれるなんて。



「まぁ、俺も獣人だからな。安心は出来ねーだろうが」



自嘲気味に笑う。

人族の中で少ない人種の獣人は差別を受けることが多い。

彼らが人族より優れた身体能力を持つことに嫉妬して、同時に脅威と感じているからだろう。

そのせいか、獣人は犯罪に手を染めることが多いのだ。



「いえ、一人っきりで心細かったのを助けていただき、ありがとうございました」



イケメンは驚いた表情をして、そのあと笑った。

もしかして、人族は獣人に助けられても礼を言わないのだろうか?

もしそうならこの国の礼儀作法に異議を申し立てねば!



「アンタ、変わってるな」



獣人なんかに、と続きそうな彼の言葉に呆れと喜びが滲んでいるのが嬉しいような寂しいような。

イケメンは一口紅茶を口に運んでから、忠告を始めた。



「女の一人歩きは危ない。特にアンタは見るからに良いとこのお嬢様だ。金目当てのやつにも、人拐いにも狙われるぞ。護衛の者はいないのか?」

「はい。故郷をでて魔術学園に通うために王都に来たのですが、まだ知り合いもいなくて……」



魔法に自信があるから一人でも平気だとは思った。

それでも、圧倒的に戦闘経験は少ないのだ。

一応、深窓の令嬢扱いは受けていたのだから。



「そうか。なら、俺がついていてやる。

この街に住んでいるから土地には詳しいぞ」

「え、そんな、ご迷惑をおかけするわけには……」

「構わん。今日は一日暇なんだ」



ふっと優しく彼の目が緩む。

ああもう!このイケメンめ!!



「それに、アンタが事件にでも巻き込まれたら目覚めが悪いしな」

「う……。それでしたら、よろしくお願いします」



あまり断りまくっても悪いので、了承する。

これから巡ろうとしているのは、男性連れでも平気な魔術書の店と鍛冶屋だ。下着屋はもう済ませていて良かった。



「分かった。自己紹介がまだだったな。俺はギルガディス。平民だ。明日、第三学園の入試を受ける予定だ。アンタは第二学園か?」

「いえ、私も第三学園です!シュラと申します」



名字は言わない。面倒事は御免だからだ。

それにしても、ギルガディスさん、かぁ。

同じ学校狙いだし、一緒に受かったらいいな。

出来れば同じクラスになれるともっと嬉しい。



「シュラか、良い名前だな。名字は聞かねーよ。貴族には貴族の事情があるんだろうしな」

「ありがとうございます」

「同じ学校だから受かれば同級生だな。

シュラは魔法使えるのか?」

「ええ」



紅茶を間に挟みつつ、二人で話すのは楽しい。

それにしても平民か。短縮詠唱魔法が使えるもんねぇ。

トップ成績候補かな。



「なぁ、同い年なんだ。敬語はやめないか?」

「えっと……じゃあ、やめます。あ、じゃなくて、やめるね」



間違えたのはちょこっと笑って誤魔化す。

くくっと、ギルガディスは笑った。



「俺のことはギルとでも呼んでくれ」



拝啓 ドレイク様

イケメン獣人の知り合いが出来ました。



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